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Option of Amazoness  作者: カピパラ48世
9/30

06話 幼きもの

辺りには涼し気な風が流れていた


緩やかな時間の中で小さな街、ルディアでの出来事、

「おい、あの子結構強いぞ!」

特に活気があるわけでない街、その街外れの崩れた塀に人だかりができていた。

その人だかりの中央には、ショートソードを持った少女が立っていた。

外見からは10歳くらいのその少女は長いストレートの黒髪に、赤いワンピースの服に赤い腰布を巻いていた。全く戦闘に特化していないその姿にショートソードは少々違和感を感じる。

その足元には小さな看板が立てかけてある。

“一回銀貨三枚、私に剣で勝利したら10枚の銀貨お譲りします”

直訳するとそんなことが看板に書いてあった。

いわゆる大道芸のような状況である

もうすでに二人の挑戦者を軽くいなした少女は外見にそぐわない落ち着きを見せていた。

チャリン!

無造作に銀貨が投げられた。そこには長身で体格の良い男がいた。

「ようし、次は俺が勝負する!!」

少女は男を一瞥し、地面に投げつけられた三枚の銀貨を丁寧に拾い、確認した

「確かに頂きました。そこにある剣、どれを使ってもよいです。」

淡々とした口調で商談の成立を伝え、壁に立てかけてある五本の剣を指した

「俺はこれにするぜ!」

大きめのロングソードを取った男は数回素振りすると、少女の前に立った。

「あなたのタイミングで開始してもよろしいですよ。」

荒ぶる男をよそに少女は剣を右手で持ち淡々と続ける。

「よーし、アレン!負けるなよ!」

街では腕っぷしの立つ男として知られる男、アレンは野次馬からの声援を受け、勢いだっていた。

「ようし!覚悟しな!」

勢いよく剣を振りかざしてきた。少女はひらりとかわす。

「おっと・・・」

バランスを崩しながらアレンは踵を返す。

少女はその姿をじっと眺めていた。

その後、アレンは数回切りかかったが、全て同様に躱された。

そして、アレンは次の一撃を繰り出そうとする

「そろそろ銀貨三枚分かな・・・」

少女はおもむろにそう呟くと剣を握る力を変えた。アレンの振り下ろす剣に今度は避けない、早いステップでアレンに向かう。

―――コツン―――

軽い音が聞こえた。アレンの剣の柄を少女の剣が弾いた音だった。剣はそのままアレンの手を離れ地面へ落ちた。

「・・・ちっ・・・!」

少女は軽く舌打ちをする。力加減を間違いアレンの手にかすり傷をつけてしまったのだ。

「・・・ま・・・まいった・・・」

剣を弾かれた状況を理解したアレンは恐る恐る敗北を認めた。

すると、今まで落ち着いた表情をしていた少女はにっこりと微笑み

「ごめんなさい、あなたの剣がすごくて怪我をさせてしまいましたわ」

と言って治療代と称して銀貨を一枚返金した。

「・・・そうか・・・!!俺の剣が凄かったのか!」

負けたことを棚に置き、すごいという言葉に反応してアレンはにやりと笑った。

その笑顔に少女は満面の笑みを浮かべ、こたえる

「すごい・・・・・・」

“・・・遅すぎてね・・・・”

後半の言葉は言わなかった。


今日はこんなものかな・・・・

アレンを見送った後、あまりにも実力差が見える戦いなので、しばらくは挑戦者が現れないだろうと

周りを見渡した時、何やら強い感覚を感じた

「まぁ、可愛い剣士さんね、お名前なんていうのかしら。」

満面の笑みで一人の小柄な女性が声をかけてきた。水色のワンピースに青い腰布、パーマがかった少々ブラウンの混じった長い黒髪。印象的だったのが髪の毛で隠しているが左目あたりに大きな傷が見えた。おそらく左目は失明しているだろう。アレンが名乗り出た時にはいなかったので、その後に来たのだろう

「人に名前を聞くときには、まず自分が名乗るべきだろう。」

少女はそう言い放った。すると、女は愛らしいものを見るような表情を浮かべ、右手を自分の胸に当てて答えた

「あら、ごめんなさい。声も可愛いのね。私はスージー。今の剣裁き素敵だったわ」

褒められ慣れていなかったので、少々背中にむずがゆさが走ったが、相手が名乗ったので仕方ないと思い少女は自分の名前を口にする。

「私はシルフィーネ。」

「あら、シルフィーネちゃんっていうのね。素敵な名前ね。」

そういうと後ろを振り向き

「ロッド、この子、あんたなんかより強いわよ。」

三人ほどの仲間がいるのだろう、その中の一人である長身でブラウンの長髪の男、ロッドに楽し気にそう言った。

「そうなのか?」

不満げに答えるロッド。

「やってみればわかるよ。あんたも気になってたんでしょ。」

まるっきり観衆を無視して、話が進んでいく

「え~、俺より強いんだろ・・・」

言葉は嫌がっていたが、態度はそうでなかった。

「本当か試してもいいかい?」

一瞬前までとは違った鋭い目をシルフィーネに向けた。

―――ズドン―――

彼女は本日二回目の目前に岩のようなものが落ちてきた感覚を感じた。

シルフィーネはゆっくりとうなずいた


「はい、参加料。」

スージーの右手から丁寧に銀貨三枚を手渡された。ちょっとひんやりとした気持ちの良いさわり心地だった。

「あの人には手加減できそうにないから、怪我しちゃうかも・・・」

シルフィーネは淡々とそう言った。意外な言葉にスージーはきょとんとした表情を浮かべたあと、含みのある笑顔になった。

「あら、とても優しいのね・・・」

そして優しい笑顔をシルフィーネに向けると

「ちょっと図に乗ってるからコテンパにしてあげてね。」

何やら楽し気にすごいことを言われた。

「ねぇ、ファルス、ロッド負けちゃうかなぁ・・・」

「う~ん、スージーがああ言うのだから、厳しいのだろうなぁ…」

残りの二人、長いストレートの黒髪で小柄な女性と、銀髪で長身の男性、ファルスからひそひそとそんな内容の声が聞こえた。

「こら、ラン!俺は負けねぇよ!」

素早くそう言い返した。

「う~ん、まぁ頑張ってね。」

あまり期待のないおっとりとした応援が黒髪の女性、ランから発せられた。


相手が手練れなので群衆にお願いして広めのスペースを確保し、二人は対峙した。

ロッドは自分のショートソードを無造作に右手に持って構えた

アレンの時には、構えもしなかったシルフィーネだったが、今回は構えを取ることにした。

ロッドを正面にまっすぐ立ち、少し両手を広げた。ショートソードは左手に持っている。

「へー・・・」

スージーが感嘆の声を出した。

この状況であの構えはなかなかやるわね・・・

ロッドの動きを見逃さないように正面にまっすぐ立ち、どの体制にも動きやすい手の位置だ。

“スピードに絶対の自信を持っているのね・・・”

「じゃあ試合開始だ!」

いうが早いか、ロッドが上段から切りかかってきた。

“――速い―――!!”

アレンに比べたら天と地の差だ、太刀筋もしっかりしている

それを確認したうえで、シルフィーネは避けることなく突進した。

迫りくる剣戟を右側に避け自分の剣でロッドの剣に体重をかけながら押さえた。そしてそのまま流れるように左足をしっかりと地面につけたまま右足をあげ左側に重心を移動することにより、ロッドの剣をさらに地面に押し当てる。さらにそれと同時に、右手を自分の剣の柄にかけ両手持ちに直した。次の瞬間、シルフィーネの右足が地面にしっかりとついた。

「やべっ!」

ロッドは必死に後ろへのけぞった、剣は引き抜く感じで真っすぐ引いた。

刹那!シルフィーネの剣が躊躇なくロッドに向かって薙ぎ払うように切りかかってきた。ロッドの剣を地面に押し当てていた事によって強く反動をつけることができた、これ以上ないくらいのスピードだ。

ブオン!!!

ロッドにはそう聞こえた。間一髪剣を躱したロッドは一度間合いを取り直した。

「・・・まったく・・・スゲーぜ・・・こいつはオルフ並みだ・・・」

思わずかつての敵の名前を呟いた

“こんな小さい相手に一瞬で攻守を逆転されるなど正直驚いた、何とかよけきれた・・・という感じだ。

ここは慎重に行くか・・・?・・・いや・・・“

ロッドはおもむろに剣を左下段に構えた。シルフィーネは先刻と同じ正面を向き左手に剣を持っている。

“あれほどのスピードだと、あの構えは間合いを測られているようでやりづらいぜ・・・だが・・・”

前の一撃とはうって変わって、今度は体を低くして下から切りかかった。ロッドの左側から、つまりはシルフィーネの右、剣のない側からの左手一本での力任せの一撃だった。

キィィン!

それに対するシルフィーネの対応は早かった。剣を不自然な角度で立て、ロッドの剣を滑らすように促した。ジャリジャリとした音が響いた。ロッドの剣がシルフィーネを超え彼女の左側へ流され弾かれたような姿勢となった。


刹那、ロッドが剣を持つ手に力を入れる。これまた力づくで剣の軌道を変えシルフィーネの左上部からの斬撃となった。

しかし、シルフィーネは、ロッドの剣を見ることなく迷わず彼の左側へ走り、後ろにまわった。

「うおりゃぁぁぁぁぁl―――――――!!」

目標が移動してもロッドは剣を止めない。叫びながら、右足で地面を蹴り、左足を軸に独楽のように左側へ回転し、力づくに剣を薙ぎ払うようにシルフィーネに向けて振った。後ろを取ったとはいえ、これにはさすがにシルフィーネも避けることはできずに剣でまともに受ける。彼女はその姿勢のまま数メートル飛ばされた。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

ロッドの息が切れた。シルフィーネは衝撃で顔を歪めたが、特に最初と状態は変わりない。

“・・・二回切りかかっただけで・・・・いや・・・二回とも攻撃してるのは俺だったのに・・・この差か!!”

途方もない隔たりを感じた。

ザクッ!

ロッドが剣を地面に立て、スージーに視線を向けた。

楽しそうにこちらを見ている彼女の姿が見える。それを確認しシルフィーネへ視線を戻すと、

「・・・参った・・・勝てる気がしねぇ・・・」

そういってあっさり負けを認めた。

「あらら・・・残念、もう終わっちゃったのね。怪我してもいいように包帯用意してたのに・・・」

巻いた包帯を右手に持っていたスージーがつまらなそうに言った。

「・・いや、・・・最後の一振りは、かなり無理したし・・・。」

ロッドが控えめに反論した。

怪我は無かったが・・・・

「・・・俺の自尊心に傷がついたよ・・・」

苦笑しながら誰にも聞こえないようにそう呟いた。

ロッドとの試合が終わってシルフィーネは、少し安堵した表情を見せながら深呼吸した。

思ったより強かった・・・というのが本音だったが、負ける気はしていなかった。

そして、ロッド達がふざけながら今の結果を話している状態を見て、少々考え事をしていた。

その視線の先にはスージー横顔が見える。

おもむろに彼らに近づき、スージーに手を差し出した。その手には銀貨三枚が握られていた。

「ん・・・?」

スージーは、それに気づきシルフィーネに向かって

「あーら、心が傷ものになっただけだから治療費なんていいのよ。」

さっきのアレンで銀貨を返している状況を思い浮かべそう返事した。

ロッドは聞こえないように言ったはずの独り言を言われ、「聞いてたのかよ!!」と、顔を真っ赤にして抗議したがシルフィーネの返事に遮られスージーに無視された。

「いや・・・違う・・・」

「んん・・・?」

シルフィーネの予想外の返事にスージーは困惑した。

困惑したスージーにはお構いなしにシルフィーネは

「あなたと勝負がしたい。」

きっぱりとそう言った。

「・・・・へっ・・・・・」

スージーは、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしてシルフィーネを見た。

辺りには涼し気な乾いた風が吹いていた。



「私と・・・・・勝負・・・?」


いきなりのオファーにスージーはたじろいだ。

「そう、あなたが強い剣士だと私の勘が言っている」

シルフィーネは迷わず答えた。

「・・・う~ん・・・どう見ても、か弱いおねぇさんでしょ!!」

スージーも迷わず反論した。

「『か弱いおねぇさん』は、左目にそんな傷は負わない。」

「ゔ!!」

間髪入れないシルフィーネの反論にスージーは、わざとらしく言葉を失った。

それもそうだとロッドがうんうんと頷いた。ランはオロオロとしてスージーとシルフィーネを交互に見る。

「まぁ、相手にしてあげればいいんじゃないか?」

ファルスが宥めるようにそう言った。スージーは皆の反応を見て「むぐぐ・・・」とうなった後、

「じゃあ、『か弱いおねぇさん』が本気で相手してあげる!がっかりしても知らないよ!」

吹っ切れたような勢いでそう言った。

「じゃあ銀貨三枚いただきました。」

にっこりと笑って銀貨を受け取った。

ランは心配そうにその様子をオロオロとしながら見ていた。


「『か弱いおねぇさん』は、そんな自分に特化した剣なんて持ってないよ・・・」

シルフィーネがスージーを茶化した。

「あら、あんただって、女の子は普通ショートソードなんて持っていないわよ。」

右手にシルフィーネのショートソードよりも少し短く、細身の剣を持ったスージーが茶化し返した。

軽さに特化した剣、先程のロッドの渾身の薙ぎ払いを受ければ折れてしまうであろう程の剣だ。

二人は対峙した。改めて見るとスージーのほうが少し背が高いだけで、あまり体格の差は見えない

シルフィーネはロッドの時と同じくスージーに正面を向ける構えをした。

スージーは右手を前に出し、まるでフェンシングをするような構えを取った。

“突きに特化している構え・・・”

シルフィーネは細身の剣からの突きに警戒した。

「じゃあ始めましょうか。」

スージーの緊張感のない声が試合の始まりを告げた。

シルフィーネは警戒をしたままスージーの剣先を見る。剣先の奥に彼女のにっこりとした笑顔が見えた。

「それでは行きますよ。ちゃんと受けてくださいね。」

軽やかな口調で言うと同時に、スージーが動いた。

―――突き!――――

とっさにシルフィーネは思った。電光石火の突きが三回襲ってきた。彼女はそれを何とか剣で受け流した。

「さすがね。やっぱりあなたは凄いね。」

スージーは優しい笑顔でそう言った。

―――えげつない突きだった―――

初撃は眉間を狙ってきた。そのあとは剣を持っている左肩と、左腕に一撃ずつ狙ってきた。

シルフィーネは何とか剣で受け流したが、その内容を考えるに、順番が変わっていたら防げなかったと思い背筋に悪寒が走った。

眉間が先だったので、左向きの構えにすることができたのだ、先に左肩だったら眉間は防げなかった。

攻撃が終わった後に、追い打ちかけることなく笑顔でこちらを見据えている姿を見て、

“突きの順番は、わざとか!”

そう思ったと同時に、最初に感じた大きな衝撃は本物だったのだとシルフィーネは確信した。最初スージーに声をかけられたときに感じた強い感覚、ロッドと対峙した時よりも強く感じた、まるで巨大な岩が目の前に落ちてきたような感覚

「おねぇさん、強いね」

「あら、『か弱いおねぇさん』、よ」

シルフィーネの苦笑いに乗せた言葉に、スージーは楽しそうに答えた。

その言葉を終えるが先か、シルフィーネがスージーの上段から切りかかる。

スージーは右側へスライドしながらそれを躱した。

「―――!!―――」

後ろを取られた形のシルフィーネがとっさに剣を返し、そのまま体をひねりながら左へ大きくスージーめがけて薙ぎ払うように剣を振る。あの細身の剣では受けきれない勢いだ。

―――チチチッ!―――

聞きなれない甲高い音が聞こえたと同時に自分の剣が狙った方向とはずれた方向へと流された。・・・と同時に信じられない光景をシルフィーネは見た

スージーがシルフィーネの剣先に小刻みに突きを入れ軌道を変えたのだ

“そんなことが可能なの!!”

驚愕の眼差しをスージーに向けた。

二人はその動きの流れのまま背中合わせになった。シルフィーネの左手とスージーの右手、それぞれの剣を持つ手が裏手で合わさったようになった

「だめね。無理な体勢からは相手の攻撃は防げないわよ」

シルフィーネの耳元で、まるで剣の授業でもしているかのようなスージーのささやきに、戦いの最中だというのに彼女はドキッとした。

何とか冷静さを取り持とうと、とっさに剣と反対の右手を裏手にスージーの腰布を掴み力任せに振り投げた。

「・・・えっ・・・、・・・・えっ・・・え~!!」

剣の試合をしているのにまさかこういう仕打ちを受けるとは思わなかったスージーは情けない叫び声をあげながら転げた。シルフィーネは転げたスージーに執拗に切りかかる。ザクザクと連続で地面に剣を突き立てる攻撃を続ける。

「ちょっ!!ちょっと!!マジで殺しにかかってないですか!?」

転げながら必死に剣を避け叫んだ。

それでもシルフィーネは、剣を止めない。

「ちょっ!!ちょっ!!ちょ~!!」

なんだか楽し気に転げながら剣を避けているスージーを見てシルフィーネは、少々ムカついたのでちょっと卑怯とは思いつつもさらに剣のスピードをあげる。

「~ん~、もうっ!!」

流石に避けるのがつらくなってきたか、スージーは足技を繰り出した。左足でシルフィーネのみぞおち部分を下から押さえた。バランスを崩したシルフィーネの剣が止まった。

「・・えっ!!」

「・・えいっ!!!」

そのまま左足をグンと上に持ち上げ右足で浮きかかったシルフィーネの足を払った。

「きゃぁ!!」

器用な足技でシルフィーネを仰向けに転がすとスージーは素早く姿勢を整えて立ち上がった。

「よくもやってくれたわね~!」

意地の悪い笑みを浮かべながらシルフィーネに迫った。

「・・・ひっ・・・!!」

シルフィーネは必死に体を反転させ素早い移動でその場を離れ、立ち上がった。

「あら・・・素早い…」

きょとんとした表情で姿勢を整えたシルフィーネを見た。

「私もさっきの地面ザクザクするのやりたかったな~」

わざとらしくつまらなそうな表情でそう言った。

その姿をランはオロオロしながら見ていた。


“・・・スピードは速いが私と比べればそれほど速くない・・・”

なのにあしらわれる・・・・・。

“初動による動作の予測か?”

・・・・いや、それは私もやっている・・・・

・・・それに・・・・

“なにか違和感を覚える・・・・”

幾度か剣を交した後、シルフィーネは仕切り直しに剣を両手で構え直した。

その時に多様な思いがシルフィーネの頭の中で交錯した。

剣を構えながらそう考えていると、対峙するスージーの姿が見えた。自分の長考に気づき待っていてくれたのだ。

「考え事は纏まったかしら?」

「ごめんなさい、纏まってはいないけど、もう大丈夫。」

スージーの問いにシルフィーネは答えた。

一呼吸おいてシルフィーネがスージーに突進した。今までの中で一番速い。

咄嗟にスージーが左側を前にして構えた・・・そして、なにかに気づいたかのようにそぶりを見せると、しまったという表情を浮かべ、申し訳なさそうに舌をペロッと出した。

「・・・う~む・・・まぁ、仕方ない・・・」

そう言ってシルフィーネの怒涛の攻撃を何とかかわした。

「ちょ、ちょーっと今のはやばかったかなぁ。」

スージーは、ひきつった笑いをみせそう言った。

“全て見切られた・・・”

逆に悔しそうな表情でシルフィーネは彼女を見る。

―――切りつけるまで七歩、そのあと左下からの斬撃・・・それは避けられるのは予想できていた。避けられた後三回の突きで体制を崩し、渾身の裏手での薙ぎ払い―――

その薙ぎ払いを、剣先にあの連続の突きを入れられ軌道を変えられた・・・。

シルフィーネはそのあと間合いを取って彼女を見た。

「・・あなた・・・化け物・・・」

抑揚のない声だったが、かなり悔しそうにそう言った。

スージーはきょとんとして聞いていたが、

「あ~ん、そこは『か弱く可愛いおねぇさん』でしょ!!」

くねくねと悶絶しながらそう答えた。呼称に『可愛い』を付け足してきた。

「か弱く・・・?可愛い・・・?・・化け物!のおねぇさん・・・」

シルフィーネは意地の悪い口調でそう呟いた。か弱いと可愛いは疑問の発音だったが化け物は強調された口調だった。

「・・ぷっ・・・」

それに気づいたロッドが吹き出した

「いやいや、あの娘も充分に化け物っしょ。」

ファルスがそう評価した。

その姿をランはオロオロしながら見ていた。

その状況を軽く無視してスージーが言う

「今のは凄かったわね、あなたは動作が速いから、もうちょっと変化を入れたほうが強くなるわよ。」

「いや、フェイントも活用している。」シルフィーネはそう答えた。

すると・・・

「じゃぁ、今度はこちらからいくね。」

スージーは先ほどと同じく左前の姿勢を取り、シルフィーネに突進する。

先刻自分の行ったような切りかかりだ!近くまでの接近を許してしまった!

シルフィーネは素早い敵の動きを目で追った。右下、つまりは自分の左下から切りかかられる!!その動作に対応しようとした刹那・・・・・・・・スージーの姿を見失った。

「―――!!―――」

シルフィーネは一瞬だが躊躇し。

“視線を誘導された!!”

咄嗟にそう思った。そして・・・

―――トン――――とスージーの左肩がシルフィーネの背中に当たった。

「あなた、頭良すぎね。相手の予測を立てすぎよ。」

耳元で・・・囁かれるような声で彼女の声が聞こえた。

ドキッとした

咄嗟に真正面にダッシュして間合いを取り、踵を返した後スージーに対峙した。

「な・・・な・・・なんであそこで切りかからなかった!」

先ほどのささやきの影響で耳まで真っ赤になってシルフィーネはそう言った。

――そして、ずっと感じていた違和感の答えが見つかった。

わなわなと震えながらシルフィーネは左手でスージーを指さし

「あなた・・・・左利きでしょ!!」

試合開始から右手に剣を持っている彼女にそう言った。


「そうよ。」

きっぱりとスージーはそう言った。

「左手を使わないで私に勝てると思ったってこと?」

少々荒い口調でシルフィーネは言い寄ってきた。

スージーは大いに困った顔をしてシルフィーネを見つめた、少々寂しさの入った眼差しにシルフィーネは心奪われた。

「これが私の今の実力よ。」

今までの明るい仕草からは、うって変わったまじめな趣で苦笑いしスージーは答えると、シルフィーネを正面に見据え右腕を横に広げた。左手は下がったままだったが、なにやら動かそうとしているみたいだが動かない。

「私ね、左手を自由に動かせないんだ。」

おもむろにそう言った。

「・・・がっかりした?・・・」

スージーはそう言葉を付け足した。

シルフィーネは、改めて彼女の左右非対称の姿を確認した。

“これだけの優位性があっても勝てない。”

シルフィーネはそう思い言葉を出そうとした、それを察してかスージーは剣を地面に置き、シルフィーネの前に歩を進め彼女の前に立った

「・・う~ん…ごめんなさいね、なんかしらけちゃったね。試合はこれで終わりにしましょ。」

そう言いながら右手でシルフィーネの頭をなでた。・・・そして・・・

「はい、あなたの勝ちよ。」 

と言って10枚の銀貨をシルフィーネに手渡した。ひんやりとした触り心地の良い手触りだった。

「・・・これは・・・受け取れない・・・。」

複雑な気持ちでシルフィーネは言った。

「そうねー、そんなこと言われるとつらいわね。」

スージーはわざとらしく困った口調でそう言うと

「じゃあ、今度戦う時は私に勝利して返してね。」

にっこりと優しい笑顔でそう言った。

彼女はとても美しかった。



―――ムギュ!!――――――


苦しくて、思わず目が覚めた。

「―――ケフッ!!ゆ、夢・・・?」

体が重くて動かない、誰かがしがみついているようだ。

だんだんと焦点があってきた。視界に入ってきたのは、見慣れた天井だった。

「・・・あっ、気が付いた!!」

聞きなれた声が耳に入ってきた。

「・・・カ・・・レン?」

「よかった~!!ジーナ、もう大丈夫だよ!!」

カレンの声が聞こえると同時に

「ふえー!よかったー!!」

胸元からジーナの情けない声が聞こえた。

よく見ると自分の上にのしかかっているジーナがそこにいた。

ジーナはしがみつくようにシルフィーネの左手に、その両手を、右手に両足を絡める様にがっちりと固定していた。

「な・・・何してるの?」

シルフィーネは身動き取れないまま、首をもたげ静かな声でジーナに質問した

「いやー、アンタの寝相が酷くてねぇ・・・」

シルフィーネはどう対応してよいかわからない状況で固まった・・・・。


「ふーん・・・」

つまりは本日、月のもので動けないシルフィーネにロタが目覚めの一撃をかましたところ、いつもなら、目が覚めるところが覚めずに、意識のないままうなされ暴れ始めたので止めにかかったとのこと。

「それがこの状況というわけね…」

なんとなくひどいうなされ方をして、咄嗟に止めたのだろう。断片的に覚えている夢の内容からして、そういうこともありうるかもと思った、そしてまだ怠い頭を確認するかのように左手で髪をかき上げようとした

「・・・へっ・・・・」

ネチョっとした感覚が左手を襲う。恐る恐る左手を目の前にやると、どす黒い血がついていた。

「ちょっと、なにこれ・・・」

よくぞここまでと思うほどの冷静な口調で現場にいる彼女たちに尋ねる。

「あーゴメン!、あんまり暴れ方が酷かったもんで、一回なぐったわ!」

ロタがあっけらかんとした口調で白状した。

それを聞いてシルフィーネは、左側頭部への痛みと、とても強いめまいに襲われ、気を失った

「わ~!シルフィーネ!」

ジーナが叫びながら倒れる上半身を支える。

“こいつら、ちゃんと治療してくれるだろうかなぁ・・・?”

少々の不安を抱えながら・・・ゆっくりと意識が遠のいた・・

しばしの沈黙と乾いた風が彼女たちを襲った


次の日の朝、シルフィーネは目覚めた。

殴られた反動か、体調のせいなのか、まだ少しのだるさはあるが、体調は戻ってきた。

頭には包帯が巻いてある。ジーナが処置してくれたのだろう。

「ふふっ」

昨日のことを思い出して笑った。夢のこと、仲間のこと・・・

「あら、今日は早いわねぇ。」

隣で目覚めたカレンが声をかけてきた。

「まぁね・・・」

静かに答える。

「ところで、あんなにうなされるなんて・・・昨日はどんな夢を見ていたの?」

カレンが唐突に質問してきた。

シルフィーネはゆっくりと考え込み、口元に笑みを浮かべた、

「・・・そうさねぇ・・・・」

昔を懐かしむように・・・、遠い目で呟くように答えた

「・・・懐かしくて・・・楽しくて・・・最強に悔しい夢さね・・・・」


辺りには秋の終わりの少し冷え始めた風が吹いていた・・・・。

このエピソードは、私が小学校の頃に書いていたお話のクロスストーリなんです。

今思い返しても、かなり無茶苦茶なお話で、あの世界観は使えないなぁ・・・と思っております。

でもいつか、そのお話しを・・・まだスージーの左目があった頃のお話を・・・書いてみたいです。

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