秘密
もうこんなやりとりは何度目だろうか?
これまでだったらソリーサさんかウィルコさんが助け舟を出してくれた。
しかし、今回はさすがにそうはいかなかった。
ウルスさんが僕ではなく、二人の女性に向き直る。
「ソリーサや、ウィルコさんもそうですよ。いったいなんなんですかこれは?
ライブさんの死を受け入れきれないのならわからなくもないですが、こんな死んでしまった人の過去を掘りくり返すようなことを続けて。
あんたらにしかわからないことがあるのかもしれないですけれど、葬儀で聞いた話がすべてじゃダメなんですか?」
ついに怒りはソリーサさんとウィルコさんにも向いた。
僕がここにいるのも、もとはといえばこの二人が許可したこと。だからウルスさんも黙って従っていたが、葬儀が無事に終わったことで我慢する必要も無くなったのだ。
たぶん、馬車の中でソリーサさんとウルスさんでこのことについて少なからず話し合っているはずである。
それでもこうなってしまったのは、ウルスさんとして納得がいく説明がもらえていなかったのかもしれない。
「ウルス、私は大丈夫だから。こうしてちゃんと葬儀もできたでしょ。
シーノさんも別に私たちを騙そうとしているわけじゃないよ。同じ疑問を持っているだけ」
ソリーサさんがウルスさんの腕にしがみついて説得を試みる。
「だとしてもだ。こんなことをするのはおかしいだろ。
百歩譲って、気になることを調べるにしても今じゃなくてもいいだろ?
家に帰って、ゆっくり休んで、それでも諦められないなら、こいつじゃなくて俺が付き合ってやるから」
ウルスさんはソリーサさんが心配のあまり妥協案まで出している。
そんな互いに思い合っている夫婦を僕は喧嘩させてしまっている。
それを悔いるような思いをする中、ちょっとした違和感に気が付く。
いったん家に帰るという案は、まぁ普通の提案のように思える。
何かを調べたり、人に話を聞いたりできるのはおそらく後でもできそうである。
だけど、それは目が悪くて体力もないソリーサさんにも当てはまるのか?
家に帰ってしまったら事実上の断念ではないのか?
なんか、無理をしていないだろうか?
妻のために悪者になろうとしているように、僕には見えてきた。
「ウルスさん、もしかしてソリーサさんが知らないこと、ライブさんから聞いていたりするんじゃないですか?」
ウルスさんの表情が一瞬強張ったのがわかった。
僕を威嚇するような目は今まで通りだが、どこか雰囲気が変わった。
「…ウルス?」
その変化を逃すソリーサさんではない。
そしてそれに気が付けないウルスさんでもない。
二人の間に重苦しい空気が流れた。
「適当なことを言うんじゃねぇ。それもお前ら新聞屋のやり方か?」
何かを隠している。それがバレてなお隠し通す気でいる。
その様子をとても悲しそうな顔で見ているソリーサさんをウルスさんは見ないようにしていた。
ウィルコさんもこの事実に黙っていることができず、ウルスさんに願いでる。
「ウルスさん、私からもお願いします。知っていることがあるなら教えて。
私もソリーサと同様、あの人が孤独に死んでいくことを選んだ理由が知りたいの」
その時のウィルコさんには、どこか儚さのようなものを感じた。
まるでこれまでは気丈にふるまっていたような、今のが本来のウィルコさんかもしれなかった。
本来だったらそれほど難しい隠し事ではなかっただろう。
そこに僕という異分子が入り、そのストレスから過剰に強い態度をとってしまい、こうして明るみに出ることになってしまった。
この二人を相手に、一生悪者でいるのはあまりにも酷である。
そういう点では、悪者を変更することができるかもしれない。
「ウルスさん、ソリーサさんを信じてあげてください。彼女なら本当に大丈夫です。
僕は仕事柄色んな人と会ってきましたが、こんな芯があって強い女性はなかなかいないです。
どんな真実であっても、きっと受け止めて明るい未来を目指せます」
ウルスさんから見てどんなに白々しくても、僕はこの事に真摯であることを貫く。
そこに打算が乗っかっていようと、妻に協力的な者を最後まで無下にできるだろうか?
僕はウルスさんの心を大きく揺さぶる。
いつか、あいつの口車に乗せられてしまったと思われることになろうとも。
力んでいたウルスさんの体が脱力していく。
しがみついていたソリーサさんも体を離し、手を軽く握るだけになった。
まだ迷っている。最初に立てた誓いをそう簡単にやぶるような男ではない。
他に何か言えることはないか?
僕は勇者に関することを片っ端から思い起こす。
なにか、ソリーサさんは強い人だと認識できるような、ウルスさんの決意が緩むような、勇者はそこまで隠すつもりもなかったとか…。
あれ?…これってどういうことだ?
僕の中で一つ気になることが浮かび上がった。
「すみませんソリーサさん、お兄さんからもらったペンダントのことなんですけれど」
突然別の話を始める僕に、みんなの視線が集まる。
「もう一度確認させていただきたいのですが、二人だけの秘密のはずで合っていますか?」




