金田一
魔術帝国 日本
錬金術、近代魔術、妖術その他非科学的な現象を魔術と呼び合い、日本問わず世界中で魔術は普及し、その中で魔術に特化していった日本は現実世界とはかけ離れた存在となった。
例えば、魔術の普及により、回復魔法を使うことで医者にかかる必要がなくなり、具現化魔法による魔術で物を作成し、人手不足は魔術によって生成されたホムンクルスやゴーレムにより解決。
このように魔術に不可能などというものはなかったのだ。
しかし、この魔術というものが普及し日本がよりよくなった反面、『ある一部の人たち』は不自由になってしまったのだ。
「内定取り消し!?」
トウキョウにある唯一の工業高校の3年機械工学科の二者面談中の教室で一人の生徒が声を上げた。
「ああ、お前も多分想像ついてると思うが、お前の応募した希望職種がホムンクルスとゴーレムのみで回すことになったらしい。すまんがこれに関しては担任の俺や校長でもどうしようもないんだよな。」
担任が生徒に詫びる。
「というわけで、また一から探して応募だな。俺も手伝いたいが問題児の後始末もしなきゃだしな。また揉め事起こしたらしいじゃねえか」
担任が鋭く睨んだ。
「違うんすよ!あれは、、その、、なんつーの?」
「いや知らねーよ。俺はその場にいなかったんだからよ。けどしょうがないよな。せっかくこの国の工業を担う若者が集まる学校なのに魔術のせいでその価値が段々薄れてきてるもんな。うちの学校も魔術工学科とか云う訳わからんクラスを数年前導入されたし」
「ホントっすよ!そのせいで生徒たちはストレスたまってこの学校も不良校になるわ、発散するためにそこら辺のゴロツキとかチンピラと血ぃ流しあうわ。全く、オレはこんなにもいい子なのに」
「…その格好で言うと説得力もクソも無いぞ」
生徒の容姿は黒髪の金メッシュに両耳のピアスが鈍く輝き、制服は着崩すどころか着ておらず普段着である。
「せめて制服は着ようぜ?」
担任は指摘する。が
「実習の作業着はきちんと着るから良いじゃないすか。」
こういうところはしっかりしているのである。目の前の生徒以外の不良も作業着だけはきちんと着るため教員は制服に関しては大目に見ているのが現状である。
「・・・分かった。取り敢えず進路はまた考えてくれ。なんかあったら俺に聞きなよ。じゃあ頑張れよ」
こうしてオレの2者懇談は終了した。
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「ったく、魔術だかマッシュルームだか知らねーけど工業生の事も考えろっつーの」
オレは休憩所の自販機でコーラを買い、ヤケ酒の如く豪快に飲み干した。
「おや?誰かと思えば機械工学科のヤンキーくんじゃないか」
オレがコーラで一服していると別校舎のクラス、魔術工学科の生徒、芹田 光星が挑発しに来た。(コイツとは同じ中学で犬猿の仲だ)
「あー?喧嘩か?ワリィがオレはそこら辺のゴロツキとは違うんでね、ムカついたら殴るなんてことはしねーよ。けどほら、いい子にしてないと狼さんにたべられちゃうぞー?」
オレは安い挑発には安い挑発で返すスタイルだ。
「ほぅ、口は回る方なんですね。けどあなた達は就職先に困ってる迷子なことに変わりないでしょう?」
「…あたぼうよ」
オレは図星切られ、必死に返す言葉を見つけたのがこれよ。
「何故江戸弁?ま、精々頑張り給え。僕はもう就職先が決まっているのでね。ま、行く宛もなく路地裏を彷徨ってる未来の貴方を助けるくらいの優しさはかけてあげるよ。」
光星はそう言って缶コーヒーを買い、背中を向けた。
「人を貶して自分の幸せを語る事でしか幸福を得れないなんて趣味悪いな。パチンカスの方がまだマシだぜ。それと、」
オレは物理的にも精神的にも小さくなっていく光星の背中に向かって告げる。
「それ、ブラックだぜ?お前、間違えてカフェラテの隣のボタン押してたぜ、自分の事しか見てなくて自販機が見えてなかったみてーだなw」
オレは最後は耐えれずニヤけてしまった。
「……甘い物苦手なので(ゴクゴク)うっ、!」
光星は苦しそうに去っていった。
オレは苦しむ光星を見ながらコーラを飲み干した。
「さて、教室戻るかって、、うぉっ!?」
空のペットボトルを捨て、休憩所を出た途端人が飛んできて俺は咄嗟に受け止めた。恐らくなにかに殴られてふっ飛ばされたのだろう。ボロボロだ。
「大丈夫か!?って、みっちーかよ!」
ボロボロになった青年はクラスメイトであり友人の岡田 定道だった、あだ名はみっちー。
「オイ、みっちーどうしたんだよ!?誰にやられた!?」
「ああ…オレがこないだぶっ飛ばした連中の一人が復讐しに来やがった…」
みっちーは事情を説明してくれた。
「そうか、因みにソイツは今目の前にいる奴か?」
「あぁ…アイツ一人だ」
目の前には一人しかおらず、しかも手ぶらだった。
「おいおい、みっちーが何したかは知らねーけど単独でオレとやろうなんて随分と余裕みてーだな!」
オレは強気で煽った。
「いや、俺一人で十分。いや、いつ俺が一人だと言った?」
男がそういった瞬間空から巨大な何かが一つ降ってきた。全長は約4メートルといったところか。
「コイツはゴーレムだ。盗むのに苦労したぜ?コイツはありとあらゆる物理攻撃は効かない。効くのは…おっとこれは企業秘密だ。」
男は解説したくせに最後は企業秘密とか言って黙り込んだ。タチわるいな
「なるほどな。けど盗品なんだろ?」
オレは質問した。
「ああそうさ。これまで沢山のものを盗んで来たバイクに車に財布に…」
「乙女のハートも?」
「だまれ!…ん゛ん゛。ゴーレムはこれまでにない大物さ!さあ!やってしまいなさい!」
男は高らかに叫んだ。
その瞬間ゴーレムがオレたちに襲いかかった。
「みっちー!受け身とれー!」
オレは弱ってるみっちーを休憩所の方へ突き飛ばした。見事みっちーは床を滑り摩擦の痛みに苦しみながらも休憩所に入った。
「いってー…!っておいっ!ゴーレムは何も効かないぞ!」
みっちーはオレに忠告してくれた。しかしここで諦めたらただでさえボロい校舎が鉄クズになってしまう!そうなるとオレは日頃の行いのせいでオレが壊したと見られて指導行き確定だ。
「それだけは絶対されてたまるか!うおおおお!!」
オレは叫びながらゴーレムに立ち向かう。
ゴーレムは巨大なパンチをオレに向ける。
「うぉっ!っぶねえ!?」
オレがかわしたゴーレムのパンチは地面に直撃し、地面にはクレーターが出来た。
「おめーはそのパンチで果物でも潰してジュース作ってりゃ良いんだよぉ!」
オレはそう言い残し離れた所にある新校舎の倉庫の扉を開け、
「あの人形を壊せる何かがあるはずだ!えっとー…」
オレは倉庫内を漁る。すると
「おい!そこは生徒立ち入り禁止だぞ!」
管理人が怒鳴りあげた。だがオレは無視して探す。
そしてやっと「それっぽい」のがあった。し
「おっさん!このバズーカみたいなやつってなんだ!?」
オレは両手でやっと持てるくらいの重さのバズーカもどきを見つけた。
「おっさんとは失礼な!俺はまだ30だぞ!そしてそれは小型レールガンだ!扱うには資格がいるし万が一ミスったら建物崩壊だぞ!」
管理人は慌てながらも解説する。
「完璧だぜ…!」
オレは管理人を突き飛ばし小型レールガンを持ち出した。
「待てっ!クソッ!はあぁ…管理不足でクビになるな。こりゃ」
オレは重い小型レールガンを運び、ゴーレムの方へ向かった。
運良くゴーレムはまだそこに留まっていた。
「おい!ゴーレム!水浴びの時間だぜ!」
オレは標準を定め、
「フルスロットルで行くぜ」
レールガンの引き金を引き、ゴーレムの胴体を撃ち抜いた。
稲妻のような音と共にレーザーが放たれ、オレはレーザーの勢いに負けて尻もちをついた。
レーザーはゴーレムの胴体を貫通し、爆発した。
破片があたり一面に飛び散り崩れ落ち、勿論男は下敷きになってしまった。
幸い校舎は崩れなかった。
「……」
オレは黙り込む。
「………」
様子を見に休憩所から出てきたみっちーも黙り込む。そして、
「ふっ…ふっふっふはっ!」
「くはっはっはっ!ハハッ!」
「「ハッハハハハッハッハッハッ!!!」」
オレたちは状況の理解が追いつけず笑い転げてしまった。
・
・
ファンファンファンファン、、
ウゥーウゥーウゥー、
ピーポーピーポー、
ブロロロロロロ…
ゴーレムの爆発音が原因で近隣から通報が入り、ゴーレムの破片を自衛隊と消防隊が片付け、救急隊はケンカでボロボロになったみっちーの手当、そしてオレは…
「だから正当防衛ですって!あのままだったらオレ死んでましたし!?この学校も崩壊してましたよっ!?」
即警察に捕まり署に連行され、取調室に連れてかれた。
「あと!ゴーレムは盗品すよ!盗品を扱って殺人未遂起こした男はどうなんすか!?」
「被疑者はゴーレムの瓦礫の下敷きになり先程死亡が確認された。よってゴーレムの窃盗は不起訴処分となった。」
「なっ…!てことは、ゴーレムの件は無かったことになったんすね!?」
オレは立ち上がり喜びを顕にした。しかし
「間違ってはいないがその後の金田一君。君が行った行為はそれ以上の充分な犯罪だ。」
警察は預かった生徒手帳を見て生徒の名を名乗り上げ、隣においてある大量の書類をパラパラとめくり読み上げた。
「まず、
所有者の許可なく所有物を使用。」
銃刀法不所持のまま銃の使用。
超電磁力使用許可証不所持。
超電磁力物管理許可証不所持、
そして管理許可証所有者の見届け無しでの使用。
それもこれも全部対象年齢に君は達していない。何が言いたいかは分かるね?」
警察はネチネチと詰めてくる。
「…要するに全部オレが悪いと、」
「そういう事だ。この事件は少年法では取り締まれないため犯罪とみなす。」
「マジかよ、」
「…所で話は変わるが君は魔術についてどう思う?」
「…はい?」
ただでさえ絶望喰らって落ち込んでるオレに急な質問をしてきた為オレはキョトンとした。
「この質問はこの事件には関係ない。だから自分の思う事を述べなさい。」
警察は取り調べの時とは違い表情が少しだけ和らいだ。
「うーん、よく分かんないすけどどっちかっつーと魔術は嫌いすね。」
「理由を聞いても?」
「まずは…
(オレは魔術のせいで内定が取り消された事。魔術の使用のせいで友達が傷ついた事。他にも沢山魔術についての不満をこぼした。)
こんな感じっすね。」
「協力に感謝する。金田一君、時間を取らせてしまったことを詫びよう。申し訳なかった。」
警察はオレに頭を下げた。
「いやいや、オレの方こそお礼を言いたいすよ!こんな犯罪者の愚痴なんかに警察が付き合ってくれるなんて……でも、ひとつだけ言っても…?」
「なんだね?」
「オレの名前は、『金田 一』っす。」