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独り

「悪いな、本当はすぐ近くまで送っていきたかったんだが」


僕が牛車から降りるとキモンがそう謝った。

目的の町付近まで来れたのだが、思っていたよりも時間がかかってしまったのでキモンが引き返さなくてはいけなくなってしまったのだ。

二人乗りの速度が思っていたよりも遅かったのか、それとも単に予測をはずしたのか、はてまた勢いだけで乗せてくれていたのか、理由はわからない。

とはいえ、ここまで乗せてくれたのは非常に助かった。たいした疲れもなく町のすぐそこまで来ている。


「助かったよ、ありがとう。かならずまた会いに行くな」


「おう!」


ひさしぶりの再会だったというのに、あっさりとした挨拶で僕らは別れた。

男同士なんてこんなものだよな。むしろ、かっこがついたとさえ僕は思った。


町を目指して一人歩き始める。これなら悪くない時間に着けそうだ。

話し相手がいなくなったので、僕は物思いにふける。

考えることは当然、キモンのことだ。


正直、勇者の件が僕の中でひっかかってしまい、その後の会話の内容があやふやだ。

キモンに悪いと思いなんとか一旦忘れようと頑張ったけれど、大丈夫だっただろうか?

キモンも察しが悪い奴ではない。もしかしたら僕の調子をみて、一人にさせた方がいいのかもしれないとか考えた可能性もある。

まぁ、今はもうそれはいい。


勇者が赤の他人。それがキモンの認識であった。

これがどうにも納得いかず、同じような考えがぐるぐると回る。

僕が崇拝しているからというだけではないと思う。彼はそれだけのことを成し遂げたはずなのだ。

人はそこまで忘れることができるのだろうか?

ひょっとして僕も、勇者以外のことで恩知らずなことをしてしまっているのだろうか?

その人にとって何が重要かは異なる。これも何度も唱えてきた自分への反論。


こんなにも引っかかるのはなぜだろう?

議題から一歩引き、勇者という要素を取り除いてみる。そこには何が残る?

違うものに例えてみたりと思考を巡らせる。


そこにあったのは、友人が自分と違う認識だということに不満を持っていることだった。


そんな当たり前のことに腹を立てている。子供じみていて認めたくないが、それが一番しっくりきた。

もっと大それたことを言うならば、寂しかったのかもしれない。


キモンがわかってくれないのなら、もう誰も僕もわかってくれない。

まだ答えは出ていないけれど、ひょっとしたら、そういうことかもしれない。


ただ、それはそれで、なんで僕はそんなことを思っているのだろう?

僕が新聞屋で勇者の記事をやらせてもらっているのは、勇者のすばらしさを広げるためではなくて、分かり合える誰かを探していたからなのか?

僕をよく知るキモンなら、僕に共感してくれると期待していたのか?


勇者について、僕とは違う考え方をいくつも聞いてきた。

僕はそれをけっこう素直に受け止めてきたつもりだ。

ただ、今の僕の感情を加味して考え直すと、逆に素直過ぎていないだろうか?

取材は取材としてありのままを受け止めるが、自分の中だけではもっと毒づいてもよかったのではないか?

だって、誰も彼もが自殺を受け入れているか、無関心だったじゃないか。

それを僕は許していていいのだろうか?




結局、何も答えが出ないまま僕は目的の町に辿り着いた。

家と家との間隔が広く、でも武器屋があったズシオみたいに農園があるわけでもない。

のどかと例えたいところだが、真っ先に思ったことは何もないだった。

海が近いから漁で生計を立てているのだと思うが、それ以外の時は何をして過ごしているのか想像できなかった。

ソリーサが住んでいる場所を知らないが、改装されていなければ家を見ればわかる。

昔見た記事の記憶を頼りに一軒一軒見て回る。

しかし誰ともまだすれ違わない。

もう日が暮れようとしている、すでにみんな家の中なのだろうか?


「あっ」


見覚えのある家を見つけて、思わず声が出た。

ソリーサの家だ。よかった昔と変わっていない。

窓から光が漏れていて、中に誰かいるのがわかる。

よかった。無駄足にはならなくてすみそうだ。

胸を撫でおろして家の前までやってくる。だけど、ドアを目の前にして僕は固まってしまった。


いったい、どうやって顔を合わせればいいんだ?


自分の任務と勇者のことで頭がいっぱいだったせいで、何から聞けばいいのかを考えていなかった。

現状、ソリーサが自殺のことを聞いているのかどうかすらわかっていない。

もしそれを知らない状態で僕からそんな話をしたら、ソリーサは何を思うだろうか?

確実に不審者である。旦那に殴り飛ばされるかもしれない。

勇者関連の話題で遠回りしたところで、本題に入るためには自殺のことを避けて通れない。

まずい、本当にまずい。

今日は野宿をして、明日の朝までに対策を考えるか?

でも、万が一その間ですれ違いでもしたらもう僕は新聞屋を続けていく自信が無い。


とにかく、まずは接触しなくては。そんな思いだけでドアに手を伸ばそうとすると、家の中からドアノブが回された。

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