娯楽
キモンと再会してから一時間ほど経つ。
正直、ここまで恵まれるとは思っていなかった。
僕は今、キモンが操る牛車に乗せてもらっている。
出店を畳んだキモンと近況を報告し合った後、僕が何をしにワナキーオへ来たのかを説明すると、いい足があると言って乗せてくれたのがこれだ。
だいぶ年季が入っていて大人が二人座るには少々小さかったが、徒歩移動も視野に入れていた僕としては願ったり叶ったりだった。
おまけに、こうして昔話などに花を咲かせながら長い道のりを移動できる。
これを恵まれていると言わずなんと言えよう。
キモンはすぐに仕事へ戻るのでとんぼ返りになるわけだが、自らこうして僕に協力してくれる。
大人になってやさしさに磨きがかかっている。そんな風に僕は思った。
懐かしい気持ちだ。
何も無い道を友人二人と通っている。
そういえば、あれから僕は友人というものを作っていないような気がする。
家族以外をすべて失い。なんとか自力で生きていけるようになろうと転々として今の仕事に落ち着いた。
年齢を考えれば友達と遊ぶことなんて無くなっていてもおかしくはないのだが、そんなことを考える暇もない日々だったのだと気づかされる。
職場や近所の人たちは皆いい人たちだし、たまに食事をすることだってある。
けれど、気を張らずに誰かといるのは本当にいつぶりだろうか?
キモンは僕と違ってすぐに今の仕事を始めたようで、もう長いことやっているようだ。
出てくる話も職人に取材している時のようで、たしかな年季を感じる。
同じ子供だったのに、違う大人になってしまったのだとほんの少し寂しい思いもあった気がする。
「シーノが新聞屋ねぇ。どちらかというと人の話を聞かない奴だったのに」
「お前だって、店を構えて大人しくしている感じじゃなかっただろ」
「たしかに」
キモンが笑うと、僕も笑った。
「しかし、取材ってのは大変そうだけど、こうして色んなところへ行けるのは楽しそうだな」
「まぁな。こんな遠くへ来るのは滅多にないことで、移動はいつだって大変だよ。でもたしかに仕事を退屈に感じたことはなかったかも」
「意外と性に合っていたってところか」
友人ができなかったのは、家にいることが少なかったせいもあるかもしれない。
「そうかもな」
でも寂しいと思ったことはほとんどない。そういう意味でもやはり性に合っているのだろう。
「そういえば、取材で行くってことしか聞いていなかったな。
何を取材しにいくのかってのは聞いてもいいのか?」
キモンはわからないなりに、新聞屋の僕に気を使ってくれる。
僕は少し悩んだ。
ソリーサは勇者の妹として有名ではあるが、人前には出ずに静かに暮らしている一般の人でもある。
表彰されたとか名誉あることに対する取材ならともかく、そうでない場合は個人を特定できそうな情報をあまり出したくはない。
取材の目的である勇者の自殺を出しても、すぐに察せられてしまう気がする。
「詳しいことは言えないのだけれど、近々大きな行事が行われそうなんだ、おそらく西の方で。
かなりの規模になるらしく各所から著名な人が集められると噂されているから、めぼしい人に取材してなんの行事なのかを探っている」
当たらずとも遠からずな内容を教えた。
「ふーん、新聞屋のお前にこんなことを聞くのはちょっと気が引けるのだけど、そういう取材ってどういう意味があるの?」
「意味?」
「なんていうか、その行事ってやつは時間が経てば開催されるわけで、開催されるにあたって少しずつ情報が世間にも下りてくるんだろ?待っていればわかることを時間とお金をかけて集めるって」
「たしかに、キモンの言いたいことはわかるよ。でも人間ってのは娯楽を求める生き物で、世界が平和になってそれがより求められているんだ」
「娯楽?」
「不思議なもので、周りが知らないことを自分は知っているってだけで人は優越感を得られるらしい。
自分は興味の無いことだったり、いずれは知られることだったとしても、さも自分が先んじていることを感じて悦に浸る。
お金をかけて新聞を読み、未来や他分野に目を向けている自分に酔う。
仕事のために読んでいる人も多くいるけれど、ほとんどの人は娯楽で読み会話のネタにするだけさ」
「なるほどね、近所の誰々が結婚するらしいとか、そういうのを大きくした感じか」
うーん、なんとなく不本意ではあったけれど合っている気がする。
情報を娯楽にしているという点では変わりないだろう。
なんなら、自分に関係ありそうなだけ僕が扱っている情報より有益かもしれない。
ただ逆に、僕の方が刺激的なはずである。
刺激的な話。
キモンにも聞いてみるか?勇者の自殺について。
この取材がそれだと感づかれてしまうだろうか?
キモンと別れてしまったのは、勇者に救わる少し前。
僕が勇者を崇拝していることは知らないことになる。
だから、あくまで風の噂で聞いた雑談ということになるかもしれない。
それに、よく知る友人であるキモンが勇者に対して何を思うのか興味もあった。




