28話 思い返すもの
視線が泳いでいた
眼前に広がるキャピキャピした風景に、頭痛を起こしそうだった。
「えー、それでは剣を使用した護衛の練習をする。」
ロタが辺りに聞こえるほどの大きさの声で言った
“ロタは三勤で交代したいって言ってたから、楽しいんだろうねぇ・・・”
シルフィーネは横目で張り切っている彼女を見ていた。
“まぁ、私は、私の代わりしてくれる人がいればいいんだけどね・・・”
生あくびを殺しながらそう思うと、ゆっくりと視線を目前に向けた。
“このうち何人が残ってくれるんだろうねぇ・・・”
果物屋の商品の品定めをするように彼女たちを見た。
実際、この中の半分以上は辞退することになるだろうが、この人数はすごい、
目前に見える約40人の女性を見てそう思った。
―――カン!カン!―――
木剣で練習をする彼女たちをロタとカレンが相手をする。
「キャー!!カレンさん可愛い!!」
たまに聞こえる黄色い声に、カレンは少々引き気味に指導した。一応“さん”付けで呼んでいるが、彼女たちはカレンのことを可愛い妹ぐらいに見ているのだろう。
「ロタ様!さすがです!!」
逆にロタには、まるで頼れる異性のアイドルでも見るかのような扱いだった。「なんでロタは“様”なのよ!!」とカレンの愚痴が聞こえてきた。言い様のない苦笑いをしてシルフィーネは「ははは」と乾いた笑いをしながらカレンを見つめた。
「えー!シルフィーネ様はご覧になられるだけなんですか?」
一人の研修生が声をかけてきた。シルフィーネというと、長期にわたって休養していたのでリハビリという名目で訓練には実際は参加していない。
“まぁ、ロタとカレンに任せていれば、私はいらないんだけどね・・・”
そう思いながら質問の返事をする。
「あら・・・私はまだ体調が戻っていないから、目立った運動ができないのよねぇ・・・」
まぁ、特に体調が悪いわけではないが嘘は言っていない。ただ、あまり目立ちたくないだけだ。
「まぁ、残念ですわ。」と研修生は恭しくお辞儀をした。
自分目当てにここへ来た大半が、ロタとカレンに寄ってくれたので、少しは楽になっているが、まだ何人かはシルフィーネの単独推しが存在する・・・みたいだ。
「そうですわね。あのウォルド様に勝利されたのですものね。とても無傷ではいられませんですものね・・・。そうそう、あの試合はとても感動的な試合でしたわ。」
矢継ぎ早に言葉を重ねてくる。相当あの試合が気に入ったのだろう。
「・・・ははは・・・そうですわね・・・」
つられて何やら主婦じみた口調になってしまった。「それではお大事に・・・」と研修生はその場を後にした。
暫くはこんな感じでお話の対応をしなければならないんだろうなぁと少々うんざりした。
初夏の朝の穏やかな日差しが、辺りを照らしていた。
コロシアムの戦いから二週間ほど経過した
「ところでだ・・・」
「・・・えっ・・・」
昼食時にウォルドと会った。確かに試合後に会うのは初めてだった。
「どこまでが作戦道理だったんだ?」
少し冷めてきたスープをスプーンで口に入れている時にそう聞かれた。
シルフィーネは、キョトンとした表情をしたまま、はしたなくスプーンを口に咥えたまま
「・・・なにが・・・?」
と答えた。
「何がって、祭りの闘技大会の話さ。」
ムスッとしながら質問の詳細を付け足した。
「ん――――。」
短い長考があった。
「作戦通り、人員確保!」
口からスプーンを離し、高々と上にかざしながらそう言った。
「俺がそれを聞きたいと思ったか?」
不機嫌な答えが襲ってきた。
「ぷぷっ!」
隣の席で昼食をとっていたジルが噴き出した。
「あんな体調であんな体力を消費する戦い方をした理由とか知りたくてな」
そうだ、普通に考えて、体調の悪い戦い方ではない。ジルの時のように一気に勝敗がつくのであればその限りではないが、ウォルド相手にはそんなわけにもいかない。
「・・・う~ん・・・」
ほぼ本能と勘で戦っていた自分を解析するのは難しい・・・シルフィーネは答えを纏めるのに苦労した。
「まぁ、私にとって最初は勝敗は関係なかったんだけどね・・・」
その言葉を出だしに選んだ
「ロタに吹っ飛ばされるのもなんかねぇ・・・」
「はっ!?」
隣で昼食を食べていたロタが素っ頓狂な声を出した。
「あと、あの状況で勝てるのはカウンターか同時に切りかかるパターンしか思いつかなかったからねぇ・・・」
なんとなく自分を思う返しながら解説が始まった
「それでも、相手の奴が強いくせに慎重だったから、全然先手を出してくれないのよねぇ・・・酷いと思わない?」
ウォルドは苦笑いした
「それを俺に言うのかい・・・」
それを見て意地悪い笑みを浮かべながら話を続ける
「ひいき目に考えて剣の腕が互角としても、あの体調では勝ち目ないからね、でも一撃勝負なら、何とかいけるかもって考えてたんだけど・・・」
「だから、こっちがヘトヘトになれば、あなたが先手で切りかかるようになるかもって、自分の体力を使い切るような作戦にしたのよ。」
ウォルド自分は誘導されていたのだと知り、苦笑した。
「グルグルガンガンは、もしかしたら押し切れるかもってやってみたけど、押し切れなかったのよねぇぇ・・・まぁ、体力を使い切るにはよかったけれどね。」
グルグルガンガン・・・すごいネーミングだ・・・と周りの誰しもが思った。
「・・・ああ、あれは凄かったな・・・俺も受けるのが精いっぱいだった。」
ウォルドが冷静に称賛した。
「・・・あら・・・ありがとう・・・」
意外な称賛にシルフィーネは素直に礼を言った。
「でも、予想以上に体力持ってかれちゃってさぁ・・・」
なんとなく照れ臭かったので、話を元に戻した。
「そしたらねぇ・・・」
「私を信じてくれる、トンデモ隊長がいてねぇ・・・」
「できれば負けたくないって思っていたのが“絶対勝ちたい”に変わったの。」
はっきりした口調でそう言った。
「・・・なるほど・・・そこで名乗り口上を上げて、最低でも同時に切りかかる状況にしたというわけか・・・」
「えへへへへ・・・」
シルフィーネは肯定の笑顔を返した。
「最後に剣を弾いたのは、狙っていたのか?」
ウォルドが質問をした。
「あれは、切りかかる前からあれしか狙っていなかったわ。」
あっけらかんとした返事が返ってきた。
ウォルドはその迷いのない返事に一瞬戸惑ったが、高笑いを始めた。
「・・・そりゃ、勝てねぇわ・・・」
その言葉を聞き、ジルがびっくりした。いったい何年ぶりだろうか・・・あのウォルドが本音で発した言葉・・・そう思うと、ジルにも笑みがこぼれてきた。
「だが、次は負けないさ。」
ウォルドがシルフィーネに向けそう言った
シルフィーネは目をぱちくりさせた後に
「もう、あんな戦いはこりごりよ。」
とてもうれしそうな笑顔でそう答えた。
もうすぐ夏を迎える爽やかな季節が辺りにあふれていた。




