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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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4.前置きなしのストレートパンチ



 集団生活も早いことで5日目。

 ダンジョンには時間の概念がない。そのため食事も睡眠も入浴も必要ないのだが、


 「次、それ切って」

 「は、はい…」


 私は料理包丁を片手にタマネギをみじん切りにしていた。

 もちろん料理をつくるためである。ちなみにタマネギは恵が魔法で出したものだ。


 この集団生活にはいくつかルールがある。

 その一つが仕事をすること。


 攻撃系の魔法を扱える者は戦闘担当。ダンジョン攻略中に襲ってくる魔物と戦ったり、みんなが寝ている間の寝ずの番をする。蓮と恵はここに配属された。

 残りの非戦闘員や女性は炊事洗濯などの家事をする。私の配属は当然こっちだ。


 「それが終わったらお皿洗いね~」

 「…はい」


 なんとかタマネギのみじん切りを終えてカレーのような食べ物をつくっていれば、アリーシャさんから新たな指示を受ける。

 鍋をかき混ぜつつ横目で同じチームの人を見れば、彼女達は今日も忙しそうに口を動かしていた。ようするに仕事しないでおしゃべりしてる。つ、辛い。

 にじむ涙をタマネギのせいにして鍋を混ぜるスピードを上げた。


 配属された当初はまだ私もうまくやれていた。……そう言えたらよかったのだが、私は初っぱなから失敗した。


 人付き合いは苦手だけど孤立しない程度の社交性はある。そう思っていた私は厳しい現実にタコ殴りにされた。

 全然上手くいかなかった。話しかけても話が続かない。それとなく話を切り上げられる。迷惑そうな目で見られる。ポキポキ、ピキパキ心が折れた。コミュニケーションとは自分と相手――両者の心が揃って初めて成立するのだと身を持って知った。

 泣きたかった。もう諦めて一人になりたかった。しかし集団生活の一員となった以上、それは許されない。

 だから私は下でに出た。家事大好きです! なんでもやります! 仕事をください! そう言った。

 その結果が今である。自業自得だ。


 心の中でため息をつく。

 仕事を押しつけられることよりも、それを笑顔で受け入れる自分が嫌だ。へらへら媚びて笑ってプライドの欠片もない。それなのに蓮と恵には上手くやれてるよと見栄を張るのだから、ほんとうに情けない。


 せめて、蓮が言った「情報」を得ようと彼女達のおしゃべりを盗み聞くが、話題は「蓮」と「恵」という格好いい異世界人の話ばかり。知ってる情報でしかない。

 それでもいつお役立ち情報が出るかわからないので我慢して話を聞くのだが最終的に「あたしはこんなに彼のことを知ってるのよ」「きっと彼は私のことが好きよ」と口々に自慢し合うので、なんだか嫌な気持ちになる。

 2人はどこへいっても人気者で引く手数多だ。今は私の隣にいてくれるけど、いつだって私を見限ることができるのだ。仕方のないことだけど人の心は変わる。信用なんてできない。恋をする彼女達は魅力的で愛らしいと思うから、少し羨ましくて怖い。

 だけどそう思うと同時に、彼女達に対して優越感を抱く私もいる。だってみんなは2人の異常性を知らない。知ってもなお好きだなんてきっと言えない。私は怖いけどそれでもずっと一緒にいたいと思うから。そんな自分が少しだけ誇らしくて、だけど2人に対する恋愛感情はなくて、それなのに2人は私のことが好きで、私はそれを考えないようにしていて…最終的に自己嫌悪の気持ちで終わる。


 「はぁ」


 だから今日もため息をつきながら皿を洗う。

 シャイリーンさんに話しかけられたのは、そんなときだった。


 「ユーアって蓮と恵と仲が良いの?」

 「っぇ!?」


 驚きすぎて声がひっくり返った。

 ちなみにユーアはあだ名じゃない。彼女達が私の名前を覚えていないだけ。


 「2人と男女ペアの契約をしてるわよね」

 「…ぁ、はい。まあ、成り行きで」

 「まあ3人しか生き残らなかったんだからペアになるのは当然だよね~」


 アイーシャさんまで話に入ってきた。胃が痛い。怖い。

 

 「私、蓮のことが好きなんだけど」

 「私はぁ、恵のことが好き~」

 「そ、そうなんですか~」


 そして唐突な告白タイム。前置きなしのストレートパンチだ。

 とりあえず笑ってみせるが上手く笑えている自信はない。話の流れについて行けない。


 「彼とペアになりたいの。協力してくれるわよね」

 「あなたみたいなお荷物とペアだなんて恵がかわいそうだよね~」

 「……。」


 で、これだ。

 疑問形ではなく決定事項だし、面と向かって悪口を言われる。こ、怖い。

 かなり自分勝手な要求をしているのに平然としてるのが怖いし、断られると思ってなさそうなところも怖い。平気で人を傷つけるのも怖い。私の態度が2人をそうさせているのだとすればもっと怖い。

 この状況も、彼女達の思考回路も、私も怖いで溢れかえっている。


 「返事が聞こえないんだけど」

 「ユーアって声小さいよね~」


 こ、怖い~。

 長いものには巻かれろが体に染みついている私に選択肢はなかった。


 「…は、はい。協力します」



//////////☆



 「はぁぁあぁ。蓮、恵、ごめん…」


 静まり返ったコテージで私は一人、蓮と恵に謝罪していた。


 運が良いのか悪いのか、今日は2人が寝ずの番をする日だった。

 だから私はこれをシャイリーンさんとアイーシャさんの「協力」に選んだ。

 その名も「差し入れ渡していい雰囲気になろう」作戦。

 

 作戦は簡単だ。蓮と恵が夜勤の当番のとき、私はいつも2人に差し入れを持って行くのだが、それを今回はシャイリーンさんたちにお願いした。たったこれだけ。でも私じゃないとできないことだ。

 実はいくつかの例外を除いて夜間の出歩きは禁止されているのだが、その例外の一つがこれ。「男女ペアの片割れだけが夜勤の相方に差し入れを渡しに行ける」であった。

 それを今回に限り私の体調不良(嘘)を理由にシャイリーンさんたちにお願いしたのだ。2人は今、他の人に邪魔されることなく蓮と恵との逢瀬を楽しんでいるはずだ。


 これが私なりの「協力」。これ以上は譲歩できないしシャイリーンさんたちも無理難題は言ってこなかった。…私を気にかけたわけではなく、期待していないからだと思うけど。


 「うぅぅ。ごめん、蓮、恵…」


 2人には謝ることしかできない。

 「お2人は美人さんなので蓮も恵もメロメロになっちゃいますね、ハハ。何度も協力すると不審に思われるので今回限りで、か、勘弁してください。へへ…」と媚びて媚びて媚びまくったのでもうこのようなことは起きないと思うが、それでも申し訳ない気持ちは変わらない。

 

 胃がキリキリする。もう蓮と恵は彼女達と出会っただろうか。話が盛り上がって楽しんでたらどうしよう。どうするもこうするも私にできることはなにもないのだが、嫌だなと思ってしまう。そうなるように仕向けたのは私なのに…。


 「はぁぁぁぁぁ」


 ベッドに突っ伏す。

 悪い方向にばかり考えてしまうときはもう眠ってリセットするしかない。

 明日になれば蓮と恵には会える。そのときに謝ろう。そう心に決めてタオルケットを被った。


 その後ぐっすり眠れたのは私の中に少しだけ余裕があったからだ。

 蓮と恵は私のことが好きで、私と同じようにずっと一緒にいたいと思ってくれている。

 お互い向ける感情は違うけどそれは変わらない。

 だから彼女たちと親しくなることは万が一にも起らない。



 そう思っていたから、翌朝の掃除中に


 「シャイリーンと蓮が、ついに付き合ったらしいぞ!」

 「…え」


 そんな声が聞こえて、目の前が真っ暗になった。





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