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強くて優しい神様

作者: 藤乃花

学力、運動能力、歌唱力、苦手な科目が多すぎて学校に行くのが苦痛だ。一番しんどい事、それは……。「特に理由は無いのですが……旅行より僕……は家で物を作っている方が……好きですから」「だから、旅行より工作を選ぶ、というわけ?そんなんじゃあ、社会に出た時に困るでしょ?働き出す年月の方が学校にいる時より長いんだから!このままだと貴方は誰とも交流出来ない人間になるわよ?」「いや……僕は、将来……玩具職人になって……」放課後担任から居残りを命じられた居神強いがみつよしは、教室で来週行われる修学旅行について叱責を受けていた。担任なりの配慮だろう、職員室だと注目を浴びて、強が辛い思いをするし、無論休み時間の教室でもクラスメイトがいる為余計精神的に参ると考えたと思われる。それは強にも分かる。分かるのだが、放課後の教室という密室での叱責となれば、威圧感は強烈な物だ。いたたまれない状況は回避出来ても、教師からの威圧感には逃げられない支配力がある。ましてや強はまだ小学二年生。年齢層が幼すぎる故、抵抗出来やしない。「強くん、貴方の夢は先生も知ってるわ?玩具は子供達にとって大事な教材になるわよね」玩具と教材を結びつけるとは、少しばかり無理がある。「強くんの考えだと何らかの職人になれば、決まった人としか関わらなくて済む……っていう事でしょ?」「!」担任が言う事は当たっている。それだけに何も言えない。言いたい事は山ほど在るのに、言えない自身がもどかしい。強には遊び心がふんだんに在り、玩具のアイデアに優れている。形が自由自在に変わる積み木を提案したり、でんでん太鼓に仕掛けを施し一瞬にして風車に変える作品だって作成した過去がある。玩具に関しては近所では「名人」や「天才」等と呼ばれていたのだ。そう……近所では、だ。学校では玩具を作るチャンスが与えられず、全てが駄目な人間だとクラスメイトから思われているのだ。「僕……は……その……」意見を出そうとするが、やはり威圧感には勝てやしない。結局担任の指示通り、修学旅行に行く事になった。旅行当日、話した事がないメンバーと同じ班になり、強はいつものように単独行動をコッソリしていた。振り分けられた部屋で強は内緒で持ってきたカラクリの玩具で一人遊んでいる。自作のヨーヨーには強が考えた仕掛けで本体にソノシートが施され、糸を滑ると短い間だがメロディーが流れる。ソノシートには回転する仕組みが在り、糸が引っ掛からないように出来ている。ヨーヨーが廻る速度が違うだけでメロディーのテンポが変化するので、強にとってその色んなパターンが楽しくて仕方がない。(この時間がずっと続いて欲しい!)夢中で遊ぶ姿は、いつも学校で小さくなっている強とは違う。「楽しいっ!」思わず本音が声に出る。「楽しいね、それ!」「!」真横から声?「え?」誰?と聞く間もなく、声の主は答えた。「あたし、守野実花かみのみか!宜しく、強!」(呼び捨て?って、こんな子……学校にいたかな?)実花と名乗る少女だが、強には見覚えはない。一度クラスメイト達に無理矢理全学年の図書カードを仕分けする役目を押し付けられた事が在るが、『かみのみか』などという名前は無かったと思う。性に『上之』、『神野』名前に『美佳』、『美香』等は存在していたが。「あの……」「遊びましょう!」「え?あ……はい、遊びましょう……」見知らぬ少女、実花と玩具で遊ぶ事になった。何故だか嫌な感じはしない。「あの……実花ちゃんは、いつも何して遊んでるの?」(え?あれ?)ここで強は一つ気付いた。彼女の名前は耳で聞いただけなのに、どんな漢字か既に分かっていた。奇妙な現象を体験している中、強の前にいる実花という少女は元気に答えてくれる。「あたしはね、糸電話遊びしたり、缶けりしたり、鬼ごっこしたり、蹴鞠したり、本読んだり、フラフープしたり、おはじきしたり、カルタ取りしたり、お花摘みしたり、リズムダンスしたり、輪投げしたり、チェスしたり……」「へえっ……遊び方が豊富なんだね。それにしても……何だか……時代を感じる遊び……だね」「そうなの!あたしね、毎日色んな国、色んな時代に行ってるの!」強がキョトンとする間にも、実花はケラケラ笑って楽しそうに話している。「昨日はね、イギリスの女の子と『ポーカカ』したの!」「え……イギリス?え……?ポ……何?」「『ポーカカ』!今から五年後に発売される家庭用ゲーム機よ」笑顔を見せる実花を視界に映し、強は微かに感じた。(そうか……もしかしたらこの子も僕と同じで学校に居場所がないのかも……それでこっちに転校して、色んな事を空想してるんだね)「あたしね、寂しい子がいたらその子に元気を分けてるの。強がさっきみたく一人で遊んでるの見てたら、寂しさを半分貰おうと思ったの」急に実花が話し始めて畳の上にぺたんと座り込んだ。「強も座ろ」そう言われ座ると、強に寄り添うように実花は話し出す。「新聞とかニュースとか見てるとさ、寂しい人が報われない人生を送ってるでしょ?そして最後に取り返しのつかない事をして……終わりになってるよね」(それって、じ……)云おうとしたが、喉の奥に言葉の文字が引っ掛かって出なかった。いや、言いたくなかった。そういう行為そのものがこの世に存在している事が、強には耐えられない。「あたしね、そんな寂しい子がこの世からいなくなるようにあちこち行ったり来たりしてるの。あたしの他にもいっぱいいるわ、行ったり来たりしてる人が」「他……にも?」不思議と今度は信じる事が出来た。強の心に希望がわいてくる。そんな人があちこち存在していれば、寂しい毎日を過ごしている子が報われると思えたのだ。「強がさ、楽しいカラクリ玩具を作るのって、目が不自由な子供達が楽しめるように考えたんでしょ?優しくて強いね、強は」「え?強くなんかないよ?体育じゃいつもスポーツはビリッケツだし、クラスで争いが起きたら逃げるし……玩具を作る時だけ少し楽になる程度……だよ。今日の旅行だって数合わせで参加しただけで、皆からは自由時間は来なくていいって……言われた」(僕……嫌われてるから……)休み時間は一人で過ごし、行事には力ずくで参加させられている。「僕を好きになってくれる人……現れないだろうね……」「必ず現れる!強を好きでいてくれる人が!人を孤立させるような人達から嫌われて良かったじゃない!そんなつまらない人を気にするより、心の強い優しい人のままでいてよ!」ー強の名前の由来はね、心の強さ……っていう願いが込められているのー……いつの日か母から名前について聞かされた記憶が浮かんできた。「……実花ちゃん、ありがとう……僕、優しくて強い玩具職人になるよ」「うっし!それでこそ、強だ!」実花は安心した面持ちで立ち上がり、駆け出した。「強の作る玩具、楽しみにしてるわ!」襖を出る際振り向き様に言葉を伝えた実花は、風のように出て行った。

強は先生達が居る部屋に行き、担任に礼を言った。「今日、修学旅行に参加させて下さり、ありがとうございます」「強くん……?何か、あったの?」「はい、ありました。優しい神様に出会えたんです」強の言葉に、担任は強く反応した。表情を少女のようにしている担任から、何らかの意味を強は感じた。担任が口を開く。「もしかして、その神様の名前……」強は何となくだが、担任がその神様について認知している気がした。担任の口に合わせて、強も言う。「「守野実花ちゃん」」驚き半分、そして嬉しさ半分の気持ちが担任の心を流れた。「あの、先生方……少し強くんと話してきますね」担任はいつもとは違う口調で言うと、強を連れて別の部屋へと移動した。通されたのは、担任と数人の女性教諭が泊まる一階の和室。「強くんが会ったっていう神様……実花ちゃんはね、先生とクラスメイトだったの」「えっ?」担任からの思いもしない告白を耳にし、強は聞き間違いではないかと思ってしまった。「びっくりしたわよね。私も本当にびっくりしてるわ。小学校の入学式が終わって教室に戻ろうとした時に、女の子が足を怪我した別の女の子を教室まで肩を貸して送り届けてるのを見たの。怪我をした子の教室と送っていった子の教室は一階と二階で離れた場所に在ったのよ」小学一年生にしてこの行動には担任は心から驚いたという。大人顔負けの行動力。「その子をよく見かけたんだけど、見るたびに必ず誰かを助けてたの。私はいつの間にか、こんな子と仲良くなりたいって思うようになってたわ」(僕もきっと、思っただろうな……)「だけど……」担任から懐かしそうな表情が消え、暗い影が落ちた。「二年生に進級して間もない日、その子……実花ちゃんが亡くなったって集会で聞かされたの」「!」強の体内に衝撃が走った。鉄の棒を貫かれたような痛みがした気がした。「前の日の帰宅中に池で溺れていた仔犬をー」「先生!」その先は聞かずとも分かる。担任の声が震えたのを感じとった強は、そこから先を言わせたくなかったのだ。「あ……ぼ、僕……の考えですけど、先生が大人になった後にも実花ちゃんを見たんじゃないですか?だから、僕が会った神様の事、分かったんじゃないでしょうか?」小さく驚いた担任だが、少し笑い話を続けた。「直接見かけはしなかったけどね、先生になって転勤先の色んな学校で生徒さん達から実花ちゃんに会ったって聞かされたの。それまで一人でいた生徒さんは実花ちゃんに会った日を境に困ってる人に寄り添ったり、進んで正しい行動をし始めたりしたの」「すごいです……実花ちゃんの存在って……」「実花ちゃんの声かけもあるけど、その子に優しさと強さがあるから変われたのよね」担任の言葉がとても穏やかで、強が今まで抱いていた担任へのイメージが変化した。「教師として生徒さんには皆、優しくて強い人に成長して欲しいの。度が過ぎて嫌われる事は多くとも、今のこの偏屈先生のイメージを保ち続けるつもりよ」「へ……へんくつだなんて……」「強くんも、そう思うんでしょ?」「いや……その……」「はいっ!」担任の手が、強の口元へ伸びた。「んぐ?」強の口には、大福が半分入れられてある。「口止めスイーツ、この事は内緒。いい?」もう半分の大福を手にし、担任はパクリとそれを頬ばった。内緒の大福は特別な味がして、ちょっとだけ悪い事をしていると同時に、ワクワクという気持ちもあった。実花という優しい神様と担任のおかげで強は思いきり旅行を楽しめた。旅行が終わり、通常の授業が続く日も強は登校を続けていた。小学校を卒業しても二年生の時の担任との年賀状は続き、高校生に進学した時、応募した『夢の玩具コンテスト』で佳作をとったのだ。休みには近所の公園で同じ趣味の玩具メイトと共に、子供達に玩具の楽しさを教えるのが自然な役目となっていた。「玩具お兄ちゃん達、いつもありがとね」「あ、太一くん……こんにちは」辺太一ほとりたいち小学五年生の男の子だ。「太一くん……今日は良い顔、してる……ね」「あのね、昨日ねいつもみたいに一人でブランコで遊んでたらね、知らない女の子がね、来たんだ」話し方が個性的な太一は、それだけの理由でクラスメイトから疎外されている。強は太一を心配していた。「ねえ……太一くん、その女の子の名前って……」優しい神様はずうっと、誰かの事を見守っている。









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