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動揺と懐疑

「僕は…」


なんと言えばいいのか?そもそも正直に言っていいことなのか?

適当に誤魔化しても良さそうだけど、不思議とこの人に嘘をつきたくないと思っていた。

単純に素敵な女性だから、だけではない。


「新聞屋をやっていまして、取材に行くところなんです」


「大変なお仕事ですね。ワナキーオで何かあるのですか?」


嘘が付けないのなら、これまで通りにやるだけだ。僕はそう思った。


「いえ、ワナキーオではなく、ある人にお話しを伺いに行くです」


「もしかして、何か専門的な内容だったりしますか?」


女性はとても興味深そうに僕の話を聞いてくれる。

とても話しやすくて、聞かれたことをうっかりしゃべってしまうような気さえする。

葛藤はあってもこの人との会話が楽しいと感じている。

初対面でこんなに心を開こうとしていることなんて今まであっただろうか?


こんなやさしそうな顔をしている女性に、僕が関わっていることを教えたらいったいどんな顔をするだろう?

この会話が終わってしまうことが嫌だと思う反面、この人が何を答えてくれるのかという好奇心が勝った。


「残念ながら僕がやっていることはもっと俗っぽい内容です。もしかしたら嫌われているかも」


自分でそう言って、僕の信念のようなものがグラグラと揺れた。

他人からしても嫌悪されるかもしれないことを、僕は勇者に対してやっている。

せめて勇者に何があったのかを知りたい。それだけではあるが、そうだ、普通ではないのだ。

普通は知りたいとは思っても、自分の生活からは出ない。人の死に首を突っ込まない。

そんなことを記事にしてお金を稼いでいる。だから嫌っている人がいる。そんなことは知っている。だから自分でもそう言ったのだ。

じゃあ、勇者に嫌われるかもしれないことをしているのに、僕はなぜ止まらない?


死んでいるから?


「そうですか、でもまぁ、それも大切なお仕事ですよね」


こうやって気遣ってくれる人を相手に、それでも僕は進んでいく。


「あの、もしよかったら少しだけお話を聞かせてもらえませんか?僕が取材していることについて」


まだ内容を聞いていないので女性は少し困ったような態度をとったが、快く聞き入れてくれた。


「私で答えられることでしたら」


「ありがとうございます。誰もが知っている人についてです」


念のため他に人がいないことを確認して、僕は四人目の取材に入る。


「少し前に、勇者が自殺してしまったことをご存じですか?」


一人目と二人目に取材した時とは心境が異なっていることに気が付いた。

あの時は、僕の中には無い勇者を探していた。

でも今は少し違う。まだヌイさんやリトさんが掴んでいない情報を期待しているところがあった。

勇者の自殺には何かが隠されている。それを知ってしまった以上、ただ話を聞くだけでは終われなくなっている。


そんな自分の心の機微を感じていると、女性からあのやさしい空気が消えた。

やはりこういう話はダメだったか。最初は当たり前の反応だと思って諦めかけたけれど、それにしても動揺し過ぎているように思った。

あきらかに言葉が出てこない様子。この手の話が苦手というより、まったく予想していなかった内容に驚いている。


「すみません、もしかしてですが勇者の支持者とかだったでしょうか?」


一番ありそうななのは僕と同じ勇者を崇拝している人か、もしくは、政治などに参加してほしいと思っている人かであった。

僕の場合は勇者に命を救ってもらったという感謝があるので、勇者が幸せでいてくれるなら別に何もしていなくてもよかった。

そうではなく、勇者の実績と人徳をもっと国のために生かしてほしいと考えている支持者たち。彼らももちろん勇者に感謝しているが、勇者にもっと活躍の場を与えることが恩返しだと思っている。

その通りである可能性はあるけれど、僕からしたらもっと恩恵を受けようとしている思惑が透けて見えて僕は好きではない考えだった。


女性はよくやく僕が戸惑っていることに気が付いた。


「ごめんなさい。そういうわけではないのですが、突然の話に驚いてしまって」


あれから女性は僕の目を見てくれていない。


「えぇと、ちなみになのですがその話はもう有名なのですか?」


時間稼ぎのような質問を女性がしてきた。


「いいえ、まだ僕を含めて一部の人しか知らないと思います」


僕は手短に答える。

女性は考えがまとまったのか、あのやさしい空気感が少しだけ戻ってきた。


「そうですか、私はそういう話題に疎い方ですが、どおりで…」


「僕が聞きたいのは、このことについてあなたがどう思うのか?についてです」


「私が、どう思うのかですか?」


女性はまた少し驚いたような顔をした。予想していた流れと違ったのだろうか?

崇拝でも支持でもないのにこの感じ、もしかして勇者と何か関係がある人なのか?

そんなことが頭によぎったが、まずは今まで通り取材を続けようと思った。

もし下手な嘘を話すようなら、さすがの僕でも勘づける気がする。


「はい。世界を平和にしてくれた勇者について、あなたは何を思いましたか?」

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