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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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3.憂鬱なダンジョン攻略の始まり




 「おお~! あなた達はチキュウから召喚されたのですね」

 「違う世界の人間に会えるなんて思ってもみなかったぜ!」

 「私たちミルティックっていう世界から来たの」

 「あたしはシャイリーン。よろしくね」

 「あなたたちは3人しか生き残らなかったのね…」

 「ここまでよく頑張ったな!」


 驚くべきことが起きていた。

 私たちの前には男女あわせて20人ほどの集団がいた。

 アラビアンな服装の彼らと出会ったのは第二ダンジョンに入ってすぐのことだった。


 今回のダンジョンは前回と違い地下迷宮のようなつくりをしていた。

 デコボコとした岩肌の通路は薄暗く不気味で、私たち3人が並んで歩けるほどの一本道を進むと楕円のひらけた場所に出た。

 そこでちょうど休憩をとっていた彼らに出会ったのだ。


 「わわわ~! まさか俺たち以外にも召喚された人がいたなんて! しかも違う世界!? 頭がこんがらがってきた~」

 「うふふ。大丈夫?」

 「ほらほら、落ち着けって」


 大きな図体で可愛らしく目を回す蓮はすでに輪の中心にいた。

 彼らと出会って大して時間も経っていないのに、ほとんどの人から好意的な眼差しを向けられている。中には数人、警戒したりドン引きしている人たちもいるが近いうちに彼らも蓮の虜になるだろう。


 「はぁ」


 そんな当たり前の光景を見て、蓮は「特別」だと自分と比べて落ち込むことはもうないけど、置いて行かれたような気持ちにはなる。朝のことを思い出してしまった。

 ついさっきまで私の「隣」で楽しそうに笑っていたのに、今は向こうで笑っている。もちろん擬態しているだけだとわかってる。…だけど私と違って蓮にはたくさんの居場所があってみんなから必要とされるから、裏切られたような不貞腐れたような嫌な気持ちになる。そんな自分が嫌いだ。


 「はぁ」


 一方の恵は私の「隣」にいるけど、彼もまた周囲から熱い視線を送られている。

 だから不機嫌な顔で私に話しかけない。いつも通りに接すれば私に害が及ぶと考えているからだ。

 ……仕方がないとわかっている。これは恵の優しさだ。だけど笑いかけてもらえないのは、目が合わないのは、やっぱり寂しい。「隣」にいてくれるだけありがたいと思わなければいけないのに。


 「恵もこっちに来て話そうよ~!」

 「チッ」


 そんなことを思ったからか、恵も私の「隣」からいなくなってしまった。誘いに来た女性――アイーシャさんを無視してどこかへ行ってしまったのだ。

 …私も一緒に連れていってほしかった。恵の行動は全部私のためなのに、そんな彼を恨めしく思ってしまう自分が嫌になる。

 明確に拒絶されたのに楽しそうに恵を追いかけるアイーシャさんが少しだけ羨ましい。


 私は一人、そっと壁際に立ち空気と同化する。当然だが私に声をかける人は誰もいない。

 人を惹きつけるような見た目でもないし、性格も明るくない。なにより魔法が弱い。マイナス要素しかない私と仲良くなりたい人なんていない。


 「はぁ」


 蓮も恵もそばにいなくて、後ろ向きな気持ちに拍車がかかる。

 こういうときは楽しいことを考えよう。


 蓮と恵の「隣」に立つ自分の姿を想像する。笑顔の私たちとそんな私たちを囲む大勢の人、そして…周囲の視線に耐えきれずこっそり姿を消す私。


 「うぅ~」


 全然楽しくない。やっぱり普通の「特別」が欲しい。それとも()()()()嘘をつけば「特別」になれた? そんなあり得ないことを考えてため息をつく。


 それは彼らと自己紹介をしたときのこと。「私は治癒・防御の魔法で…」と話すと、目が眩むほどの期待の眼差しを向けられたのだ。

 ここには私と同じ魔法を持つ人はいなかったようで「戦闘がしやすくなる!」「怪我をしても怖くないわ!」と喜ばれてしまったのだ。

 胃が痛かった。期待を裏切ることは目に見えていた。なにも言わずに愛想笑いで済ませたかった。

 だけど魔物との戦闘になったときに困るのは私と私に騙された皆さんだ。結局私は真実を告げた。すると案の定彼らの態度は一変した。

 表向きは友好的だが決して私に関わろうとしない。その目が語るのは「落胆」と「拒絶」。自信を持って言える。こんなことで自信を持ちたくないけど。


 「由亞~。俺達、シャイリーン達とダンジョン攻略をすることになったよ~」

 「え“」


 そんな彼らと行動を共にすることになったらしい。控えめに言って嫌すぎる。


 「かわいい蓮のお願いだもの」

 「シャイリーン姐さ~ん! ありがとうございまぁす!」

 「おいおい、俺達に礼はなしか~?」

 「あ! 忘れてた!」

 「おぉい!」

 「……ハ、ハハ。心強い、です」


 陽キャたちは楽しそうだが私は楽しくない。苦笑しかできない。


 蓮の馬鹿。

 軽く睨めば子犬の顔で微笑まれた。


 もちろん蓮のことだからなにか考えがあるのだろう。だけど学園祭の打ち上げもクラスの(陽キャ主催の)親睦会(バーベキュー)も怖くていけない私が集団行動を嫌がることを蓮ならわかっていたはずだ。他に方法はなかったのかとは思ってしまう。

 ……そんな風にお荷物のくせに文句ばかり言う自分が嫌いで、私は今日何百回目かのため息をついた。




 「情報収集のため?」


 集団行動の理由を蓮が教えてくれたのはその日の夜だった。

 正確には「夜」という概念はダンジョンにないのだが、シャイリーンさんたちは身体的精神的な健康のためにも睡眠を取るそうで、その時間を「夜」と呼んでいた。…集団行動が集団生活に悪化しそうで怖い。


 「そ。ダンジョン攻略…ていうか異世界召喚には絶対に裏がある。気づいたときにはもう手遅れ~。元の世界には帰れませーんとか嫌だからさ。それを防ぐ為にも、俺達は少しでも多くの情報を得る必要があるってわけ」

 

 簡易ベッドを整えながら蓮が言う。

 ミルティックには物を小型化して持ち運べる技術があり、私たちがいるコテージも蓮が整えている簡易ベッドも全て彼らが貸し与えてくれたものだ。ちなみにこの部屋には私たち3人しかいない。私は女子の大部屋に行く予定だったのだが、蓮がうまい具合に説得して同じ部屋になったのだ。おかげで今打ち合わせをすることができる。


 「…裏ってなに?」

 「ワニが嘘をついてる」

 

 答えたのは恵だった。

 私も蓮も驚く。


 「意外だなぁ。恵、気づいてたの?」

 「あの顔と態度で嘘をつかないわけがない」

 「あーようするに勘ね。恵に期待した俺がバカでした~」

 「は?」

 「け、結局嘘ってなに?」

 

 恵を宥めつつ蓮に問えば、彼は愉快そうに目を細める。


 「まあ正確には「嘘」ってわけじゃないんだけど~。2人はさ、緑ワニ1が言ったこと、覚えてる?」

 「「言ったこと?」」


 全てを覚えているとはいえないが、だいたいのことなら覚えている…はずだ。


 「ある日、この世界に突如として現われた7つのダンジョン。全てのダンジョンを攻略しなければ元の世界に帰さない。自分たちではダンジョンを攻略(解決)できないから異世界人を召喚する。要約すればこんな感じのことを彼は言ったんだよね」

 

 たしかに言っていた。


 「それを聞いて俺は【ダンジョンは攻略すれば消滅する】と思った。彼らはなんらかの「問題を解決する」ために異世界人を召喚する、そうして召喚された異世界人(俺達)は「ダンジョン攻略」を求められる。つまりワニたちの解決したい問題はダンジョン。この世界にダンジョンが突然現われたなんて話をされれば、解決=ダンジョンの消滅って思うよね。話の流れ的にさ」


 私もたぶん無意識のうちに蓮と同じ事を思っていた。

 ダンジョンを攻略すれば、あの塔は跡形もなく消えてなくなるのだと。

 そこでふと疑問に思う。


 「でも…シャイリーンさんたちも第一ダンジョンをクリアしたって言ってたよね?」

 

 自己紹介の時、確かにそう言っていたはずだ。手の甲にも私たちと同じように「1」の数字があった。

 蓮が満足そうに頷く。


 「そうなんだよ。詳しく話を聞いたら彼女たちがクリアしたのも黄土色の巻き貝のような塔だった」

 「…つまり、ダンジョンは攻略しても存在し続ける? そしてワニたちは新たな異世界人を召喚する?」

 「その通り」


 よくできましたと蓮に頭を撫でられる。

 …うれしいけど、内容が内容だけに素直に喜べない。

 

 「それじゃあ私たちみたいな被害者が増え続けるってこと…?」

 「いやいや、由亞。他人のことより自分の心配をした方がいいよ」

 「…え」


 その窘めるような、少し不思議そうな口調に嫌な予感がした。

 蓮は目を細めて笑っていた。


 「最悪を想定するなら、俺達は一生帰れない。例え最後のダンジョンをクリアしたとしても、難癖つけて最初からやりなおしって言われる可能性は十分にある。だってダンジョンはまだ存在しているから」

 「そんな…」


 目の前が真っ暗になる。

 頭をよぎるのは第一ダンジョンで過ごした苦痛の時間。生きるか死ぬかのやり取りや生き物を殺す罪悪感と恐怖。それらにこの先一生苦しめられる…? もしもの話だとしても、考えるだけで発狂しそうだった。


 「だから情報を集めるんだよ。俺達が思い込んでいたってのもあるけど、ワニたち(異世界人)の「解決したい問題」は違った。ダンジョンは消えなくても別にいい。じゃあなんで俺達にダンジョン攻略を強制するのか、彼らの目的を知る必要がある。元の世界に帰るためにもね」


 にこにこと余裕の表情で笑う蓮にどうしてそんなに冷静でいられるのと問い質したくなるが、…それが蓮なのでしかたがない。答えはすぐに出てため息をつきたくなる。


 「…ワニたちの目的、ね」


 頭を切り替え思い返せば、確かに緑ワニ1はダンジョンに困っているとは言ってなかった。それに…自分(異世界人)にとって都合が悪いことは話さなかった。あのときは蓮が誘導したから話しただけ。


 つまり私たちはまだまだ知らないこと(伏せられた真実)があるかもしれないのだ。頭がおかしくなりそうだ。


 「あいつらが本当のことを言ってるとは限らない」


 そんな頭をさらに混乱させるのは恵だ。

 勘弁して欲しいと思うけど恵の顔は真剣だった。気持ちを改める。これは真面目な話だ。

 一方の蓮はおもしろそうに口角を上げていた。


 「あいつらって、ワニのことじゃないよね~」

 「お前が一緒に行動するって勝手に決めた奴らのことだ。…会ったばっかりの人間の言うことなんて信用できない。ダンジョンをクリアした話も召喚されたって話も全部嘘かも」

 「あ…」

 

 言われてみればたしかにその通りだった。

 なんの疑いもなくシャイリーンさんたちの話を信じていたが、そもそも嘘である可能性もあるのだ。もしそうなら、話が大きく変わってくる。ワニの話に矛盾…というか私たちの解釈に間違いはなく、このままダンジョンを全て攻略すれば元の世界に帰れることになる。


 「うんうん、恵の意見はもっともだ。その可能性は捨てきれない」


 俺も彼らを信用してないよと蓮が頷く。

 なんだかさらに頭が混乱してきた。


 「でも彼らかワニたちか、どちらのほうが怪しいかと問われれば後者だから、俺の推測は今のところ変わらない」

 「は? そういう話なら僕もワニの方が怪しいと思ってる。特に今日のワニは由亞ちゃんに対して悪意を持ってた。嫌い」

 「え?」

 「お。やっぱ恵も気づいた?」

 「え、え?」


 自分の意見がまとまらないのでとにかく聞き役に徹していれば、話が予想外の方向へと進んでいた。

 たしかに私も緑ワニ2からは悪意と攻撃性を感じた。だけどそれは()()()に対してだ。


 「…2人の言い方だと私だけを嫌ってるみたいに聞こえるんだけど」

 「その解釈であってるよ。もちろん俺と恵のことも普通に嫌いだと思うけど、由亞のことは特に嫌いって感じだったから」

 「とにかく傷つけたいって顔してた」

 「……え」


 ポカンと間抜けに口を開けてしまう。純粋になぜ?

 愛想がない自覚はあるが、さすがの私も初対面の人にとにかく傷つけたいと思われるほど嫌われるような見た目はしていない…はずだ。


 「由亞~、なにしたの? 怒らないから教えてごらん」

 「え! してない、なにもしてないよ!」

 「由亞ちゃんはひどいことなんてしない!」

 「いやいや、2人とも真面目すぎ。冗談に決まってるじゃーん」


 楽しそうに笑う蓮の瞳がきゅっと細くなる。


 「…たぶん由亞は本当になにもしてないよ。だって由亞が一言もしゃべってないときからすでにあのワニは由亞が嫌いで嫌いでたまらないって顔してたから」

 「…ぇ」


 こ、怖すぎる。

 ぶるっと身震いをすれば恵が抱きしめてくれた。あたたかくてありがたいけど視線を口元に感じるから離れて欲しい。怖がる由亞ちゃんもかわいい? …ハハ、ありがとう。

 

 「じゃあ今日の総括ね、初対面のはずのワニが由亞を嫌っていたことから今日出会った彼らが嘘をついている可能性、ワニたちの目的まで結局真実は何一つわからない。だから俺達は少しでも多くの情報を集める。今持っている情報を選別するためにも、2-Bのみんなが生きてた等の「謎」を解明するためにも、なにより生きて帰るために必要なことだからさ。ちゅっ」

 「むっ!? れ、蓮!」

 「あたた。俺、頑張ったし明日からも頑張るんだからちょっとくらいご褒美ちょうだいよ~」


 それとこれとは話が別だ。

 そう言おうとしたときには恵の顔が目の前にあり、唇には柔らかいものが触れていた。


 「ふふ。由亞ちゃん、かわいい」

 「…はぁ」


 やっぱり部屋は別々の方がよかったかもしれない。

 今日から始まったダンジョン攻略を思うといろんな意味で憂鬱な気持ちになった。



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