決壊
「すみませんソリーサさん。改めて確認させていただきたいのですが、そのペンダントはお兄さんが勇者として旅立つ前にくれたもので、そして最後に会った日に中に入っていた宝石を渡したということで合っていますか?」
「はい、その通りです」
「その時に暮らしていたのは、東都市マーコヨハと南都市ワナキーオの間あたりですよね?」
「そうです」
だとすると、マズー霊石がある山脈はあまりに遠い。
予定よりも帰りが遅くなっていたと言っていたが、まだ勇者でもないただの少年が行くには無理がある。
そうなると、誰かからもらったとか?
あれこれ考え始めてしまった僕に、ソリーサさんが不安を感じていた。
「あの、兄からもらった宝石に何かあるのですか?」
わかっていることはほぼ無いが、勇者の話をしてくれているソリーサさん対等であるために僕が持っている情報をすべて教えた。
「そうだったのですか、兄はそんな生活を」
人里離れて暮らしていたことは本人や仲間から聞いていたようだが、マズー霊石に関することはやはり何も知らなかった。それどころか、聞いていた話よりも寂しい暮らしをしていたことをソリーサさんは悲しんだ。
「お兄さんは何か目的を持っていて、それが、その、自殺と関係しているのではないかと思っています。
それに、これは本当に僕が勝手に思っているだけなのですが、旅立ちの時にいた魔法使いが気になります。僕は色んな勇者の話を読みましたが、そんな人が出てきたことはないです」
そして、勇者が内緒で渡したペンダントも出てきていない。
どちらも勇者が隠していたこと。無関係とは思えなかった。
妹のために頑張っていた兄が、その妹を長年放っておいてまで何がしたかったのか?
その先にあるのは誰もが知る世界平和なのだが、勇者は本当にそれを目指して…?
わけがわからなくなってくる。
勇者と無関係な人ほど無関心だけど、勇者を勇者と認識していて。
勇者と少しでも関係があった人ほど関心があって、勇者とは違う見方をしている。
僕はそのどちらでもない。わずかに勇者と関係があって、強い関心があり、勇者は勇者だと信じている。
そんな僕でもついに勇者への信仰が揺らいだ。
そもそも自殺なんてしてしまった時点で不動であることが不可能であった。
それに様々な見解も聞いて、周りとの認識のずれを知覚することにも繋がった。
僕の勇者崇拝は、みんなの意識より少し高くあるだけと思っていたが、それは間違いだった。
僕の知っていた勇者は、何か別の意思によって作られた部分があるのかもしれない。
思考が本題からそれてしまった。
自分が信じてきたものを疑うというのはこんなにも怖いことだったのか。
だとしても、今はそれを考えるべきではない。
「兄は、その人に騙されていたとか、そういうことでしょうか?」
「それはない気がします。騙されて世界平和に貢献させられたとして、その後に不幸になっているとは思えません」
そう言っておいて不安がよぎる。ならなぜ自殺してしまったのか?
ソリーサさんも同じことを思っただろうけれど、それを言葉にはしなかった。
ソリーサさんと勇者について話をさせてもらった後、僕は町へと歩き出した。
謎の魔法使いの存在がわかった後もしばらく色々と聞かせてもらったが、特に気になる情報は無かった。
というのも、ソリーサさんが話す勇者はどこにでもいる普通の兄だった。そんな兄が少し無茶なことに挑戦したことがあるか、世界を平和にした勇者になったかくらいの違いしかない。
そう、勇者は普通の人間なのだ。
たまたま何か大きなものを授かったり、周りと比べて大局を見ていたり、そういった差が後々仕事に現れるなんて話はあるけれど、その程度の話である。
しかし、その差を知っているかどうかで見方がだいぶ変わるようだ。
また思考がそれてしまった。
自分でも無理はないことだとわかっているが、それでも今は迷っていてはだめだ。
勇者の自殺について重要な存在であるマズー霊石と謎の魔法使い。
この二つの正体がわかり、関係が露わになった時、自殺の理由が判明しそうである。
謎の魔法使いについては、もしかすると勇者の葬儀でわかるかもしれない。
ソリーサさんが声を聞いている。大昔にちょっと聞いただけとはいえ、目の代わりに耳で相手を認識してきたソリーサさんならわかるかもしれない。
仮にわからなかったり、その場にいなかったりしても、勇者の仲間たちに聞けば何か情報が得られるかもしれない。
そうなるとマズー霊石についてはどうしたらよいか?
謎の魔法使いがすべてを知っていて話してくれれば解決するが、ここまで秘密しておいて今更話してくれるだろうか?
「おーい!!シーノじゃないか!」
あれこれ考えながらふらふら歩いていると、野太く大きな声で呼ばれた。
この町に知り合いはいないはず。人違いでは?と思いながらも周りを見渡した。
小走りでこちらに近づいている男がいる。それはなんと探偵のリトさんだった。




