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最終地点

翌日、僕はなんとも立派な馬車に乗せてもらっていた。

ウィルコさんが手配した馬車のようで、僕はソリーサさんや黒服の二人と一緒に乗せてもらっている。

ウルスさんとウィルコさんは別の馬車になる。

船で先にウィルコさんがソリーサさんの所に着き、勇者のことを伝えて、ある程度気持ちを落ち着かせてもらってからついて来てもらう段取りだったようだ。

手際の良さもそうだが、この馬車はそれ以上に気になる豪華さがあった。たまに揺れがあるもののまるで家の中にでもいるかのような快適さ。こんなものを人のために用意できるウィルコさんとはいったい何者なのだろうか?

調べたらすぐに出てくるくらいの大物かもしれない。


目的地は、北都市ホロッサ。

気温が低く雪が多い土地で暮らすには何かと不便ではあるが、そこで生き残るために培われた知識や技術が今では様々な都市で活躍している。

特に魔法関連が発達していて、魔術師を目指す者はみな北へ向かって行く。


なぜ北都市ホロッサなのか?

それもウィルコさん、カプーリさんにもわからないらしい。

何かと隠し事が多いが故、ウィルコさんやソリーサさんは僕を不確定要素として巻き込んでも良いと考えたのかもしれない。

新聞屋だが勇者を崇拝しているという点も加味されているところだと思う。

だからと言って葬儀にまったくの他人を連れて行くのはかなり問題があるだろう。

そこを飲み込んでまで僕を乗せてくれているのは、やはり勇者の自殺に納得いっていないのだ。


そこへいくと、妹のソリーサさんも同じであったと考えられる。

はっきりさせたいという性格もあるのだろうが、自殺しました、後で説明しますでは収まらない思いがあったに違いない。


「シーノさん」


ウィルコさんに声をかけられる。


「なんでしょうか?」


「もしよければ、ここへ至るまでのお話を聞かせてもらえませんか?

変なことを言いますが、ただの偶然でも無いような気がしています」


ここまできたきっかけ。新聞屋での一幕を思い出す。もうどのくらい前のことだ?

僕は話しても良いと思った。良くも悪くもずっと人に話をしている旅である。ウィルコさんには黙っておく意味も無いだろう。こうして馬車に乗せてもらっている恩もある。


「わかりました。たいした話にはならないと思いますが」


僕は話し始めた。

新聞屋で勇者の自殺を知ったこと。西都市カサオーに向かう道中で勇者の話を聞いたこと。新聞屋の先輩と合流して勇者の家へ行ったこと。作戦を立てて船に乗りウィルコさんに会ったこと。南都市ワナキーオで幼馴染に再会したこと。そして、ソリーサさんを訪ねたこと。


まだ記事にしていないことを洗いざらい話してしまっていいのか?という抵抗もあったが、ここまで来ると僕だけの取材という感覚も無かった。

色んな人の協力があって今ここにいる。なるようにしかならないと腹を括った。


「そうでしたか。私が思っていたよりもカプーリさんの意思に近い人だったのですね」


ウィルコさんの言い方が少し仰々しく聞こえたが、隠し事も無くすべて話したことでいくらか信用を得られた感じがあった。


「それがどうかはわかりませんけれど、前にも言いました通り勇者は僕にとって恩人です。新聞屋として記事を書くためにここまで来ましたが、真実を知りたいというのが一番の目的です」


それを聞いたウィルコさんが少し目を細める。


「その言葉に嘘は無いと思いますけれど、その真実が残酷なものだったとしても?」


「どういうことですか?」


「お話を聞いた限り、あなたは勇者のために行動しているように感じました。

でも失礼ですが、追っているのが真実なのか、それとも理想なのか…」


もし、今までの取材をひっくり返して勇者がただ自殺をしただけだった場合、僕はそれを受け入れられるのか?

ウィルコさんが聞きたいのはきっとこんなところだろう。


思い返せば、すべての取材に僕は多かれ少なかれ反感のようなものを持っていた。

僕のように怒るでなく、悲しむわけでもなく、記憶を元に結果の理由を述べているだけだった気がする。

それでいい。感情が乗っていてもいいが、論理的な見解をもらえる方が新聞屋としてはありがたい。

ただ、いつまでも勇者のことを想っていた僕が時代に取り残されているような感覚があった。

極めつけが幼馴染のキモンの取材だ。もはや無に等しかった。

新聞屋として実りある旅であり、勇者の真実に近づいている手ごたえも多少あった。

その代わりその真実に、嫌な予感も感じていた。


「たしかに、そもそも自殺と言うこと自体を信じていないところから始まりました。

いくら信頼している先輩からの情報とはいえ、それ以上に勇者のことを信用していましたから。

だから、もちろんまだ自殺ではない、もしかしたらまだ生きている可能性すらあるとも思っています。

もっと言うなら、勇者に近づけているこの状況を楽しんですらいるかもしれません」


素直に思っていることを返した。ここに嘘を着くことはできない。

本当は勇者本人から色んな話を聞きたかった。それを記事にして世界に広めたかった。

でも勇者がそれを望んでいないとわかっていたからしなかった。


ウィルコさんは微動だにせず僕の言葉に耳を傾けてくれていた。

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