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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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12.彼の優しさ



 「何度言えばわかるのですか。離れないでください。危険です。落下しますよ」

 「は、はい。すみません…」

 「早く学んで下さい」


 どういう感情なのかキースさんは無表情に右眉を上げると歩みを再開する。…私を抱えた状態で。


 キースさんが回復して以降、なぜか私は常時彼に横抱きにされていた。移動はもちろん、戦闘や休憩するときまでぴったりとくっついている。もちろん私の意思じゃない。そんな恐ろしいこと頼まない。

 

 「あの、私一人で歩けますよ? キースさんは病み上がりなので、無理はしてほしくないなと…ハハ」


 ほんの少しもたれかかるのをやめただけで叱られるので、刺激しないように提案する。

 だが答えはいつも決まっている。


 「学ばない人ですね。一人で歩いて転んだらどうするんですか。あなた、死にますよ」


 死なないです。


 「本来であればあなたのような弱い女性は連れ歩きません。ですがここにはあなたを守る家がない。だから手の届く範囲に置いて守るのです。この説明は23回目です。いい加減理解しなさい」

 「ハハ…すみません」


 どういうわけかあの一件を経てキースさんは私を最弱認定したらしく(…頑張ったのに)、少しでも目を離せば死ぬと考えているようだ。

 それなのに返り血を浴びると相変わらず川に落とされるので、意味がわからない。あれが一番命の危険を感じるのだが。


 「あなたが私を心配する気持ちはわかります。ですが私を気遣う時間は無駄です。あなたは自分の命を守ることだけ考えていなさい」

 「あ、ありがとうございます」


 一見私を心配しているように見えるが、キースさんは私が魔力を提供する代わりに蓮と恵に再会させることを約束しているのでその義務感からこう言っているだけだ。

 蓮と恵に早く会いたい。心細くて寂しくて2人を求めてしまう。


 「…今、誰のことを考えていました?」

 「ひぇ…」

 

 そしたら冷たい翠眼が責めるように私を見ていた。


 「なにかに焦がれるような目をしていました。私はあなたのそばにいます。ならば相手は私ではない。誰ですか? 言いなさい」

 「ひぃ」


 淡々とした口調が怖いし、唐突すぎる。

 なんで私、尋問されてるの? 泣きたい。

 しかし答えなければこの怖い時間が続くだけだ。


 「あの…蓮と恵のことを考えてました」


 恐る恐る答えれば、パッと重圧が解かれる。


 「…ご友人のことですか。まぁそれならば許容範囲です」

 「は、はぁ」


 許容範囲とは?

 疑問に思ったが肩を抱く手がくるくると機嫌よさげに私の髪で遊ぶのでなにも言わないことにする。


 「ですが彼女らはもう死んでいるのでは? あなたの友人なら弱いでしょうし」

 「そ、そんなことありませんよ。2人は強いです」


 反射的に否定する。だけどだんだん不安になってくる。

 キースさんは蓮や恵の何倍も強い。そもそもの身体能力が違う。そんな人が大怪我をしたのだから、蓮と恵が無事である保証はどこにもないのだ。

 もし死んじゃったらどうしよう。漠然と2人なら大丈夫だと思っていた。だけど…


 「な、なぜ泣くのですか」


 戸惑うような声が聞こえて顔を上げれば、ぼやける視界の中に眉間に皺を寄せるキースさんがいた。睨まれているとしか思えないが、困惑しているようにも見える。


 「涙を止めなさい。困ります。…私の、せいですか? ですが現実は甘くありません。最悪を想定して心の準備をしておかなければ、あなたは馬鹿だから傷つくでしょう?」


 どうやらキースさんなりの親切心だったようだ。

 わかりづらいし相変わらずの精神攻撃だけど、その気持ちはうれしかった。


 「…2人と喧嘩してしまったんです」

 「は?」


 だからつい話していた。


 「私、2人にひどいことをして傷つけてしまったんです。うまく仲直りができなくて、私の反省も後悔も伝わらなくて、それなのに蓮に怒っちゃって…でも怒らないわけにはいかなくて、だけどもっと仲直りができなくなって……」


 支離滅裂だと自分でも思う。

 でも言葉は止められなかった。


 「2人が死んじゃったらどうしよう。蓮にひどいことしてごめんなさいって言いたいのに、恵に恵のせいじゃないよって言いたいのに。私は2人のことが大好きなのに…」


 こんなこと話すつもりじゃなかった。

 泣きながら相談するなんて慰めてくれと言っているようなものだ。だから私は私のことが嫌いだ。


 「あなた、説明が下手すぎますよ」

 「うぅ、ぐすっ。すみま、せん」


 だけどキースさんは相変わらずで、それがとてもありがたかった。


 「あり、がとうござ、ます。話を、聞いてくれ…ひっ」


 しかし感謝の言葉は途中で途切れる。

 キースさんが走り出したから。風圧がすごすぎて口を開けられない。息が苦しい。


 「口は閉じ…てますね。賢明な判断です」


 無表情に私の顔を確認する彼に「どういうことですか?」と目で訴える。

 

 「…先程の説明、理解できないことが大半でしたがわかったこともあります」


 やわらかくてやさしくて、ほんの少し甘さを感じる瞳に見下ろされる。


 「あなたは友人と再会し謝罪をしたい。涙を流すほどに強く願っている。そうですね?」


 頷けば、やわらかく微笑まれた。


 「なので移動速度を上げました。ゴール地点から迎えにいけば再会できる確率はあがるでしょう」

 「っ!」


 すごくうれしかった。

 思わず首に回している手に力をこめてしまう。

 キースさんは驚いたように私を見て、眉間に皺を寄せるとついとそっぽを向いた。顔が赤いが照れているのか怒っているのか顔が怖いのでわからない。


 「言っておきますがあなたの気持ちは全く理解できません。喧嘩程度で心を乱される友人などむしろ邪魔です。不要です。しかし妻の願いは可能な限り叶えてあげたいですからね、私に感謝しなさい」


 ……ん?

 うれしかった気持ちがしぼんでいく。不穏な言葉のせいで。

 ちらりとキースさんを見る。怖い顔で睨まれた。聞き間違いだと思うことにした。





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