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「私から仕掛けておいて言うのもなんだけど、もっと怒るとか嫌な態度をとられるはずだったのだけど、今のところそんな感じはないね。

勇者を悪く言うにとどまらず、君の勇者信仰にまで口を出しているのだけれど?」


シーノは胸の内で色々と考えてはいそうだが、感情的には今のところなっていない。

ヌイが言うほど重い人間ではないとリトも言っていた。少なくともリトの前ではとても冷静で賢かったそうだ。


「いや、そう言われてしまうと逆に冷静になってしまうというか。

こんな風に面と向かって言ってこられるのも初めてなので面食らっているというか」


ここまでのやり取りでもわかる通り、彼は直情的な狂信者ではない。

じゃあ、"シーノが初めて勇者の自殺の話を聞いた時の様子"というのは本当なのだろうか?


「私ばっかりしゃべりすぎちゃったかな。失敗した」


もうなんか、何も話してくれない感じになってしまった。

これはさすがに反省せざる負えない。

基本孤独な私でも、どこかで人との関りを欲しているのかもしれない。だからこうして誰かと会話ができるとつい前のめりになってしまう。これも悪いクセだ。


ひょっとして、変わった人に興味を持つのは同類を探しているからとか?

こんな時に一つ新しい自分を発見する。


まぁそれはさておき、短い時間だったがシーノという人物に関われるのもここまでだ。

だから最後に私の予想を言ってみよう。


「あのさ、ここへ来るまでシーノってこんな人間なんじゃないかな?と思っていたことがあるのだけれど、言ってみてもいいかい?」


それを聞いてシーノは顔をしかめた。


「よくわかりませんけれど、それで気が済むのでしたらいいですよ」


なにやら変なことを言い出したが、それで帰ってくれるならいいだろう。なんて思ったに違いない。


「そう、じゃあ言わせてもらおうかな」


これで最後にするため、私はマグカップの紅茶をすべて飲み干した。


「君にとって、勇者は特別な存在でないといけない理由があるんじゃないかな。

その理由がなんなのかはわからないけど、救ってもらった家族ってやつが関係しているんじゃない?

その特別な人物を崇拝することで、自分という人間を確立している。いや、勇者を通してでないと自分を周囲に晒せないとか。

それを証明する手段の一つとして新聞屋で記事を書いている。

しかし、その勇者が自殺してしまった。これは大問題だ。自分の支柱が無くなってしまう。

だから、それが本当であるか自分の目で確かめる必要があった。なんとしてでも」


シーノの様子は変わらない。

当たっているのか、はずれているのかわからない。

というより、どちらでも構わないのかもしれない。


「そして確かめるにあたって、もし本当だった場合の保険が必要だと考えた。

それが、自殺という醜態を広めて勇者に価値を無くすこと」


私が話し終えて少し間が空き、シーノがわずかに首をかしげた。


「中途半端に有るくらいなら、いっそまったく無い方がマシということですか?」


まるで他人の話をしているような口ぶりだ。


「キューマ人にとって聖地がどのくらい重要かって人によるじゃない?

それを知っているタージュ人もいるけれど、タサン病の根源とあの大戦の後じゃさ、この都市でキューマ人が暮らしていくのは大変だったんじゃない?

そういった偏見を打ち消すための手段が、勇者の崇拝」


勇者を全肯定し続けているキューマ人を、タージュ人はどう思っただろうか?

得体が知れなかった。最後まで信じなかった人もいただろう。

でもその姿を見ていたら、少しずつでも安心していくのではないだろうか。

少なくともこのキューマ人は違うと思ってもらえるのに、それほど時間はかからなかった気がする。


「それでまぁ、ここからはまったく自信が無いのだけれど、なんといっていいか。

自殺を漏らしたのは、勇者という象徴が無くなればタサン病や大戦も一緒に風化して、キューマ人とタージュ人の溝も消えるのが早まるみたいな?

要するに…、君はキューマ人として目立ちたくない。それが君の根底にあったりして」


なんだそれ?

勇者が自殺したことで、それまでのことが無かったことになんてなるのか?

自分で言っていてわけがわからなくなった。

だけど、消去法っぽい感じで考えると、そのくらいしか思いつかなった。


それ以前に、とっくにもっと手前でコケている可能性だって全然ある。


「とまぁ、そんな人間を想像していたらちょっと会ってみたくなったってだけ。

ねぇ、もう帰るからさ、君にとって勇者ってなんのかだけ聞かせてよ」


私がそうお願いすると、シーノはぐっと俯いた。


「そうですね。命の恩人ってところは変わらない事実です。

ただ、勇者にすがっていたっていうところはもしかするとあなたの言う通りなのかもしれません。

勇者に関する仕事を通してでないと、あまり人と関わってきていなかった気がします。

勇者無しだと、この角がどうしても気になっていたのかもしれません」


私がシーノに抱いた印象。

なにか黒いものを隠しているが、それが少しずつ漏れ出して、今はだいぶ楽になった。

そんなところ。


あと、言っていなかったことが一つだけ。

大きな夢もない。深い罪もない。ただひっそりと生きているだけ。

そんな人間が勇者の秘密を暴く中心人物になっていた。

それも私が興味を持った理由だった。


まるで偶然生まれた勇者のダイイングメッセージ。考え過ぎだと思うけど。

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