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Option of Amazoness  作者: カピパラ48世
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04話 彷徨うもの

戦は続いていた・・・・


何が原因で、何のために起こった戦争か、それは知らなかった。

ただ言えるのは、もうすぐこの戦は終わるのだろう・・・・。

そして、この国は負けるのだろう・・・・。

負けた後にこの国がどうなるのかわからない。

ただ、明らかに力のバランスは相手に有利に傾いてきた。


「もうダメかもなぁ・・・・」

重そうなフルメタルプレートアーマーに身を包んだ大柄の戦士が、小さく呟いた。

白銀であった装甲は返り血によってくすんだ黒に近い紅に染まっていた。

ヘルムから肩くらいまではみ出している髪は同じく返り血でほぼ真っ黒に固まっていた。その合間から元々の赤毛が見て取れる。

「・・・もう皆いなくなったからなぁ・・・・・」

流浪の旅をしていて、この国で一緒に傭兵として入った仲間五人は全て戦死した。

悲しいというか、寂しいというか、なにか心の何処かに大きな穴が空いたような虚無感と倦怠感が戦士を襲った。

「南の方には戦は無いって言ってたなぁ・・・・」

噂で聞いた事を思い出し、呟いた。辺りは夕陽に包まれ返り血さえも赤く染めた。

戦死者の散らばる血に染まった赤い大地を更に紅く染め、あたかも何も無かったかのような風景を眺め更に呟く

「大地ってすげえなぁ・・・・、死体なんかまるで大地の一部のようだ・・・・」

明日の朝になればまた戦が始まる。

日没が沈黙を引き連れてきた、あと二日ほどで新月となる細い月明かりがあたりを照らす。

静かな時が流れた・・・戦争など無かったかのような静寂の中、時折血生臭さを感じる。

バランスの悪い感覚が彼女を襲っていた。

ただ、戦場を見つめていた・・・


「・・・行くか・・・」


呟くと戦士は戦場を後にし、ゆっくりと歩を進めた。

闇に続く道に吸い込まれるように・・・・


戦場は広かったが、二日後には戦闘のない地域にたどり着いた。

途中、追い剥ぎや盗賊っぽい奴らに襲撃されるも返り討ちにした為、金品や食料などには困らなかった。

国境を超えたと思われる付近の川で身体と服を洗い休憩をした。

そこには大柄で筋肉質な女性の姿があった。

「もうこれはいらないか・・・」

返り血がこびり付いた鎧に目を向けた

元々は鉄製を白銀の色に仕立てた鎧だったのだが、返り血によって殆どが黒ずんだ色へと変わっている。

「一度もへこまさなかったのが自慢だったんだけどね・・・」

軽く自嘲しながら、思い出深いまなざしをそれに向けた。

鎧は返り血やサビなどはあるものの、傷は一つもなかった。あのひどい戦場にいながら圧倒的な力で戦ってきた彼女の凄さを垣間見ることの出来る鎧だった。

しかしここから先は平和な国家。返り血のついた鎧で歩けば色々と不便な事が起こりうる

護身のために剣は持っていこう。そう判断して仕度をする。


「今までありがとうよ!」

仕度が終わり、さっぱりとした声でそう言うと鎧に背を向け彼女は再び旅を続ける

麻をなめしたシャツの上に盗賊からせしめた革製の袖なしジャケットと、同じく盗賊からせしめた男物の黒くゆったりとしたズボン、背中に大剣と皮袋を背負った姿となった。

返り血がこびりつき固まった長髪は肩までのショートに切り落とした。長い時間かけて洗った髪は元々のストレートの赤毛に戻り、見た目は冒険者っぽくなった。

そばかすと赤毛の似合う巨漢の女冒険者はどこかの街へ続くであろう道を進んで行った。

「仕事のある平和な街がいいな」

赤毛の彼女、ロタの足取りは軽かった。



三つくらいの街を通り、大きな街についた。そこまでの街は国境警備であったり小さい集落のような街だったので仕事らしいものが見つからなかったが、この街はとても栄えていて、仕事にありつけそうな雰囲気がした。

想像通り、街中では人通りも多く商売も盛んだ。求人の貼り紙もちらほらと目につく。

そこに一番目立つ貼り紙・・・・

「王宮での女性衛兵求む」

目をパチクリし、その貼り紙を読み返し一拍置き口を開く。

「ここがアタシの新天地だ!」

微笑んだ、希望のある笑顔だった。


街の広い大通りの中にある潰れた酒場を利用して受け付けをしていた。

広い室内の中に椅子が並べられている。これが待合の場所なのだろう。

ロタが入った時には、潰れた酒場が錆びれた状態にしか見えなかった・・誰もいない・・・

間違えたか・・・?

そう思った刹那、声が聞こえた

「あら!衛兵希望の方ですか?」

はっきりとした声でロタに語りかけてきた。

「・・あ・・・ああ。」

想像とかなり違う状況に、戸惑いながら返事を返す

「お待ちしておりました! 私、現在衛兵をしておりますシルフィーネと申します!こちらはわたくし所属の衛兵長をお勤めのジーナ隊長です。」

嬉々とした口調で、袖のない赤いワンピースの服を着た長い黒髪の女性からの説明が始まった。

「そのお隣が、王室からおいでのハイデルさんと、王宮警護を務めておいでのミィルスさんです」

この四人で面接をすると言う事なのだろう・・・

しゃべっている黒髪の女はシルフィーネと言うらしい。

まるで主婦が台所から慌てて来たようないでたちで銀髪を後ろに纏めた女性は隊長のジーナ。

まるっきり貴族のイメージ通りの煌びやかな服装のヒョロリとした金髪の男がハイデル、そして

短く黒い癖毛で幼顔の男が王宮警備のミィルス・・・こいつ男の兵士くせに一番小柄で弱そうだ・・・幼くみえる・・・・。ロタはその幼い兵士を見た後、部屋を一瞥した。

「どうぞ、椅子にお座りくださいな。」

ロタが色々と面接者を物色してるところにシルフィーネが声をかけた。

「面接を始めますけどよろしいでしょうか?」

先ほどよりちょっと落ち着いた口調で言われた。語っているシルフィーネ以外の面々には少々緊張した趣が見えた。

どかっと無造作に面接官のジーナとシルフィーネの机にある椅子に座った。

「胡散臭いねぇ!!、本当にここは王宮警備の募集の場所なのかい?」

座るなり思ったことを言ってやった。

「ふふふ・・・そうね・・・胡散臭いわよねぇ。でも募集の面接なんてこんなものよ・・。」

即座に冷静にシルフィーネが答える。そして言葉は続く・・・

「まぁ、信じてもらえないならそれも良しね。確認したいのなら、王宮の門兵に確認して貰えればいいと思う。門兵にこの紙を渡せば答えてくれるよ」

そう言うと一枚の紙を見せてくれた。


”この人が、私たちを疑っているから、真面目な王宮警備兵の面接官だって教えてあげて

                                  シルフィーネ”


ああ、やっぱり疑われることを自分達も気づいているのか・・・・・

ロタは激しくそう思った。

「どうする?面接続ける?」

シルフィーネはニッコリと微笑んだ。



”・・・怖い・・・・”


ジーナはシルフィーネを横目で見てそう思った。

いつもの彼女とは全く口調が違う。軽く弾んだ口調がとても違和感があって怖い・・・

また、今回来たこの大柄な娘も、暴れ始めたら手がつけれなさそうで怖い・・・・

”だいたい、私服でいいって言ってたから、この格好で来たけど、男性二人は正装じゃないか!

 隊長って紹介されているのに、この主婦っぽい服装って、すごく恥ずかしいだろ!!”

そんな小っ恥ずかしいことを考えながら、ちょっと遠い目をして、なるだけ冷静さを見せるようにただ座っていた。

さっき来たカレンって小柄な娘も、すっごく得体のしれない雰囲気だったし、衛兵希望って娘は、こんなのばっかりなのかねぇ・・・

シルフィーネは冷静に対応してそうなので、私の出る幕はないのが救いだわ・・・・

そんなジーナを横目に、シルフィーネ曰く「胡散臭い紹介状」をロタに見せている光景が・・・


「どうする?面接続ける?」

ニッコリ微笑んだシルフィーネを見て怖くてジーナの背筋に悪寒が走った。これは、一般人は逆らえないやつだ・・・・

「おもしれぇ。あんたらが本物でも偽物でも構わなくなって来た。続けようぜ!」

ロタは迷わずそう言った。


面接の内容はシンプルだった。名前、年齡、出身と今までの経歴。そして志願の動機。

そこまでの内容が終了して、ロタからの質問が出る

「部隊の構成は?」

唐突の質問にジーナが慌てようとした。

実は、新設の部隊なのでまだ三人しかいない、いや、カレンって娘も入れて四人!

「あなたが入ったら五人ね」

そんなジーナを横目に、楽しそうな口調でシルフィーネが現状を答える。

「はぁ?なんだ、その破綻した数字は?」

ロタが聞き返す

「あら、創始メンバーの一人だなんて素敵じゃない!そう思わない?」

シルフィーネの言葉に迷いがない。

「あなたは戦士としてとてもステキな強さと体格ね、街で人気のジーナとアーシャが率いて

さっきの可愛いカレンちゃんと一緒にアマゾネスの良い印象が生まれると思うの、ぜひ入隊して!!」

早口にそう言い切った。

”いや、自分、目立つのが面倒くさいと思ってるな!!”

ジーナはそう思った。

「見世物になるのかよ!」

すかさず返すロタにシルフィーネは

「あら、最初だけよ。新しい宮殿ができたらそんな暇なくなるもの・・・」

しれっとした口調で言い切った。

何か調子の狂う問答をこなしている気がする・・・・ロタは相手のペースに飲み込まれないように軽く深呼吸した。

「ところで、お前ら強いのか?アタシは弱い奴の下にはつかないぜ。」

不意にロタが口火をきる。戦士として生きて来たので、あまりにも弱い奴の部下になりたくない。まぁ創始メンバーだから入隊してすぐに隊長の座を奪っても良いかもねぇ・・・

そんな思いがあっての質問だった。

「あら、ジーナは三人の子供がいるとても強い主婦よ!」

シルフィーネは体の前で小さく両手で拳を握り自信ありげに答えた。

”何を言っている!!”ジーナはなるだけ表情を崩さずにそう心の中で叫んだ。

「いや、そうじゃなくて、「戦士として」だ!!」

さらりとした口調でのふざけた返事にロタの対応は早かった。

シルフィーネはその問いに、わざとらしく考え事をする素振りをしながら応える

「うーん、そうねぇ、貴方は間違いなくジーナよりは強いわよねぇ・・」

やっぱり・・・ロタはそう思った。

「でも、さっきのカレンちゃんも剣技凄そうだから、もしかしたら三番目なのかしら。」

嬉々とした、はっきりとした口調で答えた。

「なぜそう思う?」

自分の強さに自信のあるロタからするといきなり格下扱いをうけるのは気に入らない。

「うーん、強さって一対一の時についてよね。」

確認を取っているのか註釈をつけているのか、シルフィーネは言葉を続ける。

「あなたは見た目からしてパワーがありそうだから、基本は相手をなぎ倒す戦法が得意そうね。部屋に入って来たときのあなたのステップをみると、前後のフットワークが得意そうよね。つまりは切込隊長という戦い方なら、きっとあなたが一番凄いわね。」

「でも一対一の戦いだと、その戦法で必ず勝つには初撃必殺だから、横のステップが素早くできる人には対応される可能性があるのよねぇ。」

「でも、あなたの目配りを見ていると、ちゃんと周りの観察をしているから、戦闘スタイルは切込隊長だけど、全体のスタイルは後方支持があってそうね。」

さらりと言い切った。

「どういうことだ?」

ロタはあまりにも指摘の内容に心当たりがあるのでとっさに聞き返した。

「そうねぇ・・・。簡単に言うと、一対一ではあなたに勝てそうな人がいるけど、集団で戦うならあなたの才能は敵無しってことかしら・・・城を守る衛兵を募集なのだから凄い適任よね!」

この女、鋭いな・・・

ロタは最初、警戒するのは幼い顔の男兵士ミィルスと思っていたが、修正した。

「あなたミィルス見たときに逃走経路確認したわよね。わたしそう言う警戒心、大好きよ。」

嬉々として話しかけてくるシルフィーネ。内容は図星だったが、嫌いな感じではなかった。

・・・しかし・・・

「ってことは、あんたが一番強いのか?」

シルフィーネを一瞥してロタは質問した。

自分を指名され、シルフィーネは一瞬キョトンとした表情を浮かべてから笑いながら言った

「あはは! まぁ、この隊では強い方ってことね。でも一番かどうかは試したことないからわかんないわよ!」

嬉しそうに答えるシルフィーネを見てロタは正直に思ったことを伝える

「お前の腕を試したい!」

シルフィーネを除く全ての面々の顔が引きつった・・・・


「いいわよ。ここでいいかしら?」

シルフィーネは目の前のホールを指差した。もともと酒場であったところなので、ここのホールは広いのだ。

「いいぜ!」

ロタも同意した。

「武器は・・・」

ロタがルールを言おうとした時、

「あなたは自分の剣や武器を自由に使ってもいいわよ。」

ニッコリとした笑顔で許可が下りた。

見透かされ苦笑いを浮かべ、ロタは迷わず自分のロングソードに手をかけた。

「あら、でも私、ショートソード持って来てないわね・・・」

忘れ物でもしたような、とぼけた口調で右手で口を抑え考えるそぶりを見せると、立ち上がり辺りを見渡しながら散策をした。

「これにするわ!」

何気に調理場にあった道具を手に取りロタに見せた。

「・・・へっ・・・」

ジーナは驚きの声をあげた・・・

「ちょ・・ちょっと、シルフィーネ!!いいの?それで?あなた、相手はロングソードなのよ!!」

ジーナの問いにシルフィーネは悪びれた様子もなく

「まぁ、同じ金属だからいいんじゃないかしら、ロタちゃんの肌綺麗だから傷つけるのも忍びないし・・・・」

と、しれっと答えた。

シルフィーネが手に取った物・・それは、中型のフライパンだった・・・・。


「なめやがって・・・」

ロタの闘争心に火がついたのに気づいたのはジーナだけでなかった・・・・。

ホールの中で対峙する二人、一方は大柄で筋肉質。180センチは超えている身長と、その身長と同じくらいの長剣を両手で構えた赤毛とソバカスが特徴の女戦士ロタ。

もう一方は160センチくらいだろうか・・・長い黒髪と赤いワンピースが特徴でフライパンを左手に持ったシルフィーネ。

一度怒りを見せたロタだが、今は冷静になっていた。こう言う輩は冷静に対処しないと痛い目に遭いそうだと言うのは知っている。

「怪我してもしらねぇぜ・・・」

ロタは低く脅すような口調でシルフィーネに言った。

「あら、怪我したらお嫁にもらってね。」

シルフィーネはニッコリとおかしな返事を返した。

しばしの沈黙があったがロタがそれを制止した。

「行くぜ!!」

剣の柄を強く握り直し、振り上げた。一気にケリをつける気だ。

その凄さがジーナにもわかった。振り上げが速い。いくらシルフィーネが先程言ったように、素早い横ステップができても、あの速さは避けられないだろう・・・そう思った。


バシーーーーン!!


刹那、大きい音がホールに響いた。

シルフィーネがフライパンの底を思いきり机に叩きつけたのだ。

誰もが音によって動きを止めた、

ロタも例外でなかった・・・・

「な、なんだ!」

躊躇したロタの懐へシルフィーネが動き、振り下ろす前の剣の柄をフライパンで弾いた。

剣はロタの手から離れ、床へと落ちた。

「・・・へっ・・・」

ロタは何が起こったのか分からない状態で、そう言うのが精一杯だった。

キョトンとした彼女の目前に影が迫って来た

―――コツン―――

硬い・・・ヒラぺったい物がロタの額に軽く当たった。

「はい、私の勝ち」

視界からフライパンが退いた後に、満足げな笑顔を見せたシルフィーネがそう言った。


”動きが速い!!”


いくら躊躇したと言え、懐へ入ったあのステップは速かった。

・・・ただ・・・

あんなの卑怯だ!納得いかない!!だいたい、あいつが強いかどうかを測ることができなかったではないか!!!

親指の爪を噛みながらブツブツ言っているロタに気づいたシルフィーネから提案があった。

「もう一回やる?」

笑顔で言ったその言葉に悪気は一切感じられなかった。


「今度は、しっかり相手してあげるわ。」


シルフィーネは屈託のない笑顔で楽しそうに言った。


シルフィーネとロタはもう一度対峙した。ロタはきっとこいつなら殺すつもりでやっても死なないだろうという不確定な自信を感じた。

「今度は殺すつもりでやる!」

シルフィーネに伝えているのか、自分に言い聞かせているのか、それはロタにも分からなかった。

「あら物騒ねぇ、死んだら人数足りなくなっちゃうじゃない」

まるで世間話でもしているような口調でシルフィーネは答える。

「行くぜ!」

ペースを乱される前にロタが動いた。

再度ロタが剣を振り上げる。床から大きな音が聞こえる程の強い踏込み。そして真横から大きくなぎ払うような剣さばきを始めた。

流れるようにロングソードを振り回すロタ。広いとは言え、この限られた空間の中で大きく横に剣を振り回しては逃げる場所がない。剣で切る動作に入ったら自分の込めた力と剣の重さで誰にも止め様がない。彼女のステップは速い。それに負けないようになるだけコンパクトな動作で溜めを作り、薙ぎ払う!必要なのは素早く薙ぎ払う動作に移行することだ!

ジーナたちには溜め動作なく真横に薙ぎ払う動作が開始されたように見えた。

この動きになれば、もう避けられないだろう。しかし・・・

刹那、シルフィーネの姿を見失った。

”な・・に・・・!!・・・この一瞬の動作の中で見失うだと!!”

しかし剣の動作は止められない。振り抜くのみ!振り抜くために脇を締め始めたその時、ロタの視界の下側に影が見えた。

”・・・!!・・・”

その影はやがてはっきりと見え、まるで両腕の間からフライパンが生えて来たように見えた。

真横に振り抜こうと低めに構えられた両腕の間から飛び出るように生えて来たフライパンの次にそのフライパンを持ったシルフィーネが出て来た。まるでロタがシルフィーネを抱え込んでいるかのようになった。シルフィーネが素早い動きで前にステップし、剣の届かないところ・・・腕の間にくぐってきたのだとやっと気づいた。脇を締める前だったので、力が足りない状態の内側から腕を押され思わず剣を離してしまった。剣は勢いよく床を転がり入り口付近の柱で止まった。

そして・・・

ロタの視界が暗くなり、額にコツンと言う衝撃が走った。そして視界からフライパンが退いたときに、前回と同じ笑顔が見えた。唖然としたロタにシルフィーネは楽しそうに問いかけた。

「どう?まだやる?」

ロタは一度目をパチクリさせ、ゆっくりと、大きくため息をついた。

「まったく・・・、参ったぜ・・・・」

そう言ったロタの表情はなぜか嬉しそうだった。


「いい居場所が見つかった」

ロタは心底そう感じた。


 ロタの中で続いていた戦いはやっと終わったのだ・・・・・



「ところでよぉ、カレン!」

唐突にロタが口を開いた。

「面接でシィルに、どうやって口説かれたんだ?」

「アタシは・・・衛兵向きって太鼓判押されたんだけどよ・・・」

あの時のシルフィーネの言ったことを話した

「へぇー、あなたそう言う風に口説かれたんだ・・・私にはどうだったかなぁ・・・」

ちょっと昔の事なので覚えているような覚えていないような・・・斜め上を向き、左手の人差し指を下唇に当てながら、そんな記憶を辿っていったカレンがいきなり顔を赤らめた。

「・・・えっと・・・・」

思い出したのだがちょっと焦らし始めた。

「なんだよ、教えろよ!!」と急かすロタに、オドオドと答えるカレン

「・・・ボソボソ・・・ボソボソ・・・だから・・・入隊しちゃいなよ・・・って・・・」

消え入りそうな声で発した言葉はロタにはまったく聞こえなかった。

「えっ!なんていったの?」

カレンは一度呼吸を整え、小さい声だったが、今度は聞こえるように・・・

「・・・あなた、可愛いから、私の妹になって入隊しちゃいなよ・・・って・・・ミィルスの・・・前で・・・・・」


「・・はっ?・・・」


何やら仲間はずれを受けたような嫉妬心が・・・・・・、


「じゃあ、シィルにアタシのこと「お姉様」って呼ばせてやる!!」

ロタの別の戦いが始まろうとしていた・・。

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