05.01話 こころにくるもの
空は青かった
そして雲は白かった。
「いい天気ね。」
シルフィーネは穏やかな口調でそう言った。
「いまが警備でなければ、ちょっと川遊びでもいけるのにねぇ・・・」
隣で女兵士がつぶやく。
髪はロングでストレートのブラウン、スラリとしたいでたちの女兵士、アーシャだった。
「今頃はロタが水遊びしてるわね。」
シルフィーネが笑顔で答えた。
「間違いないわね!」
確信した口調でアーシャが答える。
二人は「そうね!」と笑った。
ここは女宮城の正門。二人は衛兵として門番をしている。・・・といっても、もともと王宮の中にあるので不審者の侵入などは皆無なのだが、規則上衛兵が立っているという状態だ。
朝からの警備をしている二人に涼しげな風が吹いた。シルフィーネの長い黒髪と、アーシャのブラウンの髪が柔らかく揺れる。
アーシャは、容姿がいいので、周りの男性から好かれている。また、竹を割ったような性格ではっきりとした態度を示すことができるので、女性にもあこがれの的となっている。
アマゾネスに入った理由も、彼氏を振ったので気分新たになる職を探していた。というものだった。剣技も体術も苦手。喧嘩が嫌い。まったく衛兵には向かない性格であるにも関わらず、ここを選んだのだ。
これにはジーナも、変わり者だねぇ・・・と、呆れていた。(そのあと、ロタやカレンの面接をしてからは、「いや、あんたは意外と正常だ!」と訂正していたが・・・。)
いつしか太陽は天高く上がっていた。
「あ~、仕事終わったら、男でも漁りに行こうかなぁ・・・」
唐突にアーシャが背伸びをしながら言った。シルフィーネは目をきょとんとしながら、
「こないだも、そう言ってたでしょ・・・。いい男はいなかったんですかー!!」
呆れた口調でそう言い返した。
「・・・んー、いい男はいるんだけど、ビビッ!て来る人がいなかったのねぇ・・・」
なんだ?そのビビッ!というのは・・・!? シルフィーネには理解できない。
「それより、シルフィーネは彼氏作らないの?ロタもカレンも彼氏いるでしょ!」
唐突に話題を変えられた。シルフィーネは、そんなことはあまり考えていないから、この手の質問はいつも困ると思っている。・・・・ので、話題を何とか戻そうと、
「あたしゃ、それより“ビビッ”て状態がどんなのか知りたいねぇ・・・」
いじわるそうな笑顔でそう返した。
アーシャは口元に指をあて、少し考えるそぶりをした。しばしの長考があった後に、
「そうねぇ・・・そう、」
とつぶやくと、
「青竹をナタで縦に割ると、“スパーン“ってとても気持ちの良い感じになるでしょ」
「うん、うん。」
シルフィーネは竹の割れる気分の良い音を想像した。
「それが、男を前にした瞬間に、頭の先から胸元まで感じるの。それがビビッ!とするって感じかな・・・」
「・・・は?・・・」
シルフィーネは思わず理解できない感嘆符を口にした。
「・・・えっ・・・?わからないかなぁ・・・」
アーシャは、これ以上ないくらい分り易く説明したつもりだったが、シルフィーネの反応にちょっとがっかりした。
「・・・う~ん・・・そうねぇ・・・」
必死でこの例えにくらいつこうとするシルフィーネ。
「・・・戦場で、強い人に対峙したときには、目の前に巨大な岩が落ちてきたかのような衝撃を感じたことがあるけど、そんな感じかな!」
おもむろに自分なりの解釈をアーシャに返した。
「・・・は?・・・」
今度はアーシャの口から理解できていない感嘆符がこぼれた。
「・・・岩・・・?」
聞き返すかのようにつぶやくアーシャにシルフィーネははっきりと答える
「そう!ズドーン!って感じ。」
言い終わってから、困惑したアーシャの表情に気づいたシルフィーネは、困った表情をして
「・・・えっ・・・?わからないかなぁ・・・」
とつぶやいた。
二人の間に暫くの沈黙が襲った。
「・・・ぷっ・・・・」
沈黙を壊すかのようにアーシャが吹き出した。そして二人は顔を見合わせた。
「アーハッハ!」
二人とも声高らかに笑った。
「アハハ!なんだか可笑しいわ!」
笑いながらシルフィーネが言った。
「アハハ!そうね。岩がズドーン!なんて私には想像できないわ・・・」
涙を浮かべながら、嬉々とした口調でアーシャが言う
「あら、私だって青竹がスパーンってのと、ビビッ!てのは繋がらないわよ!」
少々不満気味にシルフィーネが返す
それぞれが納得していない確認をしたところで、もう一度真顔になって見合わせた。
「・・・プッ!アハハ!!」
また二人とも笑いを堪え切れずに吹き出した。
「あんた達、何笑ってんのさ!」
巡回しているジーナが、あきれた声を二人に投げかけた。
二人は、ふいにかけられた言葉にびっくりして、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった
まるで、にらめっこをしているかのように笑いを我慢している二人、それぞれの表情を見て
「・・・ぷっ・・・・」
こらえきれなくなり二人同時に笑い始めた。それをジーナがあきれ顔で見ていた
真っ青な空の鮮やかな白い雲の下で、のどかに賑やかに昼は過ぎていった。