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再会

ウィルコさんと出会った後の船旅は、ただただ時間が過ぎるのを待つだけであった。

あの後も何人かに話を聞いてみたが、興味無さげな反応しかなかった。

暇つぶしをするように色々と聞いてくる人もいたけれど、僕が何も知らないことがわかるとすぐに取材は終わってしまう。


ここまできて、僕はこれまで出会いに恵まれてきたのだと思った。

元武器屋の店主、馬車の護衛、ヌイさん、ウィルコさん。

それぞれ勇者に対する考えを持っていて、僕はそれが当たり前だと思っていた。

そして、それは間違っていたのかもしれないと思ってきた。

思い返してみる。僕は勇者について語った記憶は数えきれないほどあるが、僕が勇者について語ってもらったことが今まであっただろうか?

僕が勇者を崇拝していることは周知されていて、わざわざ言うことは無かったのかもしれない。

さらに、今更思うことなんて皆無だったのかもしれない。


たった10年しか経っていないのに、他の人にとってはもうそんな過去のことなのか?

人々が生活に苦しんでいた時代の方がはるかに長いのに。

いや、その苦い時代だって忘れ去られようとしている。

なんだったら、勇者の行いを快く思っていない人たちだけが残っている可能性すらある。


なんだこれは?

これではまるで僕の方が普通ではないみたいではないか。

たしかに、勇者を崇拝までしているのは普通ではない。それはわかっている。

でも、歴史に名を刻んだ偉大な人物の扱いがこれなのか?

わからない。僕はこの旅に出てからわからないことがずっと続いている。




三日目の朝、船は南都市ワナキーオに到着した。

港に着く前から船上は少し賑わっていた。南には他の都市では見られないめずらしい光景が多いので、船から見る眺めは貴重な体験になる。

どういった理由かはわからないけれど、動物や魚や植物がひとまわり大きい。

普段都市の中で生きている人間からしたら、まるで冒険小説にでも出てきそうな風景だろう。

現に僕もしばし目が離せなかった。

澄み渡る青、生い茂る緑、ちりばめられた赤。めぐるめく色の流れが目に飛び込んでくる。


船を降りてからも港は騒がしかった。

西都市カサオーも騒がしかったが、こちらは出店からの掛け声が多い。

土地に特徴があれば文化も特徴的になるようで、並んだ品々もめずらしいものが多い。

仕事で来ているので立ち止まることはなかったけれど、見ているだけでも観光をしているようで楽しくはあった。


さて、ソリーサが住んでいる町までまだ距離がある。

今日中に着けるだろうか?

そもそも、まだここにいるのだろうか?

もう勇者が自殺してから10日ほど経ってしまっている。とっくにその知らせが届いていて、カサオーなり別の都市なりに行ってしまっていてもおかしくない。

それでも僕がここに来てみたのは、単にヌイさんやリトさんのようにできないからだけではない。


ソリーサは生まれつき目が不自由なのだ。

今は完治しているらしいが、子供の頃に重い病もわずらっていたらしい。

そのせいかあまり出歩くこともないと聞いている。

勇者の妹であれば、それらをすべて考慮した上で丁重に運んでもらうこともできるだろう。

だけど、ヌイさんが見た勇者一行の様子からそれを実行するのかが疑わしいとヌイさんは言っていた。

下手をすると伝えられていない可能性すらあるかもしれない。

僕らが賭けているのは、ソリーサはこの都市にとどまりながら、勇者一行から何かしら接触があること。

僕がこの事態に追いつける唯一の可能性である。


無駄足になることも覚悟しつつ、勇者の妹にどうやって接触したらいいのか僕は悩んでいた。


「おい!もしかしてシーノか!?」


今後のことをあれこれ考えながら歩いていると、少し離れたところから名前を呼ばれた。

声の方に振り向いてみると、出店の中で跳ねている男性がいる。

間違いなく僕の方を見ていて、目が合うなりすっと下の方に姿を消す。

少し横へずれた方から謝る声が連続して聞こえてきて、そのたびに人の流れが止まった。

人込みをかき分けて男性が僕の前に顔を出す。

その屈託ない笑顔に、記憶の奥底から幼かった頃の思い出が噴き出してくる。


「キモンなのか!?」


男性は名前を呼ばれて、さらに口を広げると僕の両肩を掴んだ。


「覚えていてくれたのか、うれしいぞ!」


勇者に命を救われる少し前まで、同じ町で暮らしていた友達がいた。

髪はくたびれ、肌も少し黒くなり、体も大きくなっている。

だけどあの笑顔だけは昔のままだった。


「なんだよお前こそ、こんなところにいたのか!」


勇者や仕事のことが一瞬で吹き飛んだ。

十数年振りの再会にうれしさがこみ上げてくる。


「お前こそなんで?いやその前に時間あるか?せっかく会えたんだ少し話をしようぜ。店をすぐに畳むからさ」


今すぐにでも行かなければならない所があった。

しかし、少しくらいならと流されている自分がいた。

そのくらいこの再会は衝撃的だった。


この旅は恵まれている。これも何かの幸運かもしれない。

僕は自分をそう説得していた。

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