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マズー霊石

もっともらしい理由をマズー霊石に付加した。僕にはそんな風に聞こえた。

だからか、結論を急ぐとそれを悟られてしまう気がして僕はしばらく黙っていた。


「要するに、リトさんに行ってもらう理由を作っただけなのだけど、円滑に仕事をするためにはこういうのも必要なのよ」


結局、見透かしたかのようにヌイさんが僕の心中に答えてくれる。


「そうでしょうけれど、その、目的意識がはっきりするという利点もありますよね」


なぜかそれが悔しくて、意味も無くわかっているフリをしてしまった。


「その通りだ。理由付けがなかったら俺は見落としていたかもしれなかったからな」


リトさんがそう言うと、僕とヌイさんは耳を傾けた。

ということは、何かしら成果があったということだろう。


「行きにたまたま学者の集団とすれ違ってな、なんとか引き止めて話を聞かせてもらったんだ。

なんでもいいから最近この山で変わったことはなかったか?と。

するとな、この山はだいぶ前からおかしいって言うんだ。まるで何倍もの早さで時間が経っているようだって」


「それってどういうことですか?」


学者の話にしては突飛な内容だった。僕はリトさんに続きを催促する。


「学者もまだよくわかっていないらしい、ただ、たった数年前の記録が何か所もズレているらしい」


「記録がズレる?書き間違いをまず疑うけど?」


念のためヌイさんがつまらない原因を潰しておく。


「そういう場合も考慮して複数人で記録していてもだってよ。

ただでさえマズー霊石という未知の鉱石が対象に入っているんだ、そのせいで研究が難航しているんだとさ」


素人の感想としては、マズー霊石の影響ではないかと思った。

ただそれだと、もっと昔からそのズレってやつが発生していないとおかしい。

だとすると、もう一つ要因がいる。


「勇者が通って何かをしていたから?」


「その可能性があるかもな。

マズー霊石なんて、出発前に本で一応確認しただけだったから形なんておぼろげなもんだ。

学者を引き止めていなかったら、何も気が付けなかったかもしれない。

一番近いからという理由だけで見に行っていたら、人探しして終わっていたかもな」


「マズー霊石にも何か異変があったのですね」


「あぁ、全体的には本で見た通りだったが、よく見るとあきらかに劣化していた」


リトさんが言うには、所々にひび割れがあって、砕けた破片が地面に散らばっていたらしい。

特に接近禁止などにはされておらず、誰でも手をかけることができる状態ではあるが、勇者の剣の原材料ということで取って来ても非難されるだけである。

こっそり隠し持つような人もいるだろうけど、自然に崩れたようにしか見えなかったとのこと。


「学者の話を合わせると、勇者が何かをし続けたことによってマズー霊石が急速に劣化して、その影響が周りにも出ているということかもしれない」


「じゃあ、勇者が何をしていたかがわかれば…」


「自殺の理由に近づけるかもしれない」


僕はマズー霊石についての情報を一つずつ思い出してみる。

あの山はそもそも人が訪れるような場所ではなかった。

あたりは石と砂しかなく、日がほとんどささない。さらには人を襲う獣がいたとされている。

そこへ、世界を平和にするために勇者たちが踏み込み、マズー霊石を持って帰る。

マズー霊石には、山を越えたところにある小さな集落に伝承があった。

"それは願いを叶える軌跡の石。されど試練からは逃れられない"と。


勇者が世界平和を叶え、そのための試練があの大戦というわけだ。


「見た通り劣化だとしたら、また勇者が何か願いに使ったのかな?」


使った分古くなる。万物に共通する現象をマズー霊石に当てはめてみる。


「もしそうなら、試練に失敗したってことか?」


こんな感じに、三人で都市に戻りながら議論を進めたが答えに近づけそうな推測は生まれなかった。

カサオーに戻ってきたのは夜が更けてから。

酒場くらいしか開いていない時間なので、適当なお店に入って軽い食事とお酒で今日の頑張りを労う。

疲れが身に沁み始めると同時に、三人の口数も減っていく。

僕はいつしか、これからどうするか?について考えていた。

そしてすぐに、明日どうすべきか?ということにぶち当たる。


「ソリーサとマズー霊石って関係あるんですかね?」


まったくアテが無くなった状態なので、僕は思わず声に出してしまった。

最初は単純に唯一の肉親だからという理由で会いに行くよう言われていたが、マズー霊石と結び付きが無ければ行く価値が低くなっているような気がしていた。


「えっ?無くはないんじゃない?」


ヌイさんが意外そうな顔でそう言った。


「なんでですか?」


僕がそう聞き返すと、ヌイさんが手で口を軽く押さえて悩むような素振りをした。

まるで言ってはいけないことを言ったような感じだった。


「…そっか、これはカプーリさんから聞いた話だから一般的ではないのか。

でも君ほどの人が知らないとなるとちょっと気になるかも」


ヌイさんが言うには、妹ソリーサにもマズー霊石で作られた物が贈られているらしい。

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