Darkness
シーノは少し考えるような素振りを見せてからこう言った。
「言いたいことはわかりますけれど、僕は勇者に家族を救ってもらっています。
聖地といっても命あってのものですから」
たしかにその通りかもしれないという内容。
「家族を救ってもらったっていうのは?」
「…危うく殺されそうになっているところを、たまたま通りかかった勇者に」
なんだろう、薄っすらとだが寒気のようなものがする。
人と会話をしているはずなのに、トカゲを狩ろうとしている時の感覚がある。
基本孤独に生きている私が言うのもおかしな話だが、何を考えているのかわからない。
いや、考えがというより感情が読めない。
具体的な話を避けようとしている?
それをきっかけに勇者を崇拝しているのなら、もっと得意げに話してくれてもいいはずだが。
つっこんでもいいけれど、そういう場合のための嘘が用意されているかも。
「そっか、それで勇者のことが大好きになって、新聞屋としてそれを広めたいと。
でもさ、勇者が死んでしまったことを記事にしているんだよね?そのあとってどうしているの?」
私は一旦別の話によける。それはシーノを知った時から気になっていたことでもあった。
「特に変わらないないですよ。まぁさすがに書かせてもらえる量は減りましたけれど、もともと平和になってから勇者は表に出てきていませんから、そういう意味で」
「ふーん…」
やはり自分からは言ってこないか。
ならば直接聞いてみるまで。
「…本当に?」
私に疑うような態度をみせられて、シーノの表情が少し強張る。
「どういう意味ですか?」
「だってさ、君の記事はたしかに"勇者が亡くなった"ことしか書かれていなかったようだけれど、その死因が自殺だって話は結局色んなところに出回っているじゃん。
その影響が無いなんてことあるの?私は新聞なんて読まない人間だけどさ」
シーノが発表した記事には自殺はもちろん、それを匂わす内容も一切無かった。
一人静かに息を引き取ったことと、各地から集めた勇者への想いを綴った悲しくも温かみがある内容。
その新聞が出回った時は相当な騒ぎになったと聞いている。
それはそうだ。なんで王国からではなく新聞屋から情報が出るのか?と思うだろう。
結局色んな組織や団体が動いて、ひっそりと建てられたお墓も見つかり、勇者が死んだという事実は白日の下に晒された。
そう、そこまでだったらいい終わり方をしている。
本来だったら人知れず終わってしまっていたことが、悲しくはあるけれど人々の心に残ったという綺麗な終幕。
しかし現実は違う。
時間をかけてゆっくりと自殺だったという隠された事実まで浮かび上がってきている。
それはどこから漏れたのか?
私は話を聞いただけ。だから違う可能性だって十分ある。
シーノは私のことをしっかり見ているけれど、何も言ってはくれない。
ありのままを話してくれればいい。
もしくは適当にあしらわれることも想定している。
なのに何も言わない。もしかして、私が聞きたかったことをもう察している?
まぁ、さすがにそんなことはないか。
でも、本題に入らせてもらおうかな。
「ねぇ、これって君が原因なんじゃないの?」
シーノは、勇者が自殺したという情報を各地で漏らしている。
よりよい記事を書くためにやってしまったこと。とされているが、私からしたらなんでそれで片付けられているのか疑問であった。
だってそうでしょ?新聞屋が記事にする前のネタを漏らさないように気を付けるなんて基本、ちょっと想像すればわかることだし、ヌイって人の言い分も一理あるけれど完全にフォローできているとは到底思えない。
ヌイのフォローについては、まぁ拙い推測だけれど、勇者を崇拝するキューマ人を手元に置いておきたいっていう打算があったんじゃないかな。あんな失態と差し引いても。
私がこうして興味を持ったくらいだ。似たような人がいても別に不思議ではない。
となると、注目すべきはシーノの方にある。
うっかりミスなんてありえない。
だからあれは、"わざとやったこと"なんじゃないかと思っている。
意識があったのか?無かったのか?という疑問はあるが、常識的に考えてその方が現実的である。
誰しもうっかりはあるし、ありえないうっかりがあるのも現実だけど、そんなの百人いて一人いるかいないかって程度だと私は考えている。
ここまで会話をして、シーノという人間がその内の一人に入るようには見えない。
シーノは黙ったままである。
おそらく、失敗を追求されているのではなく、情報を漏らしたこと自体を言われているのをわかっている。
私の真意を探ろうとしているのだろう。
「勇者を崇拝することとは真逆ですけれど」
シーノはそれだけ言った。
「そう、そこがどうしても気になっちゃったからわざわざこうしてお邪魔しているってわけ」
あー、追い出されてもおかしくない態度をとってしまった。
自分が優位な立場なら、しっかり優位を示そうとしてしまうクセが出た。
しかし、見たいものはもうだいぶ見れた気もしている。
彼が何を言おうが、私の中ではもう、興味を持つに値する人物であった。




