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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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6.自分勝手な私の願い

7話以降は【ハッピーエンドver】に投稿します!

(ハッピーエンドverは明日作成します)

詳しくは明日、活動報告に書く予定です。ややこしいことしてしまってすみません<(_ _)>



 蓮が私たちのコテージを出て行ってから今日で4日目。 

 

 「ほら、蓮。あ~ん」

 「シャ、シャイリーン! 俺、自分で食べれるよ~」

 「2人とも今日もラブラブだな~」


 遠くで聞こえる声に掃除の手が止まる。


 今日も蓮はシャイリーンさんとよろしくやっているようだ…。

 涙が出そうになって私は慌てて掃き掃除を再開した。


 あの日から蓮はシャイリーンさんのコテージで一緒に暮らし始めた。朝から晩まで仲睦まじく2人の声はどこにいたって聞こえる。

 だけど男女ペアの契約は結んでいないようで、蓮は1日に1回は魔力供給のために私に会いに来た。そんな蓮の「隣」には毎回シャイリーンさんがいて、胸が張り裂けそうだった。

 蓮に謝りたい。帰ってきてと縋り付きたい。でもシャイリーンさんの前でそんなことをしたら、蓮の情報収集の邪魔をしてしまう。だからまともな会話もできずに魔力供給が終わればさようなら。

 このことを私に理解させるために蓮はシャイリーンさんを連れくるのだろうか。ちょっとひどいと思う。…そうやって被害者ぶって蓮を責める自分が嫌いだ。全部私が悪いのに。


 「…蓮」


 これは私が招いたことだ。私の罪だ。我慢しないといけない。もっと傷つかないといけない。


 「…蓮っ」


 だけど辛くて仕方がない。このまま蓮が帰ってこなかったらどうしようと泣きたくなる。


 「……戻ってきて」


 それでも蓮が帰ってくることはない。

 わかりきっていることなのにじわりと目の前がにじむ。

 

 「ん」


 そんな私の眼前に飛び込んできたのは花の刺繍が施されたハンカチ。

 俯いていた顔を上げれば、そこにはへの字口の恵がいた。


 「めぐ…」

 「じゃ」


 いつまで経ってもハンカチを受け取らない私にじれたのか、無理矢理ハンカチを握らせて恵は走り去ってしまう。

 さらに目の前がぼやける。


 コテージの外だからこその態度だ。そう言いたいけど、それだけが理由ではない。

 私は恵ともギクシャクしていた。


 私が蓮と恵を傷つけてしまった日、蓮がコテージを出て行ってすぐに恵が目を覚ました。

 私はすぐさま恵に謝罪した。本当にひどいことをした。許して欲しいと。

 恵は笑顔で頷いた。


 「やっぱり由亞ちゃんはひどいことしない。あの女が嘘をついてた」

 「…え」


 話が通じていない。

 そのことに困惑して思い出した。恵は私が関与する不都合を理解できないのだと。

 鈍器で殴られたような衝撃だった。自分の罪深さをまざまざと思い知らされた。


 つまり私が彼女達に協力したことは恵にとって到底受け入れられない行為だったのだ。


 真実を知れば深く心が傷つくから、恵は自分の都合の良いように私の言葉を変換した。私はひどいことをしない。アイーシャさんが嘘をついていたと。

 蓮だけじゃなく恵まで傷つけた。後悔なんて言葉じゃ足りないくらい絶望した。ただただ申し訳なくて苦しくて謝り続けることしかできなかった。恵はそんな私に困惑し、ついには泣いてしまった私を見て青ざめた。


 「僕のせいで、由亞ちゃんは泣いてる?」

 「ち、違うよ! これは自分が最悪で嫌すぎて勝手に涙が出るだけ! 恵はなにも悪くないの。…私が恵と蓮にひどいことをしちゃったから」

 「僕と蓮? そばにいたら由亞ちゃんが悲しくなるから蓮はいなくなった? っじゃあ僕も……」

 「ま、待って。恵、お願い、待って!」


 こうして恵は勘違いをしたままコテージを出て行ってしまった。

 さすがに寝るときには戻ってくるが、彼は私の視界に入らないよう徹底していて頭からタオルケットを被って寝る。

 どこかで見守ってくれているのか今日のように突然現われることはあるけどすぐに去ってしまう。


 「……辛い」


 全て私が招いたことなのに。私だけが悪いのに。辛くてたまらない。

 恵がくれたハンカチで目元を押さえる。だけど本当はハンカチじゃなくて、恵に涙を拭ってもらいたかった。




//////////☆


 「生け贄を用意しないと先に進めない?」


 物騒な話が聞こえてきたのは昼食をつくっているときのこと。

 どれだけ辛くて悲しくても時間は進んでいく。

 今日もやっぱり私一人でスープをつくっていたが、有益な情報を得られるかもしれないと鍋をかき混ぜる手に力が入る。


 「今までは魔物を倒せば新しい道が出てきたじゃない? だけど今回は魔物の代わりに大きな穴があったんですって」

 「この道を通りたければ生け贄を一人穴に落とせって壁に刻まれていたらしいわ」

 「誰か一人を犠牲にしろってこと!?」

 「生け贄って死ぬってことよね?」

 「あ、あたし死にたくないっ」


 想像以上に恐ろしい話だった。

 ぶるりと身震いをして、気を紛らわせるように鍋を混ぜる速度を上げる。


 今まで大きな戦闘もなく順調に進んでいたから忘れていたが、やはりダンジョンは恐ろしい。魔物に加えて生け贄だなんて私たちを殺すために存在しているとしか思えない。これからどうするのだろう。先に進むには絶対に生け贄が必要なのだろうか…ん?

 思考が遮断されたのはチクリと背中に視線を感じたから。普段なら気付かないふりをする。だけど刺さる視線があまりにも多くてつい振り返ってしまった。そして後悔した。


 女性陣が期待と同情の眼差しで私を見ていた。

 もちろんすぐに目をそらされたが、この話の流れであの眼差しはさすがに察する。


 私、生け贄に望まれてる?


 「ねぇ、ユー」

 「ひっ」


 そんなときにシャイリーンさんに背中を撫でられれば、もはや答えを言われたようなものだ。

 聞こえなかったふりをして立ち去ろうとするが、にこにこ笑顔のアイーシャさんに行く手を阻まれる。反射的に回れ右をすればそこにはシャイリーンさんがいて、…しっかりと目が合ってしまった。


 「あなた、生け贄になりなさい」


 そして命令された。

 「なってくれる?」でも「なってほしいの」でもなく決定事項の通達である。


 死ぬのは嫌だ。咄嗟に首を横に振る。

 

 「嫌なの? 困った子ねぇ。じゃあ多数決を取りましょう」

 「賛成~。ユーが生け贄になるべきだと思う人は手を上げて~?」


 結果、この場にいる全員が手を上げた。

 デスゲーム序盤の犠牲者体験なんてしたくなかった。怖すぎる。

 人の生死が関わっているのにどこか楽しそうなシャイリーンさんとアイーシャさんが怖いし、命惜しさに手を上げるみなさんも怖い。だけどもっと怖いのは立場が違えば私も手を上げていた可能性があるというわけで、そう考えると生け贄に選ばれて良かった…とはさすがに思えない。


 「は~い、じゃあユーが生け贄で決定ね~」

 「あの、多数決なら戦闘チームの方も…」

 「戦闘チームは私たちより人数が少ないからこの決定は覆らないの。ごめんなさいね」

 「う…」


 悪気を微塵も感じない謝罪だ。

 絶体絶命の状況すぎる。


 「あぁ、ユー。かわいそうに。顔が真っ青よ」

 「生け贄になるのが怖いのぉ? むしろ喜ぼうよ! ユーはみんなから必要とされてるんだよ?」

 「えぇ、その通りよ。こんなの初めてでしょう? よかったわね~」

 「…ハハ」


 この人達とんでもないことを言うな。

 愛想笑いを浮かべつつ出入り口に向かって移動するが、


 「まだお返事を聞いてないわね」


 笑顔が怖いシャイリーンさんに腕を掴まれる。気絶したい。

 

 「本当だぁ。ユー? 生け贄になってくれるよねぇ~?」


 アイーシャさんが頭を撫でてくる。怖い。というか痛い。

 2人からは頷くまで逃がさないという強い意志を感じた。な、なぜこんなことに…。


 「…はぁ。あたしたちが優しくお願いしているのに無視するのね」

 「生意気ぃ」


 私がうんともすんとも言わない(怖すぎて声出せない)からか、シャイリーンさんとアイーシャさんは作戦を変えた。


 「はっきり言ってあなたお荷物なの」

 「大した魔法も使えないくせに私たちに寄生して厚かましいよね~」

 「っ!」

 「へらへら笑うその態度も不愉快だわ」

 「自分は被害者ですみたいな顔もムカツク」

 「っっ!」


 グサリグサリと言葉の刃が突き刺さる。

 私の心を折る作戦らしい。効果は覿面だ…。


 これが言いがかりならまだ私も平気だったのだが、全て事実だから余計に刺さる。その通りですとしか言えない。被害者面は蓮にも言われた言葉だし。


 「あなたみたいな役立たずは生け贄になるしかないのよ」

 「みんなから必要ないって言われてるのにそれでも生きたいの?」

 

 その後も続くレパートリーにとんだ雑言。その中でアイーシャさんの呆れたような言葉が耳に残った。

 

 …確かに、どうして私は生きたいのだろう。


 自分でも疑問に思った。

 味方が一人もいない状況で両脇から精神攻撃を受けているのに、私は一度も生け贄になろうとは思わなかった。死にたくなかった。でもどうして死にたくないのかわからない。

 死を恐れるのは人として当たり前の感情だけど、それが理由ではない気がする。死ぬのは怖いけど自分の存在を否定されることの方が辛い。それなら一瞬の恐怖で終われる死を私なら選ぶはずだ。


 そんな私に答えを教えてくれたのはシャイリーンさんだった。


 「あなたがいなくなったところで悲しむ人なんて一人もいないわ」

 「……ぁ」


 その言葉を聞いた瞬間、わかった。


 蓮と恵だ。

 私が死んだら2人が悲しむから、なにより私が2人とずっと一緒にいたいから…死にたくないんだ。


 2人を傷つけたのに2人との未来を望む私は本当に自分勝手で救えない。

 だけどそれが私の気持ちだった。

 生け贄には絶対になれない。なりたくない。私は蓮と恵と一緒に生きたいから。


 そうと決まればやることは一つだ。


 「ちょっと話聞いてる?」

 「すみません、無理です!」

 「は!?」

 「恵ー!!!! 助けてー!!!!!」


 思い立ったら即行動。

 普段はそんなことしないしできないけど、今回に限っては違う。

 早口で断って大声で恵を呼ぶ。

 悲しいことに私一人じゃここから脱出できないので。


 シャイリーンさんとアイーシャさんは思いもよらない私の行動に少しの間唖然としていた。

 だが、ハッと我に返ったのか私に手を伸ばす。魔法を発動しようとしているのか手が光っていた。

 さすがにやばい。咄嗟に両手で頭を守る。


 バァンッ


 そんな私の目に映ったのは、吹き飛ぶ料理部屋の扉と…


 「なにしてる?」

 「…え」


 恵の白いワイシャツだった。


 みんな驚いていたが私も驚いていた。もう少し時間がかかると思っていたし、扉が吹き飛んでまだ1秒も経ってないのに恵に抱きすくめられていたわけだから、さすがに驚く。

 

 「由亞ちゃんに、なにした?」


 だけど恵の暴走の気配を感じ急いで意識を切り替える。


 「め、恵。む、むむ虫がいたの」

 「虫? どこ?」

 「もういなくなったみたい! でも怖いからコテージまで送って! 今日はずっと一緒にいて!」

 「っ! うん」


 恵の頬がぽぽぽと桃色に染まる。

 でも人前だと言うことを思い出したのかすぐにぎゅっと眉間に皺を寄せた。


 「じゃあ行こ」

 「え、わ!?」


 虫がいたと話したからか恵が私を抱き抱えて歩き出す。


 「ちょ、ちょっと待ちなさい! あたしたちはその子に話が…ぎゃっ」

 「恵、待っ…いだだだだ」


 背後で絶叫が聞こえるが私には恵の白いワイシャツしか見えない。恵が私の頭を肩口に押し当てているからだ。

 恵から怖い感じはしないから大丈夫だとは思うけど。


 「あの…恵。痛いことはしちゃダメだよ?」

 「痛いことじゃない。お仕置き。だから平気」

 

 それは果たして平気なのか。

 たぶん平気じゃないけど、甘えるように私の頭に頬をすり寄せる恵は久しぶりで懐かしくて安心できて、この時間が少しでも長く続くように私は黙ることにした。

 


 その後はずっとコテージに閉じこもった。

 一歩でも外に出れば生け贄の提案をされる気がしたからだ。

 恵は私のお願い通りずっとそばにいてくれた。コテージに戻って我に返ったのか慌てたように頭からタオルケットを被ったけど、それでもよかった。

 


 その翌日のことだ。

 この日も朝からコテージに閉じこもっていれば、朝食を取りに行っていた恵が慌てた様子で帰ってきた。


 「…シャイリーンさんが生け贄になった? しかも、自分の意思で?」


 そうして聞かされたのは信じられない話。


 「それ、ほんと?」


 なぜか恵は青い顔で頷く。

 その理由はすぐにわかった。


 「あの女が穴に落ちるのを蓮が見たって」

 「……ぇ」


 蓮はそれを目撃してからずっと「俺のせいだ」とで自分を責めているらしい。憔悴しきった様子にみんなが蓮のせいじゃないと励ましているそうだ。




 血の気が引いた。






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