お守り
誰も何も言わない、沈黙の時間が続いた。
各々どうすればこの場を打破できるのかを考えている。
僕は同行させてもらう方法を、ウルスさんは逆に僕を排除する理由を、ウィルコさんは僕寄りだとは思うけれどまだ何を考えているのかわからない。
また、同行できたとして一つ問題が生じる。
ヌイさんたちと合流できないまま葬儀が始まってしまうということだ。
たぶん最速で向かうだろうから手紙などでは間に合わない。
そうなるとここから先は僕一人で立ち向かうことになる。
仮に、事前にヌイさんたちに相談できたとして、きっと同行することに賛成してくれるだろう。
問題なのは、熟練者からの助言が無いこと。
このままでは葬儀を目の前に何も得られず終わってしまう可能性が高い。
しかし、同行しないという選択肢は無いのだ。
ここで一旦合流なんて、失望させるだけである。
だから、考えるべきはどのような形で同行させてもらうか?である。
色々な思惑が錯綜する中、事態を急変させたのはソリーサさんであった。
「私は、シーノさんに同行してもらっても大丈夫です」
思ってもみなかった提案に、ウルスさんが困惑する。
「おいどうしたんだよ。なんでそんなこと?」
ソリーサさんの顔が僕の方を向いた。
悲しみに曇っていた瞳に少し光が戻っている。
「私も、お兄ちゃんが死んでしまったことで気になることがあるの」
ソリーサさんは立ち上がり、少し離れた所にあったタンスに向かう。
膝をついて一番したの引き出しを開けて、中から何かを取り出した。
それを持ってきて、僕らに見せてくれる。
それは、飴玉くらいの大きさの物を入れることができるペンダントであった。
ソリーサさんが開けると、中は空であった。
「最後にお兄ちゃんがここへ遊びに来てくれた時に、ここに入れていたお守りを渡したんです。
理由を聞いても教えてくれなかったし、ずっと持っていたものだったから嫌だったけど、すごく真剣だったから渡しました」
ソリーサさんがまだ言葉を続けようとしていたが、そのお守りに思い当たるところがあり思わず遮ってしまった。
「マズー霊石!」
突然のことに自分でも驚いてしまう。ソリーサさんとウルスさんもびっくりしている。
その中で一人、ウィルコさんだけは違う驚き方をしていた。
「シーノさん、なにか知っているのですか?」
ソリーサさんは、あったはずのお守りを探すようにペンダントを指でなぞり、僕にそう聞いた。
確証は無いけれど、可能性は高いと思った。
ソリーサさんに贈られていた過去、マズー霊石のある山に通っていたと思われる勇者、そして、その勇者がわざわざ死ぬ前に取りに来ている。
これは何かある。心臓が大きく鼓動した。
「ソリーサさんは、そのお守りがなんであるかは知らなかったのですか?」
「はい、お兄ちゃんからはめずらしい宝石としか」
マズー霊石であることを勇者は隠していた。そして、それを十何年越しに取り返している。
いったいなんで?マズー霊石にはなにかある?
"願いを叶える軌跡の石"
この伝承に何かヒントはないだろうか?
ただの言い伝えなら本当にただのお守りということになるが、取り返す意味がわからない。
葬儀で予定されている説明とは、マズー霊石のことなのか?
うーん、今の状態では考えるだけ無駄なような気がしてきた。
「あっ、すみませんソリーサさん。まだ何か言われようとしていた気がするのですが」
いったん、ソリーサさんの話に戻ることにする。
「えと、あっ、それでですね。あのお守りはお兄ちゃんから二人だけの秘密とも言われていたんです」
「秘密に?」
「はい、だからきっと、このままじゃお兄ちゃんがなんでお守りを取りに来たのかがわからない」
ソリーサさんが僕の同行を望んだ理由が少しだけわかった気がした。
さっき言っていた通り、ソリーサさんはお守りの真相を知りたがっている。もしかしたら自殺に何か関係があるかもと思ったからだ。
でも、目が不自由な自分一人ではそれを探せない。ウルスさんはソリーサさんの手助けで手一杯になる。ウィルコさんは力になってくれるだろうけれど、勇者がお守りのことを隠していたという点を考えると何か不都合があった可能性がある。
不都合があるとしたらウィルコさんの周りであり、こうして話をするくらいには信用できると判断しているのだろう。
そこで、まったくの外部の人間である僕にわずかな望みをかけたというわけだ。
「他の、勇者と親しかった人たちではダメだったのですか?」
「そういうわけではないのですけれど、お兄ちゃんは私と皆さんを遠ざけようとしていた節もありました。だから、もしかしたら…」
失礼な話ではあるが、ソリーサさんは僕が思っていたような女性ではなかった。
勇者や仲間たちに大切に守られて、静かに暮らしているだけの人だと思っていた。
でも違った。
兄の死に悲しむばかりでなく、知りたいこと、納得いかないことがあればすぐに立ち向かうとしている。
人の機微にも鋭く、そのうえで自分がどうすべきかをよく考えている。
僕はこの人の勘に、賭けてみたいと思っていた。




