34話 闘いしもの
シルフィーネは闘技場の中央でキノアス最強の剣士を待つこととした。
正直、目立ちたくはなかったが、ウォルドが弱かったと思わせたくない。
最強の剣士でない者に泥仕合になったり負けるわけにはいかない。
それゆえの圧倒的な勝利だったのだ。
小さな歓声が上がった。
闘技場への入口から白が基調で小さな金装飾のある軽装の鎧を着たランザードが入場してきた。
その姿に木剣を持ったランザードを見て、
「ちょっと木剣では見劣りするわねぇ・・・ご自身の剣を使ってもらったほうが良かったかな?」
とコウに言った。
コウは短く考え事をし、ランザードへと詰め寄り短い話をした。
すると
「シルフィーネ殿!」
ランザードが声を上げた
「我が剣を使用するならば、そなたも自身の剣を持たれるがよい!」
・・・でなければ木剣でやろう・・・と言葉が想像できたので、シルフィーネはにっこりと笑い
「めったに拝むことのできない剣と交えることができるのなら、私も自分の剣を持ってまいりますわ。」
軽やかに言うと、
「皇子!左手の剣も忘れずに。」
そう言葉を付け足し、シルフィーネは足早に控えベンチにと向かった。
ランザードは苦笑いした。
モーリスが二本の剣をランザードへと手渡した。鎧と同じく、白色が基調で金の装飾のあるナイトソードと、もう一本・・・装飾のない白が基調の・・・
太陽がもうすぐ真昼を告げる高さに達しようとしていた。
「仕切り直しでございます。」
コウが高らかに声を上げた。
シルフィーネは見た目普通のショートソードを左手に持ち下段に構えた。
ランザードはそれよりも長い白いナイトソードを右手で水平に横に構えた。
”想像通りだったわね・・・横の移動が得意な構えよね”
シルフィーネはそう思った。
「開始です」
さすがに皇子が試合をするということで、いつもの命令の口調では問題が出るので、ちょっと言いづらそうにコウが始まりの合図をした。
シルフィーネは相手の出方を待った。彼の装備を想像すると、先手を出すタイプでは無いと踏んでいたので、その確認だ。
ランザードもこちらの様子を窺っていた。
”想像通りね。”
それではやはりこちらから打ち込まないといけないわねぇ・・・と思うと、左手に力を込めた。
「皇子!参ります!!」
聞こえるように言うと、やや左寄り・・・ランザードから見ると右寄りから切りかかった。
ガキーン という金属音が響いた。
ランザードの剣がシルフィーネの速い攻撃を正確に防いだ。
防がれたことを確認し、シルフィーネがバックステップし間合いを取った。
”やっぱりこんな打ち込みは簡単に対応されちゃうわね・・・”
そこからシルフィーネの乱打が始まった。
それをランザードは全てその剣で受け止めた。
観客からは「お~!」という感心の声が聞こえる。
シルフィーネの乱打も速くて正確だが、ランザードの剣もそれに正確に対応する。
時折ランザードが攻撃するも、シルフィーネは鮮やかに躱す。
あの時の対戦の時よりも軽やかに動くシルフィーネを見て、ウォルドは小さく含み笑いをした。
シルフィーネの細かく剣速の速い攻撃に、ランザードは苦戦し始めた。
その時、ランザードの左手が動いた。シルフィーネが咄嗟に避けるも、
キィン!という決して大きくはないが響く音が木霊し、シルフィーネの剣が弾かれるように左側へ移動した。ギリギリ避けたと思ったが、振り切るときに間合いが変わったのだ。
「これは知っていたのだろう」
ランザードがシルフィーネに小さく言葉をかけるとシルフィーネは苦笑いをした。
「もっと小型のものと思っていましたわ。」
左手に仕込まれた小型・・・と言ってもシルフィーネのショートソードより少し短い剣が襲ってきたのだ。その剣は振り切ったときにはまた収納され、観客には見えなかった。
「私は列強の戦士と比べて見劣りする技量なので、工夫でその差を埋めているのだよ。」
申し訳なさそうにランザードが小声でシルフィーネに言った
「皇子、それはしたたかさという強さ、とても誇らしい強さと思いますわ。」
シルフィーネはにっこりと返した。実際に生きて帰る方法を模索する者は強い。それは直進的な強さに限らず・・・それに拘らず、実行する者は、厄介なほど強い。
ランザードはシルフィーネの言葉のしたたかさに小さく笑った。
キン!キン!ガン!
暫くの間、動きの速い攻防が続いた。
「こんなに楽しい戦いは記憶にないぞ!」
ランザードが声を上げた。苦戦はするものの、こんなに均衡した相手との戦いは初めてだ。充実した時間を彼は楽しんだ。
しかしそんな闘いにも結末はやってきた。
切りかかったシルフィーネの剣をランザードが強い剣戟で受けた時、鈍い音が響いた。
カラーンと乾いた音を立てて剣が地面に転がる。根元から折れたショートソードが地面に落ちたのだ。
今まで素早い攻防に湧き上がっていた観客の声が一瞬止まり、ざわめきが起こった。
速い攻防・そしてとても小気味の良い状態であった為、勢いは止まらずランザードは流れるように上段から振り下ろすようにシルフィーネに切りかかった。
”しまった!!”とランザードの頭の中で言葉が出た、シルフィーネにはそれを受ける剣の刃がないのだ・
無情にも剣はシルフィーネへと振り下ろされた。
ガゴン!
鈍い音が聞こえた。
ランザードは目を見開いた。振り下ろした剣が避けるように体を横に向けたシルフィーネにあたる前に止まったのだ。そして、目を疑った。
振り下ろした剣に突き立てるように折れた剣が当てられていた。
上から真直に振り下ろしたランザードの剣を下から真直に剣先の無くなった折れた根元を立て止めたのだ。
そして・・・静かな微笑みを浮かべたシルフィーネの口が動いた
「皇子・・・降参いたしますわ・・・」
この声はコウにも届いた。
「勝者!ランザード皇子殿下!」
その声を受け、観客から大きな歓声が上がった。
勝ち名乗りを受けたランザードが呆然と立ち尽くす・・・が・・・ハッとして、観客の声援に応えた。
シルフィーネはそれを見てゆっくりと踵を返しスタジアムを後にする。
控室に続く廊下でウォルドがシルフィーネを待っていた。それに気づいたシルフィーネはわざとらしく「あらっ、」と軽く声を上げた。
「今度はどこまでが作戦通りだったんだ?」
ウォルドがうんざりした表情で問いかけてきた。シルフィーネはキョトンとした表情をした後満面の笑みを浮かべ
「やっだー!もう!人を化け物みたいに!!」
と言いながらウォルドを通り過ぎると、後ろ向きに手を振り
「全部よ!!」
と楽し気に応えながら過ぎていった。
ウォルドが苦笑いした。




