兄のこと
そして最後に僕はこう締めくくった。
「記事に何を書くことになるかはわかりません。
でも、勇者に何があったのか、勇者は何をしていたのかを知りたいと今は思っています」
勇者に対する思いが人それぞれあって、当たっているところもあれば外れているところもあるだろう。
それはきっと僕も同じなのだと思った。どんなに強く思っていたとしても。
どんな結果であれ、勇者の今まで知らなかった部分に目を向けたい。それを受け止めるのも崇拝の一つであるとも考えている。
「わかりました。私からしてあげられることは無いかもしれませんが、私たちではできないことをお願いします」
ウィルコさんはそう言って僕を受け入れてくれると、視線を窓に向けてしまった。
そういう状況ではないことをわかっているが、北都市ホロッサまでの道のりは長い。
できることなら、少しくらい勇者の話を聞きたかった。
しかし、僕からその話を振るにはこの件と絡めないとちょっと変な感じになる気がする。こいつ本当に大丈夫なのか?と心配されるような。
これはこれ、それはそれ、ではあると思うのだけど。
しかたなく僕も別の窓に目を移す。
それと入れ違うようにウィルコさんがまた声をかけてきた。
「そういえば、しばらくすると休憩のために町へ寄り、そこで水や食料を調達します」
「そうですか、わかりました。たしかに結構走りましたからね」
「その時に、ウルスさんには荷物運びを手伝ってもらおうと思っています」
「それでしたら、僕にもやらせてください」
ウィルコさんが小さく首を振る。
「大丈夫です。その代わり、ソリーサの傍にいてくれませんか?」
その問いに、僕は少し緊張した。
これは単純に守ってやってほしいとかそういうことではない気がする。
そうでないなら、僕なんかに期待すること、僕だからやりそうなこと。
「も、もしかしてですが、その間にウィルコさんにしたような取材をソリーサさんにしてみないか?ということでしょうか?」
「はい、察ししていただけてよかったです」
「どうしてですか?」
せっかく時間が経って気持ちも落ち着いてきたところだと思うのに、また蒸し返すようなことをしていいのだろうか?
もしまた悲しませるようなことがあれば、今度は確実にウルスさんに殴られるし、僕もつらい。
「あなたも心配するように、あの子をまた悲しませることになるかもしれませんが、勇者のことをある意味よく知っている私たちには言えないことも、もしかしたらあるかもしれません。
あの子なりに真実へ向かおうとしているのなら、わだかまりとして残っているものを言葉にするのもいいかもしれないと思っています。
それは、もしかしたらあなたのためにもなるかもしれません」
本当にいいのだろうか?いくらウィルコさんの提案でも飲み込み切れない内容であった。
ちょっと憶測が過ぎる。ウィルコさんなりに思う所があるのだろうけど、詰めが甘いというか。
いくらウルスさんからの盾になってくれるかもしれないからといって、ソリーサさんの気持ちはどうでもいいというわけではない。
しかし、だからと言って何も聞かないままでいていいのか?と問われると困ってしまう。
マズー霊石をソリーサさんに渡しているという事が、勇者の自殺と関係がありそうなのだ。
僕は、ウィルコさんに話を聞いてみると返事をした。
だけどその胸の内は、話してくれそうな様子だったらという条件付きだった。
気が重い予定があると、思っていたよりも時間が経つのが早く感じるものだ。
あれやこれやと頭の中で想定を作っていると、時間がどんどん過ぎていく。
馬車が町に着くと、少しばかり人だかりになってしまった。
かなりの高級馬車が二台も並び、黒服の男性たちに下車を手伝ってもらう女性。
こんな田舎に貴族が来た?と町の人たちはおっかなびっくりな様子である。
そんな雰囲気にも慣れているのか、ウィルコさんたちはさっさと宿の手続きを進める。
馬車の中で話があった通り、ウィルコさんたちは買い出しに出かけることになった。
ソリーサさんだけでなく僕まで残ることに、ウルスさんは当然不信感を持っていた。
嘘でもなんでも、僕は何もしないと一言いえればよかったのだが、悪者になるのが怖くてうまく言葉が出なかった。
その様子を見たウィルコさんがわずかに不安の色を浮かべていて、僕は板挟みのような状態になってしまう。
そこに救いの手を差し伸べてくれたのはソリーサさんであった。
僕がここまで何もしていないこと、ついて来てくれるようにお願いしていること。
それらをまじえてウルスさんを説得してくれる。
ウルスさんはそれでも不満げではあったが、ソリーサさんの平気そうな様子をみて、しぶしぶ承諾していた。
僕とソリーサさんで、買い出しに向かう面々を見送る。
角を曲がって見えなくなったところで、僕らは宿の中へと戻っていった。
「ごめんなさいねウルスが」
「そんなこと、当然の心配だと僕も思います」
一番しんどいのはソリーサさんなのに、こうして僕に気を使ってくれる。
僕はこの人から、これから亡くなった兄の話を聞けるのだろうか?




