結末へ
「良いように捉えると、今の世は栄教ドレアの願いによって世界が平和になっていたりして?」
違うとは思うけど一応といった感じでリトさんが悩まし気にそう言った。
「仮にそうだとすると、部族や伝統は関係のない勇者にマズー霊石を渡して剣を作らせてくれたのも納得がいく?まぁ、そもそも採掘が禁止にされていたのかもわからないけれど」
ヌイさんがその線の可能性を付与する。
「でも、それだとソリーサさんに渡したマズー霊石がよくわからなくなりますよ。勇者との関係性を秘匿にしているっぽいのに、それを勇者に伝えていないとは考えにくいです。勇者が黙って渡したとも思えにくいですし」
「そうだよなー」
「そうだよねー」
リトさんとヌイさんの声が重なる。
それを境に三人とも考え込んでしまった。今のところ誰も通っていないので別にいいのだが、傍から見たらちょっと怪しい集団になっていたかもしれない。全員北都市の人間ではないので、犯罪の匂いがしなくはないかも。
「推測はここまでだね。あとはタリサージって人が何か話してくれないとほぼ詰みかも」
ヌイさんが積み上げてきた予想をまき散らすように両手を開いた。
「かもな。人為的に痕跡を消しながら事を進められたんじゃ外野は為す術が無い。
なにかしら綻びはあるかもしれないが、かなり無茶をすることになる。
それはもう取材という域を超えることになるんじゃないか?」
リトさんは探偵をしているわけだが、僕らがたとえ依頼をしたとしてもその仕事は受けないという意思表示なのだと思った。
不倫やらなんやら他人の秘密を暴くようなことをしているかもしれないが、この件は全員を不幸にする可能性がある。だから受けないということだろう。
「綻び。もうソリーサさんのペンダントが唯一残された手がかりですね」
僕が思うにあとできることと言えば、ペンダントの存在をタリサージさんに伝えて、知っていることがあれば教えてもらうことくらいかもしれない。
何も話してくれない可能性が高いが、ソリーサさん一人だったらわずかに希望があるだろうか?
僕はそれを二人に提案してみた。
「そうだね。私もそれくらいしか思いつかないや。
まぁ、もしタリサージさんがペンダントの存在を最初から何も知らなかったら、とても細いけど別の道が残るかもしれないし」
「お前が葬儀に戻るなら、俺らは一応この都市で葬儀を行った理由を探ってみるか。
俺はあまり勇者に詳しくは無いけど、たしかそんなに関係無いよな?」
三人で今後の方針を確認し合い、それぞれ元来た道を戻っていく。
僕のやる事は一つ。ソリーサさんからタリサージさんにペンダントの話を聞きに行ってもらうこと。
そのためには障害が一つある。それがウルスさん。
あの人は愛故だと思うがソリーサさんに少々過保護な気がする。
たしかに、目が不自由な上に、勇者の妹ということもあって、世界が平和になった直後はきっと苦労があったはずだ。たとえ善意であっても、それをすべて受け入れることは常人には厳しい。
嫌な思いもあっただろうから、あの厳しさが生まれているはず。
僕は新聞屋だ。出会った時にも言っていた気がするけど、信頼されていない人種である。
ソリーサさんが積極的であっても、それを認めるのかはかなり怪しい。
ウィルコさんに対しては少し弱いところがあるので協力を受けられるならそうしたいが、かえって不信感を募らさせてしまうかもしれない。
ここまでずっと僕は優遇されてきてしまっている。どうなるかわからない。
様々な状況を想定しながら葬儀が行われている建物まで戻ってくる。
特に変わった様子は無く、扉も固く閉ざされたままであった。
もう終わってしまっているとは考えにくいが、急ぎ足で建物の周辺を回ってみる。
一階の窓はどれもカーテンが閉められていて中を覗くことはできない。二階以上は開いているようだが、登れるような木などはなくどうすることもできない。
地面はむき出しの土で、朝から降っている雪でわずかにぬかるんでいた。だから集団で外に出ていたのなら跡が残っているかもしれないが、それらしきものは無かった。
やはりまだ中で続いているのだろう。棺桶が出られるようなドアは他にはなかったので僕は両開きのドアの前で葬儀が終わるのを待った。
借りている上着が温かいので空気の冷たさを感じるのは顔と手だけであった。
その手をポケットにしまうと顔だけがひんやりとする。
鼻が少しだけツンとするが、この冷たさが頭をすっきりさせてくれている気がした。
相変わらず緊張している。それでも最初よりはましだと思えた。やはりあの二人と意思を確認し合えたのは大きい。
いずれは、僕もあの二人のような頼れる大人になりたい。
この旅も終わりを迎えようとしている。
まさか四大都市をすべて回ることになるとは思わなかった。
東都市はただの出発地点でしかないが、四つすべてを見たことに変わりはない。
本当に長い旅だった。この旅の結末は僕に何を残してくれるのだろうか?




