23話 決着をつけしもの
ウォルドは二つの間合いを測っていた。
一つは自分の間合い、剣での攻撃の有効な間合い、そしてシルフィーネの剣の間合い。
シルフィーネのほうが短い剣を使用しているので、彼女の方が一歩踏み出さないといけない。そして左手で握られた剣でウォルドに一撃で勝利するには強く剣に内側への回転を最後に与える左足がその間合いの起点となる。それ以外での間合いでは自分を一撃では仕留められない。そして、その間合いは自分の剣戟が有効な範囲だ。
“悪いが、俺も負けるわけにはいかないからな・・・・”
心の中でそうつぶやいた。
観客の緊張感は、本日最高潮になっていた。アマゾネスの健闘もあり、王宮警備隊と4勝4敗。ここまで互角の戦いをしてきた。ウォルド優勢になったこの戦いも、一撃勝負という場面となり、その勝敗はいくらウォルドに有利といえども、今までのシルフィーネの動きを見ると、もしかしたら勝機あるかもしれないという観客の思いも見えた。
シルフィーネは大きく息を吸い込んだ。宣言した以上こちらが先に動かねば話が進まない。
静まり返ったコロシアムで、観客がシルフィーネの動作に集中した。
「ハッ!!」
低い姿勢のまま、短く大きな掛け声とともにシルフィーネは、今自分の持てる最速のステップでウォルドに向けて駆け出す。
全ての神経を左手に持った剣の先にと自分のステップに集中する。狙いは一つ・・・・。
息をのむように静まり返っていたスタジアムの観客が、今日最高の歓声を奏でた
下腹の強い鈍痛をなんと跳ね返し、精いっぱいの速さで踏み出す。もう次の一撃以外考えない。視界の目一杯がウォルドしか見えない。攻撃されるだろうが、それは勘で避ける。
その時、ウォルドが半歩間を縮めた。
「!!」
ロタはそれを見逃さなかった。
“ヤロウ!! シィルの渾身の一撃を、間合いをずらして・・・”
ロタは歯ぎしりをした。
そして・・・
ウォルドの剣がシルフィーネに向かって振り下ろされた。
―――勘というものは、賭けに似ている―――
どちらも未来予測をするべく要素がある。
しかし、賭けと勘が違う決定的なところに、まるで神からのお告げのような・・・何かの知らせというような道順が見えるときがある。
そこにしかないすべての答え・・・
ウォルドの剣がまさにシルフィーネに襲い掛かる刹那、彼女は世界がまるでスローモーションのように遅くなったかのような感じをうけた。その感覚は一瞬。すぐに元の時間軸へと戻る。その一瞬でシルフィーネには、何かを感じた。今一度、強く歯を食いしばった。もう、自分が叫んでいるのかすらわからない。左足で強く地面を蹴る。今まで最速に思えたそれより速い速度でシルフィーネは前に進んだ。
「なに!!」
ウォルドが小さく唸った。ここにきて更に上がったスピードに驚愕した。
しかし、近くなりすぎたこの間合いでは、自分を仕留める威力は望めない。
「うおおおおおおお!」
ウォルドが声をあげ、当たらないと確信した剣を振り切る。シルフィーネは止まらない。剣を振り切り、迫りくるシルフィーネを抱きとめるかのような姿勢になった。“このまま彼女が剣を振る前に受け止める!”それでシルフィーネは力を使い切る。
そして・・・
シルフィーネは内側ギリギリに・・・ウォルドの右足のほんの僅か前に右足のつま先を出した、更に強く歯を食いしばる。この動きは下腹にはもう限界だ。
“この一歩の為に・・・”
つま先が地面についたと同時に、シルフィーネが体を捻り背中をウォルドに預けるような姿勢になった。勢いがあるので、そのまま背中でウォルドを押した。少々の衝撃はあったが、もともと受け止める姿勢だったので、難なく耐えた。
その支えを受けシルフィーネが両手で握り直した剣を左下から強く振った。ウォルドは一瞬理解できなかったが・・・
「!!」
狙いに気付き、剣を垂直に立てた。弾き飛ばさせないように・・・・
シルフィーネの口角が上がった。すべての神経を剣の軌道に乗せた・・・・。
「はっ!!」
短い掛け声にすべてを乗せ、残りの体力を使い尽くす。
シルフィーネの振った剣はウォルドの剣の柄を正確にとらえ、その右手から、天高く弾き飛ばした。
最後右手で振り抜いた姿勢で弾き飛ばした剣を確認した・・・・もう視界も定まらないが、高く弾いた剣の位置はなんとなく把握できた
「・・・ちょっと・・・やばいかなぁ・・・・」
疲弊した表情で小さく呟いた・・・・。
あたりどころが良かったため、ウォルドの剣はかなり高く上がってしまったようだ。
“このままウォルドが気付か・・・”
同時にウォルドが剣の落下地点へ駆け出そうとした
“・・・ないわけないよねぇ・・・!”
気付いたシルフィーネが、ウォルドにもたれかかり、それを阻止する。力なく立ちふさがったものの、邪魔はできたようで、おそらくこれを振り切っても落下地点に間に合わないだろう。
シルフィーネが安堵したその時、右側頭部に強い衝撃が襲ってきた。ウォルドがシルフィーネをノックアウトするために強引に彼女の側頭部を掴み、押し倒す。
“やばい!!”
思うより先に―――ゴウン―――という音がシルフィーネの頭に強く響いた。左側頭部が地面にたたきつけられたのだ。
「ひっ!!」
まるで人形でも叩き付けるかのように倒されるシルフィーネを見て、ジーナは思わず声をあげる。
打ち所が悪ければ死んでしまうようなその勢いに恐怖した。
―――必要なら、殺すわね―――
シルフィーネから聞いた言葉が頭をよぎる。
「・・・ま・・・まさか・・・」
そう呟きかけた時、シルフィーネに動きがあった。
「・・・ああ・・・」
何とか生きている姿に、ジーナはへたへたとその場にしゃがみこむ。
シルフィーネは残った力を振り絞り、剣を持った右手を上にあげ自分が健在であると示す・・・そして・・・
「・・・残・・・念・・だったね・・・そっ・・ち側は、ロタに・・・鍛えられてるんでね・・・」
息は切れ切れに、ありったけのにやりとした表情を浮かべ、ウォルドへ呟いた。
ウォルドは無表情にその言葉を聞いた。剣を手から失った後、プライドを捨ててまで勝ちにこだわった結果がこれだ・・・“後悔はするべきではない。”自分にそう呟き、無表情から後悔したかのようなさみしい表情を一瞬浮かべたあと、すべて終わったような思いが彼の中を駆け抜けた。
シルフィーネの瞳には回転しながら落下してくるウォルドの剣が確認できたが、だんだんと意識が保てなくなってきた。
「・・・まったく・・・」
強がって悪態をつくものの、もう意識を保てない・・・暗い影の中に吸い込まれる意識の中で・・・コウの声がかすかに聞こえる
「勝者!!」
シルフィーネは静かに意識を失った。




