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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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おまけ 7話夜勤中(蓮視点)



 「僕、由亞ちゃんになにをしちゃったんだろう…」

 「……。」


 すんっと鼻をすすりながら恵が呟いたのは寝ずの番の最中のこと。

 普段の俺なら揶揄って遊ぶ。「マリッジブルーじゃない?」とか言って。だけど今は贅沢な悩みに嘆く恵がうざくて仕方がなかった。


 「おい、蓮。なにか知ってるだろ」

 「あははー。どうだろうねー」


 血管がぶち切れそう。

 お前はなにもしてないよ、馬鹿が。口には出さずに心の中で思うのは、由亞と恵の仲直りを防ぐ為だ。俺が由亞から無視されてるのに恵だけ元通りとか腹立つよね~。


 由亞に怒られてから3日が経過した。

 命の重みを理解できない俺に由亞はかなりおかんむりで、ちっとも口を利いてもらえない。想像以上にこれがこたえる。

 またすぐに「理解できないと諦めて」「目をそらして」「逃げて」俺達の関係は元通りになると思っていた。それなのに由亞はずっと怒りっぱなし。

 人と考え方がズレているとこういうとき困る。フィクションもノンフィクションも非常時は人を殺すのにどうして由亞はあんなに怒るのだろう。一応今回の件で由亞の思考を学んだので、次回以降は人を殺しても黙っておくが…解せない。

 ちゃんと恵で予習したから直接手は下さなかった(間接的に殺した)のに。


 「やっぱり愛嬌? 泣きながら甘えればよかったか~」

 「…なんで僕を見る」

 

 怪訝に顔をしかめる恵に死ねと思う。

 由亞は「かわいい」に弱いからいつだって恵にやさしい。ずるいと思う。対する俺には遠慮がなくて生意気だ。まあそういうところが好きなんだけど。


 「…ねぇ恵、由亞って少し変わったよね」

 「……。」


 由亞は子供の頃から俺に遠慮がない。でも最近までは違った。遠慮がないと見せかけて明確な壁があった。それが取り払われたのは1回目のダンジョンが終わってからだ。


 「由亞ちゃんはなにも変わらない。ずっと僕の大好きな由亞ちゃんのまま」

 「ま、恵ならそう言うと思ったよ…うわっ。お前、急に石投げるなよ」


 今の俺は機嫌が悪い。本心のまま恵を睨む。睨み返された。死ね。


 「チッ。せっかち馬鹿死ね。話はまだ終わってない。…お前の言いたいこともわかる。今の由亞ちゃんと一緒にいると子供の頃を思い出す。僕はそれがうれしくて幸せ」


 これで満足かと恵が睨んでくる。

 不本意だが満点だ。俺はこと由亞に関しては恵に絶対の信頼を置いている。恵は由亞の些細な変化も見逃さない(異常時は別だけど)。その恵が言うのだから由亞は間違いなく変わった。


 「なんで急にこんな話…」

 「別にぃ。ちょっと気になっただけ~」

 「……。」


 警戒の眼差しを向けられた。

お前も由亞も俺をなんだと思ってるのかな~。


 「真面目になにも企んでないよ。うれしい変化だと思ってる」

 「…お前と意見が合うとか最悪」


 それはこちらの台詞だという言葉は飲み込んで、意見が合ってうれしい!の顔を作る。が、すでに恵は俺のことを見ておらず「僕、なにをしちゃったんだろう…」と涙目で自分の世界に入っていた。死ね。


 苛々するが、これで裏付けは取れた。

 この事態の原因は(3日も無視されるのは)由亞が変わったことにある。


 由亞は子供の頃のように…いやそれ以上に俺達を受け入れるようになったのだ。

 明確な変化は元の世界に戻ってから始まった。

 まず由亞は「特別」に固執しなくなった。子供の頃のように無邪気に接してくる。余裕を感じる。

 第一ダンジョンを経て、心配しなくても俺達とずっと一緒にいられると気付いたから安心して昔に戻ったのだろう。


 次にこれが本題なのだが、由亞は「理解できないと諦めて」「目をそらして」「逃げて」をやめた。…いや少し違うな。理解できないとわかってるのに、俺や恵に言葉を尽くすようになったんだ。

 だから今由亞は俺と口を利いてくれないし、恵とすれ違いが起きている。


 どうしてこんな無駄なことをするのか、由亞がわからない。

 由亞が何をしたところで俺達の異常は変わらない。由亞の精神的な負担になるだけだ。俺も恵も困ってる。「他人の気持ちを考えて、少しでも寄り添おうと努力する」「俺達とずっと一緒にいたいと願ってくれる」そうやって受け入れてくれるだけでよかったのに。

 …由亞が変わってしまったから俺は、お前の心まで欲しくなってしまったじゃないか。

 

 「…顔、怖」

 「あはっ。黙れ」

 「は?」

 「ん? こっち見てどうした? なんかあったか?」

 「……空耳か」


 単純馬鹿の恵でなければ誤魔化せなかっただろう。全部由亞のせいだぞ。責任とって俺に惚れろ…とは思うものの、それが難しいことはわかっている。

 由亞がシャイリーン達に協力した件で俺は由亞を押し倒した。付き合っている噂が嘘だと知ってなぜ安堵したのか聞いた。実はちょっと期待していた。俺達に向ける友情(独占欲)を恋情と勘違いしてくれるんじゃないかって。でもあえなく失敗。由亞の防御は硬かった。


 だから作戦を変える。

 最後の由亞の変化は「独占欲」と「我儘」。

 これを利用して由亞の心を俺達に縛り付ける。

 

 元々由亞は独占欲が人並み以上に強い。目ですごく訴えてくるんだよね。

 それは元の世界に戻ってからさらに強くなり、由亞以外の人と話すだけで「蓮の隣は私の席なのに」「私を優先して」「私が一番でしょ?」って目で見てくるようになった。周りは気付いてないけど俺と恵にはバレバレ。自分が同じ事をされたら絶対に嫌がるだろうに俺達には無意識でやるんだから、こういうところが我儘だ。

 蓮や恵とずっと一緒にいたいけど、恋愛感情はいらない。友情だけがほしい。だけど2人は私のものだから、いつ何時なによりも私を優先してずっと隣にいてほしい。そう思っているのだ。

 すっごく自分本位でかわいいよね~。俺達のこと好きすぎでしょ。これで無自覚なのがほんと達悪い。


 だからこの「独占欲」と「我儘」を自覚してもらう。

 俺と恵のことが大好きすぎて、俺達なしじゃ生きていけないって理解してもらう(思い込ませる)

 でもこれだけじゃパンチが弱いから、シャイリーンたちに協力した件も利用する。


 由亞が彼女達に協力したのは7割が恐怖、3割が俺達への試し行動(独占欲と我儘)だと俺は推測している。けどそれだと都合が悪いのでこれを全部、由亞の独占欲と我儘のせいにする。

 普段なら騙せない。だけど俺達に罪悪感を抱き自責の念に駆られている今の由亞なら可能だ。最初は俺の言葉を否定しても最終的には受け入れるだろう。

 自分の独占欲と我儘が俺と恵を傷つけたと知ったら由亞はどんな反応をするかな。俺の希望としては喜んで欲しい。無意識に傷つけるくらい俺達のことが好きなんだって勘違いしてそのまま俺達に囚われてしまえばいい。


 「…顔怖い。無表情やめろ」

 「え~。ごめんな~」


 俺が常時笑顔なのは子供の頃由亞に無表情を怖がられたからであって、お前のために笑ってるわけじゃない、勝手に怖がってろ死ね。とは言わず、目の潤んだ子犬の顔をしてやる。

 恵は眉間に皺を寄せてそっぽを向く…かと思いきや意外にも俺のことをじっと見てきた。


 「お前、どうしてシャイリーンのところに行った?」

 「…え、今更すぎない?」


 素直に驚いた。

 今はもう由亞のところに戻ったしシャイリーンも死んでる。過ぎた出来事をなぜ今更知りたがる。普通は俺が今由亞から無視されている事の方が気になるだろ。


 「お前がシャイリーンのところに行ってから全部おかしくなった。どうして僕がそばにいると由亞ちゃんは悲しくなる? お前は絶対に何か知ってる。言え」

 「あーはいはい」

 

 どこまでいっても恵は恵だった。

 静かだと思ったら今までずっと自分が由亞になにをしたのか考えていたらしい。そして答えが出なくて結局俺を巻き込んだと。面倒くさ。もうお前は何もしてないって教えてやろうか。理解できるか五分五分だけど。


 「あのな、恵…うわっ。お前、ほんと石投げるなよ」

 「…由亞ちゃん、泣いてた。お前とシャイリーンの声が聞こえるたび、蓮戻ってきてって泣いてた」

 「…え」


 は? なにそれ、かわいい。

 恵への苛立ちは一気に霧散した。

 

 「……恵、それ本当?」

 「嘘つく理由がない。泣いてる由亞ちゃんもかわいいけど、悲しい思いはしてほしくない。だから僕は由亞ちゃんと仲直りしたいのに…僕が何をしちゃったかわからないから由亞ちゃんに謝れない……」


 しょんぼりと肩を落とす恵に俺は意を決して言った。


 「マリッジブルーだよ」

 「え?」

 「恵はなにもしてない。由亞はただ不安なんだ…。だからお前はいつも通り由亞に大好きだって伝えてやればいいんだ」

 「っ! 僕、全然気付かなかった」


 そりゃ嘘だからな。


 「じゃあ由亞ちゃんが蓮に会いたがって泣いてたのも…」

 「マリッジブルーだよ。ちゃんと由亞には理由があってシャイリーンのところに行くって伝えたんだけどね。不安な気持ちにさせちゃったんだな」

 「そうだったのか…」

 

 納得したように頷く恵は本当に単純馬鹿だ。

 だがこの馬鹿のおかげで少し気分がよくなったのは事実なので、これはそのお礼。

 由亞は困惑するだろうが恵と仲直りしたがってたから喜ぶだろ。2人とも俺に感謝しなよ。


 「ねぇ、由亞はどんな風に泣いてた?」

 「は? どんな? 普通にかわいく…目がうるうるで鼻が赤い、唇噛んで泣くいつものやつ」

 「そっか~」

 「なんで笑う…怖」

 「え! 恵には俺が笑ってるように見えるの? うぅ、ひどいよぉ」

 「……。」

 

 絶対嘘だろって目で見られてるけど、まあいいや。

 今の俺は結構上機嫌だ。俺に会いたがって泣く由亞、見たかったな~。あのとき、少しいじめすぎた自覚はある。でも由亞の無自覚には腹が立ったし、なにより絶望して俺に縋り付く由亞がかわいかったから止められなかったのだ。


 「よ~し、帰ったらごめんねって謝ろう」

 「僕も由亞ちゃんに不安にさせてごめんねって言う」


 俺も恵も今すぐ由亞に会いたかった。

 謝って抱きしめてキスして俺達の愛で由亞を溺れさせてやりたかった。

 

 だから帰ったら由亞がいなくて、生け贄にされたって知って、もうブチ切れるしかないよね~。




 ちゃあんとあいつらは地獄を見てから死んだよ。もちろん由亞には内緒だけどね。

 

 


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