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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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8.すぐに迎えに行くからね(蓮視点)



 「由亞が生け贄に志願して、…死んだ?」

 「ああ、そうなんだ…」


 夜勤を終えてコテージに戻ればそこに由亞の姿はなく、代わりにいたのはアライアだった。

 即刻恵を殴って気絶させるよね。


 で、話を聞けば案の定の回答。

 彼がここまで命知らずだとは思わなかった。

 冷たくなっていく心は見せずに、この状況に合った顔を作る。


 「そ、そんなの嘘だ! 嘘だ…だって由亞が、死ぬはずないっ! まして志願するだなんて、う、うぅっ…ありえないっ!」


 そう。ありえない。この男は嘘をついている。

 

 「っ蓮、辛いだろうが、本当のことだ。俺はこの目で見た」

 「そんなっ」


 悔恨に肩を震わせるアライアはなかなかの演技派だ。

 お遊戯会はよそでやってくれないかな。


 「見たって、見たなら…どうして止めてくれなかったんだ!?」

 「そ、れは、すまない。手を伸ばしたんだが、ユアーは落ちてしまって。…なにも言わずに、飛び降りてしまったんだ。ま、間に合わなかったんだ」


 そのときの光景を思い出しているのだろう。青ざめるアライアは話の矛盾に気付いていない。

 最初は「生け贄に志願した」

 でも今は「なにも言わずに穴に飛び降りた」

 少し突けばボロが出る。正直者はそれが顕著で、焦った状態で誤魔化そうとするから事実に近い嘘をつく。手を伸ばしたんだが(手を伸ばして)ユアーは落ちてしまっ(由亞を突き落とした)てと。


 「どう、して…由亞……っうぅ」


 おそらく複数人での犯行。魔物との戦闘中、アライアと他数名が魔法の合わせ技で立体映像を作り出すのを何度か見た。言葉巧みに由亞をおびき出し、映像魔法で判断力を奪い穴に突き落とす。由亞が叫べば絶対に恵は気付くから不意打ちだったのだろう。

 他にも方法は思いつくけど、これが正解な気がする。

 

 「ユアーはいつも役に立たない自分を卑下していた。仕事も押しつけられていたし、辛かったんじゃないか…。だから自ら死を選んだ」

 「う、うぅぅ…っぐす。由亞ぁ」


 この男は俺を苛立たせる天才だな。

 由亞を理解しているかのように語るアライアが不快でならない。


 たしかに由亞は根暗で鬱々としていて落ち込むのが趣味みたいな女だ。

 女たちから奴隷のように扱われても文句一つ言えない小心者。だから俺が代わりにシャイリーンを殺したわけだし。


 だけど自殺はしない。絶対に。

 由亞は俺と恵の好意を知っている。俺と恵を大切に思っている。大好きだ。ずっと一緒にいたいと願っている。

 だから俺と恵が悲しむようなことは絶対にしない。死ぬなんて論外だ。死んだら一緒にいられない。……まあそう思ってるのは由亞だけで、俺も恵も死んでも由亞を逃がす気はないんだけど。

 

 「っ蓮、すまない。俺がユアーを止められれば…ごめんな」

 「ア、アライアのせいじゃないよ。でもっ…俺は、ごめん。今は、一人にして欲しい…」


 アライアの涙ながらの弁解は俺の神経を逆撫でしかしない。

 いい加減目障りだよね。さっさと追い出す。


 「恵にも、話さないと…いけない、から。今日は……」

 「あぁ! 仕事は休んでいいっ。……ごめんな」

 「うぅっぐす」


 目を擦りながら耐えられないとばかりに荒々しく扉を閉める。

 一瞬足音が止まって、行ったり来たりを繰り返すような音が聞こえる。俺を慰めに戻ろうか迷っているのだろう。あはは、さっさと行け。俺の願いが伝わったのか足音は徐々に遠のいていった。そうして完全に音が消えたところで恵の顔面に水をかける。


 「っぶ。蓮、殺す…」

 「はいはい、おはよー。じゃあ恵、自分の左手首見て」

 

 俺が自分の右手首の契約印を指させば、単純馬鹿な恵も同じように自分の契約印を見る。

 白いツタは今も肌に縫い付いている。俺も恵も同様に。


 「由亞は生きてる。この契約印が消えてないのが何よりの証拠。これ重要だからしっかり覚えてろよ」

 「は?」

 

 怪訝に顔を歪める恵に端的に現状を説明する。

 由亞が生け贄として利用されて現在行方不明だと。

 

 「…殺す……っ!?」

 「やっぱこうなるよなぁ」

 

 予防線を張った甲斐なく暴走する馬鹿を魔法で大人しくさせる。

 バタンとその場に倒れた恵に下から睨め付けられる。


 「…なに、した?」

 「体の水分を奪った。やっぱ難しいなぁこれ」


 魔力もかなり食うし、射程範囲も狭い。おまけに加減を誤れば対象者が死ぬ。

 由亞には絶対に使えない。恵で試してよかった。

 なんておくびにも出さずに、申し訳なさそうな顔をつくる。


 「恵が暴走したら由亞が悲しむだろ? 止めたかったんだ…」

 「……チッ」


 恵は単純だから由亞を出せば大抵どうにかなる。悪化することもあるけどその場に由亞がいなければ問題ない。…由亞がいない。恵の舌打ちが移りそうだ。

 

 「しばらくしたら動けるから、今は俺の話を聞こうな~」

 「チッ」

 「じゃあまずはじめに、アライアたちには手を出すな」

 「は?」

 

 恵の眉間に皺が寄る。これは確実に勘違いをしている顔だ。

 落ち着かせるようにやさしく笑いかける。


 「安心しろよ。彼らは由亞に手を出したんだ。ちゃあんと死んだ方がマシだ、いっそ殺してくれって思うくらいの地獄を見せてから死んでもらうさ」


 彼らは俺を怒らせた。当然の帰結だ。

 それなのになぜか怯えと警戒を含んだ眼差しを向けられる。


 「…人殺しは犯罪だ」

 「……。」

 

 いやいや、お前がそれ言う? 今まさに暴走しかけてたやつが言う?

 こめかみが痛むが、恵は由亞さえ絡まなければ常識的な倫理観を持った普通の人間だ。当然の反応とも言える。

 だから安心させるように笑いかける。


 「()()殺さないよ」

 「そういう問題じゃ…」

 「じゃあ恵、許せるの? あいつらは由亞を生け贄にしたんだよ」


 恵の目が冷たくなった。

 殺しに行こうとしているのか芋虫のようにうねっている。体の自由を奪っておいて良かった。だけど彼らが恵の魔法の射程圏内に入ればすぐに殺されるので、うーん、面倒だけど正気に戻す。


 「ほら、恵。もどってこーい」


 2,3回蹴れば、ようやく恵の瞳に光が戻った。

 まあその顔は今も怒ったままで般若のようだけど。


 「あいつら殺す」

 「恵が賛同してくれてうれしいよ~」

 「……でも、殺す前に、由亞ちゃんを助けに行く」

 「まあ俺もそうしたいけどさ、それ無理だよ」


 懐から地図を取り出し恵に見せる。


 「…迷路? これなに?」

 「このダンジョンの地図。シャイリーンからもらったんだ~」


 シャイリーンは土魔法でダンジョンの構造を把握し地図を作成する仕事をしていた。だからあえて彼女に思わせぶりな態度を取っていたところはある。由亞には言わないけどね。怒られるのは嫌いじゃないけどもうそろそろキスしたいし。

 

 「ここが今、俺達がいる場所な。で、その下の細い道が由亞が落とされた穴」


 地図に描かれた道は子供の落書きのようにごちゃごちゃしていて見にくいが、全てが一方通行で他の道と交わらないことがわかる。


 「だけどどの道も必ずゴール(最上階)に繋がってる」


 由亞が落とされた細い道を指でなぞって見せる。俺の指は最終的に最上階へと到着した。


 「由亞を助けに行くためにも俺達は正規のルートでゴールを目指す。そしてゴール地点から由亞を迎えに行く」

 「っそんなの、時間がかかりすぎる」


 俺が示した現在位置を見て、俺達がまだ全然進んでないことがわかったのだろう。恵が焦燥に顔を歪める。地図を見せたのは失敗だったか。


 「こうしている間にも由亞ちゃんは泣いてるかもしれない。魔物に襲われてるかも。っ由亞ちゃんが死んじゃったらどうしよう…」

 「恵、落ち着け」

 「っどうしてお前はそんなに冷静でいられる!?」


 逆に聞きたい。なぜお前は取り乱す?

 起きてしまったことは仕方がない。覆せない。時間は巻き戻らない。嘆いているだけ時間の無駄だ。さっさと切り替えて最善を選べよ。今こうして話している時間すら勿体ない。この時間が由亞との合流を先延ばしにしていることにどうして気づかない?


 恵のこういうところが嫌いだ。

 内心で舌打ちしながら、真剣な顔を作る。


 「…由亞はまだ生きてるけど、いつ死んでもおかしくない」


 へらへらと笑わない俺は珍しかったのか恵の癇癪が少し弱まる。本当に単純だな。

 たたみかけるように真摯に続ける。


 「冷静になれよ。俺達にできることは一つしかないんだ。急ぐしかないんだよっ」

 「っ!」


 本当は泣いて恵を黙らせてもよかった。

 単純馬鹿の恵は勝手に共感して大人しくなっただろう。


 「…ごめん。言い過ぎた。あんなこと言ったけど、由亞はそう簡単には死なないって俺は思ってる」


 だけどこれでは根本的な解決にならない。どうせ恵はすぐに暴走する。馬鹿を止めるために俺の魔力も時間も奪われるのはごめんだ。一秒だって無駄にできないのに。


 「だって由亞は俺達のことが大好きだから」

 「由亞ちゃん…」

 

 だから納得させる。

 

 「絶対に俺達に会うために足掻いてる。生きることしか考えてない。恵もわかるだろ?」


 俺達が急ぐ理由を改めて明示する。

 態度は嘘でも言葉に嘘はない。これは全て俺の本心だ。由亞は臆病者と見せかけて大胆な行動を取るから。

 つい本心から笑えば、恵も少しだけ目元がやわらかくなった。


 「…お前の言うとおりだ。僕が間違ってた」

 「さすが恵、話がわかるね」

 

 まあ安定したと見せかけて最終的には暴走するんだろうけど。

 それを考慮した上で計画は立てたし問題はない。


 「じゃあさっそく行こうか」

 「どこへ?」

 

 体内に水分を戻してやれば、舌打ちをしながら恵が立ち上がる。

 

 「みんなのところだよ。一刻も早くゴールにたどり着きたいからね、強行軍になるけど文句言うなよ」

 「言わない。…僕はなにをすればいい」

 「別になにも。好きなように動けば」


 しいていうなら、常人ぶって俺に道徳を説くなと言いたいところだけど、言ったところで恵は理解できないから言わない。

 

 「じゃあ、由亞のためにも頑張ろうな」

 「あぁ」


 力強い笑顔をつくって、コテージの扉を開ける。

 待っててね、由亞。すぐに迎えに行くから。


 もちろんお前を利用した奴らは全員殺すから、安心してよね。




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