互いの目的
ひとまずは自己紹介をしながら実の妹を相手に勇者語りから入った。
ソリーサさんは勇者の旅に同行していたわけではないが、ご本人からもっと詳細に聞いているかもしれないし、こういった取材で色々と聞かされているはずである。
なのでこれはただの時間稼ぎである。
しかし、思っていた以上にソリーサさんの反応がいいので饒舌になってしまっている自分がいる。
自殺についての切り出し方を決めたいのに、ついつい次の話題を出してしまう。
「本当に詳しいのですね」
「はい、仕事であると同時に、僕の生きがいですから」
こうして話している僕を見ているソリーサさんが、なんだか誇らしげにしているような気さえしてくる。
ソリーサさんがテーブルの上に置いてある時計を手に持った。
そっと針に指を添えて、時間を確認する。
一瞬の間が空き、このだらだらとした流れを断ち切る機会がやってくる。
ソリーサさんはすぐに僕へと向き直り、笑顔を向けてくれる。
それにつられてまた別の話を始めてしまいたくなるのをぐっと堪えた。
「あ、あのですね。ソリーサさん」
神経が一気に研ぎ澄まされ、秒針の音がはっきりと聞こえる。
「なんでしょうか?」
「その、最近、ライブさんや、他の人から何か連絡を受けたりなどはありますか?」
いっそのこと、自殺のことを知っていてくれ。そう思った。
しかし、それだと今の態度がおかしなことになってしまう。
膝の上で握っている手にわずかな汗を感じた。
「えっと、それなら…」
ソリーサさんが何かを答えようとすると、ぴくりと何かに反応して窓の方を見る。
「あっ、帰ってきたみたいです」
しばらくすると、ドアが開いて男性の声がした。
旦那さんが帰ってきた。それにより、さらに緊張が走る。
だがその後、予想外の声に僕の頭の中が真っ白になる。
「お邪魔します」
女性の声だった。しかも聞いたことがあるやさしい声。
廊下の方へ顔を向ける。
まず入ってきたのはソリーサさんの旦那であるウルスさん。
顔つきが怖く体が大きい。しかも左頬には大きな傷があり、何か大きな生き物でも倒していそうな威圧感があった。
「なんだお前?」
鋭い視線が僕に注がれる。それだけで肝が冷えた。
僕がお手柔らかに答えようとすると、ソリーサさんが率先して紹介してくれる。
「新聞屋なんですって、けっこう久しぶりだよね」
「はっ!?」
ソリーサさんの歓迎的な声とは打って変わり、ウルスさんの威圧的な声がする。
そして、ウルスさんの大きく重たい一歩と同時に、僕は胸倉を掴まれた。
服があっという間に握りこまれて、首だけでなくて胸周りまで苦しくなる。
「あ、あの…」
「てめぇ、何が目的だ?」
ここに来たことを申し訳なく思っている分、すぐにでも謝って丸く収めたいと思う気持ちがこみ上げてくる。
「えっ、あなたは!」
ウルスさんと一緒にやって来た女性が騒ぎを聞きつけてやってくる。
僕と目が合って、お互いになぜここにいるのかと驚いた。
「ウィルコさん、知っているのですか?」
ウルスさんの態度が反転する。
「えと、知っているには知っているのですが、お名前も知らないといいますか」
「てめぇ、ウィルコさんにまで手を出して…」
余計な誤解まで与えてしまい、ウルスさんの拳に力が籠められる。
「ウルスやめて!」
もはや覚悟を決めて僕が目を閉ざすと、ソリーサさんの大きな声が聞こえた。
「でもよ」
「わかっているよ。でも、まずは話を聞こうねって言ったでしょ」
小さくかわいらしい声なのに、言葉が体の芯に届いたような気がした。
ウルスさんの手が僕から離れる。舌打ちをして、ソリーサさんを守るように横に座った。
僕は首元を整えながらウィルコさんの方を見ると視線が合い、少しだけ目で会話をした。
「そういうことでしたか。まぁ、まるっきり嘘とまではいかないですね」
「迎えにって、そうか、そうなりますよね」
船でウィルコさんが言っていた迎えに行っていた人、それがソリーサさんだったのだ。
どの程度の関係なのかはまだわからないけれど、勇者の知り合いともなれば十分あり得た話だった。
「お久しぶりですウィルコさん、来るなり騒がしくしてしまってごめんなさい」
ソリーサさんがウィルコさんに話しかける。
こちらも昔からの知り合いのようだ。
「ほんと、ひさしぶりね。運悪く移動手段が見つからなくて遅くなってしまいました」
ソリーサさんはウィルコさんを椅子に座らせると、さきほど作っていた料理をとりわけ始める。
その間もウィルコさんと話をしていて、僕は俯いてテーブルを見つめていた。
その間も、ウルスさんがずっと僕をにらんでいる。
「ウィルコさん、こいつがいるのはまずいんじゃないですか?」
女性二人の話の区切りを見つけて、ウルスさんが僕という異分子に言及する。
「そんなことないよ、だって勇者の話を聞きに来たって言っていたし」
ソリーサさんが何気なくフォローしてくれる。僕はズキリと胸が痛んだ。
これって、これから勇者の自殺のことが告げられるのか?
新聞屋としてはこれとない機会だが、良心がここにいていいのか?と語りかけてくる。
僕はどうしたらいいのか?
決断を迫られていた。




