軌跡
魔法使いの名前がタリサージということがわかってから、もう少しだけ粘ってみたが特に収穫も無く、これ以上しつこくしたらウィルコさんたちまで怪しまれてしまうと考えておとなしく引き下がった。
僕は数歩下がって、あきらめた意思表示をする。
みんなはそれを察し、建物の中へと入っていく。
全員がタリサージさんを通り過ぎると、タリサージさんは僕に向かって小さく頭を下げ、ドアをゆっくりと閉めた。
さて、これからどうしたものか?
埋葬までどのくらい時間があるのかがわからない。かといって、ただここで待っているだけというわけにもいかない気がする。
リトさんが言う通りヌイさんたちもこの都市に来ているならどうしているだろうか?
勇者の葬儀が行われる場所を特定することは困難だが、僕がリトさんに伝えたウィルコという存在から親戚の家を探し当てるくらいならやってのけそうだ。
出かける時には見かけなかった。どこかに隠れていたか、まだ探している途中。
あの二人のことだ。僕と合流できずに終わるなんてことは無いはず。
そこを信頼するなら、少しでも合流しやすくするには、僕が引き返すのが良さそうだ。
僕は小走りでウィルコさんの親戚の家を目指す。
親戚の家からここを目指そうとした時、行く道はほぼ一本なので入れ違うことは無さそう。
そこの角を曲がったら親戚の家だというところで、二人組がこちらに向かっているのが目に入った。
向こうもこちらに気づき走り寄って来てくれる。
「その様子だと中には入れてもらえなかったようね」
顔を合わせるなりヌイさんから一言いただく。
「引き返してくれたってことは俺らのことを信用してくれていたのかな?」
リトさんが冗談混じりで言う通り、この二人と無事合流できたことへの安心感がすごい。
「あの、タリサージっていう魔法使いの名前に心当たりはありませんか?」
さっそく本題に入り、僕はなぜその魔法使いについて尋ねたかを説明した。
すると、リトさんがすぐに反応してくれる。メモ帳を取り出し、最近書き込んだであろうページをめくる。
「あった、タリサージ=ダーテ。魔法と大地の栄教ドレア、その現教祖」
「名前しか聞いたことないわね。かなり昔からあるみたいだけど、地元密着型であまり人を迎え入れたりしないから実態がよくわからないとか」
「なんで俺がこの名前をメモしていたと思う?」
「勇者が暮らしていた場所から近かったってこと?」
「そういうこと」
栄教ドレアは基本的には自給自足で生活しており暮らしぶりも謎に包まれているが、周辺の町や村と定期的に交流はしていて信頼関係を築いている。
だけど、怪しい噂が後を絶たなかった。
やって来ることはあっても迎え入れてくれることが無かったし、やって来る人がすぐに変わってしまいそれっきりになってしまう。それは慣れ合いを避けていると思われてもしかたない。
それに、肝試し感覚で近づいた子供たちが変なものを見たと逃げてくることもしばしばあったとか。
「そんな連中の教祖様が勇者の葬儀を取り持っていて、勇者を連れ出した人であり、マズー霊石を渡したかもしれないってことか」
「リトさんが持っている、投げつけられたマズー霊石って栄教ドレアが何かした後ってことかもしれませんね」
僕の言葉を聞いて、ヌイさんがにっと笑った。
「その推測、もしかしたら当たっているかもしれないわよ」
「どういうことですか?」
ヌイさんはカサオーで三手に分かれた後、勇者の葬儀について探りつつ、マズー霊石についても調べていたらしい。
勇者と関係が深そうであったからでもあり、
"それは願いを叶える軌跡の石。されど試練からは逃れられない"という伝承が、"奇跡"ではなく"軌跡"であることにもちょっと引っかかっていたから。
その伝承がある集落へ行くことはできなかったが、カサオーで読める文献をかたっぱしから確認してみたところ、気になる風習と歴史が見つけた。
なんでも、厄災に備えて願いの源を蓄える儀式があって、それを私利私欲で使おうとした集団のせいで対立が起こり、その集団は追放されたとか。
それを聞いたリトさんが軽く推測を立ててくれる。
「その追い出された集団ってのが今の栄教ドレアだったらかなり確信に近づいていそうだな。
放浪の旅の末、偶然他の山でもマズー霊石を見つけ、その地で叶わなかった私利私欲の願いを叶えようとしていたとか。
勇者の自殺ってやつには、伝承でいう試練っていうのが関係してくるんじゃないか?」
ヌイさんが少し首をかしげる。
「悪魔の契約みたいにその人の命をってこと?それだと勇者の願いを叶えたことにならない?」
自殺でないとなると、代償といえそうなことはこれしかない。
「じゃあ、世界平和ってのが試練なのではないですか?それを実現できる人物としてライブさんが選ばれて、勇者になった」
なぜ、ただの少年であったライブが選ばれたのか?という謎が残る。
だが実際に世界平和を実現しているのだから、何か理由があるはずだと思った。




