12話 剣技で突きしもの
次の試合が始まろうとしていた。
ロウグと同じく警備隊の軽装の装備で現れた二人目の男は、ロウグよりは少々年上のマリクという筋肉質の中肉中背の男だった。
「ジーナ隊長、お手合わせお願いいたします。」
丁寧にジーナに一礼し、構えた。ジーナはその姿を見て
“・・・余裕だねぇ・・・私なんか敵ではないって顔してるね・・・・”
と思った。実際、おそらく自分が勝つのは厳しいと思うが、一矢報いるくらいはしないとねぇ・・・・・とジーナはそう考えていた。
「・・・ええ、・・・お手柔らかに・・・・。」とジーナが言葉を返した。その声を待っていたかのように、
「始め!」
コウが開始の合図を告げた。
「とりあえず、ここは先制攻撃よ!!」
ジーナが渾身の力を込めて剣を右側から横へ薙ぎ払いにかかった。
マリクが軽い動作で剣を立てその剣を迎える。ガキンという大きな金属音と共にジーナの剣はマリクの剣によって止められた。
「・・・う・・ぐっ・・・」
渾身の力を込めたにもかかわらず軽くいなされ、ジーナは顔をしかめ小さくうなった。
マリクが剣をふるいジーナの剣を払った。もうすでにロウグとの一戦で体力を消耗しているジーナは、足元からふらついた。
―――倒れる!!――――
誰もがそう思ったが、大きく右足を後ろに踏み出し、耐えた。どう見ても、もう試合を続けれるような姿には見えない・・・・・しかし・・・・・・・さっきは一矢報いると、心に言い聞かせたが・・・・やはり・・・・・・・
・・・やはり・・・私は・・・私は・・・・・
“・・・・負けたくない!!”
その思いの一心で、ありったけの力を、剣を持った右手に込め後ろへ引いた。そして右足に力を込め、地面を蹴った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジーナは吠えるように大きく声を出し渾身の突きを放った。マリクがそれを剣で払いのけに来た。
このままいけば、また軽くあしらわれる。
ジーナが歯を食いしばった・・・・・。
“負けたくない!!”
ただ一心でジーナは体全身に力を込めた。
ここ最近でシルフィーネに指導してもらい、ジーナが覚えた剣技が一つある。
それは「突き」だ。
切りかかるより鋭利に切り込める。薙ぎ払うより動きが読まれにくい。両手で剣を握り突きを出した時は片方の手は添えるだけにする。そこから添えていた剣に力を込めて内側に引くと、突きから切り込みに変わる。また逆に押し込むと外側へ薙ぎ払う。
この方法が毎回通じるものではないが、剣のバリエーションが増え、特に一対一の戦いのときに有効に使える。
「・・・それと・・・ね・・・」
シルフィーネはジーナに優しく声をかける。
「・・・・突きで相手を倒そうと思ったらね・・・・」
・・・・ジーナは歯を食いしばった。そして浮いていた左足で地面を強く踏んだ。その踏ん張りで体を右側へ捻り、伸ばしていた右手を自分のすべての力を使い後ろへ引いた。そして・・・今度は体を逆の左へと捻り、まるで遠くへ物を投げるかのように胸を張り勢いをつけた。ジーナは後ろ脚になっている右足に渾身の力を込めた。
「・・・ぁぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!!・・・」
「・・・・突きで相手を倒そうと思ったらね、引っ込めることも重要なのよ・・・・」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジーナの薙ぎ払いを軽くいなした後に、倒れそうになった彼女を目にし、追い打ちをかけようか躊躇したマリクは、まさかの意地の一撃というべく渾身の突きに少々驚いたが、
“この程度の突きなら・・・”
と、左手で持っていた剣で払いのけようと素早く剣を動かした。
―――刹那―――
ジーナの剣が踵を返すかのように後ろへ引かれ透かしを食らったようになった。
―――そして―――
まるで鞭のようなしなりのある体の動きを見せ、もう一度、先程よりも鋭い突きを繰り出してきた。
“・・・しまった!・・・避けきれない!!・・・”
ジーナの突きが迫ってきた。
「・・・ぁぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!!・・・」
ジーナが咆哮を上げた。
“突きは連撃が一番効果があって次の動作につなぎやすい”
シルフィーネはそう言っていたが、ジーナはその連撃を会得できなかった。そんな腕の力が無いというのが理由だ。代わりに会得したのが、渾身の突きを1回のみ戻し、さらに鋭く突く。初見のみ大きく通用する一撃だ。
そして・・・狙いは・・・・
ジーナはただ一点、マリクの剣を凝視した。
“・・・剣を・・・あの剣を・・・ぶち落とす!!”
一直線と化したジーナと剣、その切っ先がマリクの剣の中央を捕えた。大きな金属音が闘技場に響いた。
剣が当たった瞬間、マリクは咄嗟に左手のみだった剣の握りに右手を加え、体を左側へひねった。そしてその右手を伸ばし、ジーナの剣ごと素早く左へ押し出すと、ジーナの剣はそのまま弾かれ、流れるようにマリクの左側を過ぎていった。
何が起こったのか解らなかった・・・・。ただ、自分の渾身の一撃が通じなかったことははっきりと見えていた。
剣が弾かれてもジーナの勢いは止まらずにマリクに突進するような形となった。マリクは咄嗟に身をこわばらせ衝撃に耐えようとした。そして・・・・
―――ガコン!!―――
ジーナの頭の中に大きな音が響いた。マリクの肩とジーナの顔面が衝突したのだ。
まさにカウンターパンチを食らった状態のジーナは後ろへと弾かれ仰向けに倒れた。剣は弾かれたと同時に手から離れ、ジーナが倒れた後に地面へと転がった。
“・・・なにが・・・・おこった・・・?”
自分の渾身の一撃が失敗に終わった後に視界が真っ暗になって、大きな鈍い音が聞こえた。そしてその時、まるで何かが弾けるような光が見えた。
“・・・えっ・・・・”
弾ける光とは別に真っ暗だった視界が一気に明るくなった。自分がゆっくりと宙に浮いているかのような浮遊感を感じた後、肩から強い衝撃が襲ってきた。次は背中、そして下半身と・・・衝撃は数回襲ってきた。
「・・・かはっ!・・・」
どういう状況か解らないが、たまらず声を上げた。ただ、息がしづらく苦しかった。
“・・・・なにが・・・・どうなった・・・・?”
視界がぼやけている、顔の中心にツンとした強い痛みを感じ、口の中に鉄のような血の味が広がった。
視界に移るぼんやりとした影が縦に映ったその時
――――ワー!!―――――――
地面を揺るがすほどの大観衆の声が聞こえた。不鮮明だったジーナの感覚がその歓声により一気に戻った。
ジーナの目に、闘技場の観客席が横に見えていた。
自分が闘技場で試合をしていることを思い出し、ダメージによって動きづらくなった体を何とか起こそうと体をひねり両手を地面につき、上半身を起こそうとしたその時・・・・
「勝者!マリク!!」
コウのよく響く声が耳に入ってきた。
ジーナは、何とか上半身を起こしたが、コウの声を理解すると、動きを止め、ただ呆然とした。
彼女の渾身の力は届かなかった・・・・・。
この季節にしては強い日差しがジーナに差していた・・・・。