24話 白きもの
「ねぇ、どうしたの?」
澄んだ声色で、そう尋ねられ、私は声のする方を見た。そこには、清楚な白い衣を纏った長い純白の髪をたなびかせた幼顔の女性がいた。
“・・・ん?・・・『私』?・・・”
思わず、自分に言った一人称を確認する・・・
“わたしは・・・わたし・・・は・・・?”
自分の名前を思い出すのに躊躇した。
“わたしは・・・シルフィーネ・・・”
自分の名前を頭の中で反芻するも、何か強い違和感を覚えるのだ。しかしその理由がわからない。
その時、何気に視界に入った自分の手にかかった自分の髪の毛を見た。
“純白の髪?”
自分が見慣れた黒い髪の様相はなかった・・・
そして、目に写るのは、純白と言える世界・・・噴水を中央に置いた直径30mはある大きな泉、その周りを白い大理石でできたタイル張りの床が広がり、それをさらに囲むかのように木々が生い茂っている。
見たことのない場所、見たことのない髪・・・しかし妙に現実的な情景に、ただ違和感を覚える。自分の名前はシルフィーネなのだが、どうも今の自分はそうではないみたいだ。
“私は・・・誰?・・・”
そう思い直すも、名前が出ない。
「どうしたの?『―――』、お腹でも痛いの?」
“えっ!今、私の名前読んだの?”
シルフィーネはそう思ったが、今の自分はそうではなかったみたいだ
「フフフ、大丈夫よ。『―――』。」
まただ、今度は相手の名前が聞き取れなかった・・・自分が発した言葉だというのに・・・。
自分の考えははっきりしているのに、今の自分はまるで自分の考えを受け付けない。まるで歌劇を傍から見るような気分だ。
その『私』は一面に白い大理石のタイルに包まれた広い空間のなかを、中央にある人工的に作られた泉に向かって歩を進める。そして泉を覗き込んだ。水鏡となったその水面に『私』が映った。透けるような白い肌、澄んだ碧い瞳、整った顔立ち、純白と言える白い髪、そして白いワンピースの衣を纏った女性が映った。シルフィーネはあまりの美しさに息をのんだ。
すると、『私』はクスクスと笑うと
「どう?思い出したかしら・・・」
と呟いた。シルフィーネはハッとした。今のは間違いなく私に、シルフィーネに投げかけた言葉だ。
「・・・あら・・・そう・・・あなたの名前はそういうのね。素敵な名前だわ。」
『私』は静かに『シルフィーネ』に言った。
「人として生きるのは大変ね・・・」さらにそう言うと。透き通るような白い指で水面を掻いた。
人として・・・確かにここは人が暮らすには生活感がない。見た目は豪華で美しく清楚だが、これはまるで・・・。
「―――檻のよう―――。」と、シルフィーネにも聞き取れない程のか細い声で、ぼそりと呟いた。彼女は一瞬寂しげの含んだ笑顔を浮かべた。
水面に映った表情はとても印象的な表情だった・・・・。
「『―――』、彼が来たわよ。」
ポンと多々に手をけれた感覚と同時に、同じような服装をした同様に美しい女性が、からかう様に『私』に耳打ちをする。
“ああ、やっぱり名前は聞き取れないのね。”と、呆れた途端、『私』が、とても高揚するのが分った。
「『―――』ね!」
素早く振り向く視線の先には、灰色の髪で黒いマントを羽織った青年が映った。
“あの人は―――”
その時、まるで空間に沈んでいく様な。何かによって引き戻される様な感覚をシルフィーネは感じた。
“―――そう―――私の運命を―――”
『私』の声が遠くに聞こえた。




