天
待つこと30分程度、建物のドアが再び開いた。
中から大勢の人が出てくる。写真で見たことがある人がちらほらいた。風貌が変わっているからか誰なのかわからない人もいるけれど、全員勇者と深く関係がある人なのだろう。
歴史に名を刻んだ者が何人もいる。気のせいかもしれないが、どこか普通ではない雰囲気を感じた。
男たちによって棺桶が最後に運び出されてくる。
先に外へ出ていた人たちは道をあけて立ち止まり、棺桶は建物の裏へと向かう。
みんなは列をなしてついていった。
列の最後尾にいたタリサージさんがこちらに視線を送っていた。
遠くから見守るくらいなら良いと言っていたことを思い出し、僕は離れたところからついていく。
建物の裏には何も無かったので少し疑問に思いながら歩いていくと、棺桶は林の中へと入っていく。
特に整備はされておらず、草や枝を踏みながら奥へと進んでいく。
しばらくすると、少し開けた場所に出る。そこには、石でできた台座に勇者の剣が突き立てられ、その前に大きな穴が開けられてた。
棺桶はそこにゆっくりと置かれ、その上から花が降り注ぐ。
故郷でも、妹がいる町でも、自分が暮らしていた場所でもなく、この北都市に埋められることになった理由がわかったかもしれない。
おそらく、勇者の剣のそばを選んだからである。
勇者の剣はマズー霊石でできた特殊な剣であり、魔法的な観点から研究対象されていたためこの北都市に寄贈されていた。
普段は研究所に置かれることになるのだろうけれど、たまにこうしてタリサージさんが剣も持ってきてくれることになっているのかもしれない。
勇者にとって、あの剣はそれほど特別なものだったのだ。
タリサージさんの進行のもと、勇者は大地へと埋められ、最後の祈り捧げられる。
その光景はどこか神秘的で、不意に僕の目から涙がこぼれた。
勇者は仲間たちに囲まれて丁重に弔われる。
勇者を心の底から尊敬していて、最初に話を聞いた時は勇者の死を受け入れず、今はその謎を追っている身であるにも関わらず、遠くからでもこうして最後の1ページに携われたことに感謝した。
ありがとうございます。あなたがいたおかげで、僕はここにいられるのです。
僕も遠くから勇者へ祈りを捧げた。
木々がささやき、やわらかい風が吹き抜ける。
まるで、勇者が天への飛び立っていったかのようであった。
葬儀が終わり、一人また一人とその場を後にしていく。
僕の存在はタリサージさんから聞いていたのか、ちらりと見られるだけで特に何も言われることはなかった。
ソリーサさんは最後まで勇者のお墓の前に残り、ウルスさんやウィルコさんが付き添っている。
その後ろに数人まだ見守っている人たちがいて、タリサージもいた。
気のすむまでそこにいさせてあげるつもりなのだろう。僕もそのつもりで待っていた。
ふと、ソリーサさんが後ろを振り返る。そして、ウルスさんに何かを聞いていた。
ウルスさんがさらに後ろを見渡し、僕を見つける。
厳しい視線を送りながら、ソリーサさんに何かを伝えた。
ソリーサさんがゆっくりと立ち上がり、タリサージさん達に挨拶をするとこちらに歩いてくる。
タリサージさんたちは少しだけその後ろ姿を見送ると、建物の方へと歩いて行った。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、とんでもない」
僕とソリーサさんで一言交わす。
横にはウルスさんとウィルコさんがいる。
ソリーサさんが簡単に葬儀の中で説明されたことを教えてくれた。
まず、勇者は自殺ではなく病死とされていたらしい。最後は自分の手によるものであった形跡があるが、それで自殺と断定することは難しいとのこと。
"自殺"と伝えたカプーリさんも葬儀中は何も言わなかった。
また、こうして秘密裏に葬儀が行われたのは勇者の希望であったらしい。
功績や評価はどうあれ、もう何年も経ったことでまだ勇者として扱われることに抵抗があった。
ぜんぜんあり得る話である。
実際にそういった形跡があるなら、自殺かどうかで判断が分かれることもあるだろう。
仲間だけの葬儀となったのも、実に勇者らしい判断だと思う。
なら、僕らが追っていることも実はなんでもない勘違いなのだろうか?
その可能性が高まった気さえする。でも、納得していない者がいるんだ。
ここまで来て、やめることはない。
「ソリーサさん、大変かもしれませんが一つやっていただきたいことがあります」
ぴくりとウルスさんが反応する。
僕に何かを言おうとする前に、今回は僕から言わせてもらった。
「ウルスさん」
予想もしてなかったであろう動きに、ウルスさんがわずかに驚いている。
「ソリーサさんにやってほしいことをお願いする前に、ウルスさんと二人で少し話をさせてもらえませんか?」
「はっ?なんで俺と?
お前、ソリーサにいったい何をやらせるつもりだ?」
ウルスさんに怒りが溜まっていく。拳は握られ、いつ飛んできてもおかしくなさそうであった。
その強く拒否する態度をみて、僕はいきなりやり方を間違えたことに気が付いた。
なんとかウルスさんの本音を少しでも引き出して、そこに、ソリーサさんがいかに兄の真実を知りたいと思っているかを伝えようと考えた。
なのに、ウルスさんと話すことばかりに気を取られてしまい、怪しげな取引を持ち掛けようとしているように見せてしまった。




