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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
2章 2人を傷つける感情なら、私は捨てたい
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2.2回目の異世界召喚(2)



//////////☆



 「で、召喚されたら記憶が全て戻ると。あはは。時間も巻き戻ってるみたいだし? みんな生きてたし? 意味わかんないな~」

 「チッ。どういう…っ! 由亞ちゃん、疲れた顔してる。今日は3時半以降の寝息聞こえなかった。やっぱり寝てない? 今、寝て」

 「……全部夢なら良かったのに」


 私たちは2-Bの教室にいた。

 いつもの教室ならいいのだが、残念なことにここは異世界で窓からは灰色の塔が見える。

 そして教卓には懐かしい緑ワニがいた。


 『…なんですか? ジロジロ見ないでください、見世物じゃありませんよ。それとも嫌がらせですか? 暇人ですね、なら俺が親切心で与えたこの時間は必要ない…違う? なら誤解を招くような行動はしないでください。あと数分なら待って差し上げますからその哀れなほどに小さな脳みそで状況整理でもしたらどうですか?』

 「……。」


 攻撃的で刺々しい悪意しか感じないワニにそんな性格でしたか?と思わなくもないけど、またなにか言われるのは嫌なので大人しく状況を整理する。


 あのあと私たちは各々学校に登校した。

 そしてクラスメイトみんなが揃った教室で前回と同様に地震が起った。

 だけど今回、急な揺れに困惑していたのは蓮と恵と私の3人だけだった。他の人たちは地震はもちろんのこと慌てる私たちにすら気づいていないようで、そのことを不気味に思っているうちに揺れが収まり、その瞬間、前回の記憶を思い出したのだ。


 「もう、なにがなんだか、わからない」

 『整理する時間を与えたのに結論が「わからない」とは、知能が低すぎて同情を禁じ得ませんね』

 「うっ」

 「由亞ちゃんをいじめるな」

 「ほら、由亞。泣かないで」

 「泣いてない」

 

 ほんとうに意味がわからない。

 前回の記憶と今日の朝の出来事が混ざり合って頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 そんな私の心中を察したのか「大丈夫、ちゃんと説明してあげるから」と蓮がウインクをする。…警戒してしまうのは私の心が荒んでいるせいもあるけど、蓮の今までの行いのせいもあると思う。


 「あはは。 由亞がジト目で見てくる~。信用されてなくてうれしいよ~」

 「黙れ、異常者」

 「恵にだけは言われたくないな。…まあ安心してよ。俺は由亞には誠実でありたいからさ、真実しか言わない。お前ならわかるだろ?」

 「……うん」


 蓮は第一ダンジョンで私に真実を教えてくれた。どれも知りたくなかったものだけど、その中に偽りは一つもなかった。


 「…疑ってごめんなさい」

 「キスしてくれたら許してあげ…おっと」

 「死ね。躱すな。死ね」

 「じゃあ恵もしてもらえよ~。俺達3人は近いうちに結婚するんだから堂々とお強請りすればいいじゃ~ん」

 「っ! 由亞ちゃん…」

 「今は状況を整理したいから蓮説明して!」

 「あはは。すっごい早口」


 油断をしたらすぐにこれだ。

 前回みたいに流されないよう気を引き締める。2人の口元も見ないように気をつけて、さっさと説明してと蓮を睨む。


 「あはは。仕方がないなぁ。じゃあまずは現時点でわかっている「事実」を話そうか」


 蓮は愉快そうに目を細めて3本指を立てた。


 「まず1つ、第一ダンジョンのご褒美はきちんと叶えられていた。この世界の魔法が俺達の世界に影響を及ぼすことが立証された」


 その言葉に頷く。

 第一ダンジョンのご褒美――日本の常識を「一妻多夫」「一夫多妻」に変える――は事実、成し遂げられていた。

 ニュースでは当たり前のように多重婚が取り上げられ、なにより私には母親が一人増えていた。絶対におかしいのに違和感を感じなかったことが不気味でしかたない。


 「次に…まあこれは当たり前のことだけど、俺達はこれから第二のダンジョンに挑まなければならない。元の世界に帰りたいからね~」


 その言葉にも頷く。元の世界に帰るにはダンジョンを7つ全て攻略しなければいけない。1回目の緑ワニが言っていたことだ。

 「そして最後」と蓮が目を細める。


 「今、この教室にいるのは俺達3人だけ。これが一番重要だと俺は思うよ」

 「…どうして?」


 純粋にわからなかった。

 恵も私と同様に怪訝に眉を寄せている。

 そんな私たちを見て蓮はにやりと笑った。


 「じゃあヒントをあげる。どうして召喚されたのは俺達だけなのかな? あの教室にはみんなもいたのに」

 「それは第一ダンジョンをクリアしたのが私たちだけだから…?」


 言いかけて、なにかが違うような気がしてくる。でもなにが違うかわからない。

 私の言葉を引き継いだのは恵だった。


 「…みんな、死んだから」

 「っ!」


 暗く沈んだ声に思わず恵の手を握る。縋るように握り返された。

 蓮が楽しそうに口の端をあげる。


 「そ。あくまでこれは仮説だけど。みんなが生きていた理由は別として、少なくともこの世界ではゲームオーバー――死んだもの扱いされていると考えられる。だから再び召喚されることはなく、俺達だけが喚ばれた」

 

 肌が粟立つ。蓮は仮説などというけれど、それは限りなく真実である気がした。

 もはやそうとしか考えられない。


 「でもじゃあ、なんでみんなは生き返ったの?」


 再び頭が混乱し始める。

 いや、そもそも生き返ったという表現であってるのだろうか。元の世界に戻ったら終業式の朝になっていた。それならみんなは生きてて当たり前で、でも今回みんなが召喚されなかったのはこの世界で死んだからだと蓮は考えていて…わ、わからない。

 

 救いを求めて蓮を見る。

 だけど返ってきたのは朗らかな笑顔だった。


 「わっかんな~い」

 「え」

 「いやいや、由亞。俺は全知全能の神様じゃないからね。普通にわからないこともあるよ。だから次に話すのは、「謎」について」


 蓮がまた指を3本立てる。


 「時系列で話そうか。まず1つ、第一ダンジョンをクリアした俺達はなぜか【元の世界に戻っていた】。おまけにそこは俺達が召喚された日の朝3時半。時間が巻き戻ったと安易に考えたいところだけど、断言するには材料が少なすぎる。結論、わからない」


 指が2本になる。


 「で、俺達はなぜか【異世界での記憶を忘れていた】。そうすると今度は夢オチかなって考えたいけど、俺達の腕には【契約印があった】。あと手の甲の「1」もかな。第一ダンジョンをクリアしたから「1」なのかな? まあなんにしても、もし本当に全て夢だったなら契約印はない(現実には影響が出ない)はずだ。つまり異世界召喚は現実である可能性が高い。契約印の他にも多重婚っていう影響が出ちゃってるしね。ただ……まぁこの話はいっか。ちょっと脱線したけど、結局【異世界での記憶を忘れていた】理由はわからないからこれも「謎」の一つね」


 指が1本になる。


 「そして最大の謎が【死んだみんなが生きていた】ってこと。性格も行動も俺が記憶している彼らと何一つ乖離点はなかった。だけど生き返ったわけじゃない。第一ダンジョンで白ワニが死者の蘇生は不可能だと言っていたからね。まあそれが嘘だとすれば前提が覆るけど、その可能性は低いと思うよ。あのワニ単純だったから。で、一番妥当なのが時間が巻き戻った説。でもさっきも言ったように判断材料が少ないから断言できない。じゃあ他にどんな仮説が立てられるのかというと…、残念ながら今は思いつかないんだよね~。俺達はこの世界や異世界人、ダンジョンについてまだまだ知識が不足しているから。説明はこれで終わり」


 そうして話し終えた蓮が見たのはずっと黙っていた緑ワニだった。


 「そんなわけで、緑ワニさんにはなにか助言を頂きたいんですけど~、いいですか?」

 『……()()()()()()から召喚されたのはこの教室にいる3名だけだということは教えて差し上げましょうか』

 「…へ~」


 蓮が目を細め、緑ワニがニヒルな笑みを浮かべる。

 彼らの間では話が通じているようだが、私にはちょっとよくわからない。蓮の説明してくれた「謎」もわかったつもりだが、時間が経てば再び混乱しそうな気がする。


 でも、そんな中でも、これだけはわかった。


 「みんなが生きてるっていうのは紛れもない事実だよね」

 「……由亞ちゃん」


 言葉にすれば泣きたいほどの安堵がこみ上げる。

 そう。理由はわからないが、死んでしまったみんなは生きて私たちの世界にいた。つまり恵は今後みんなを殺してしまった罪悪感に苦しまなくてすむのだ。

 笑いかければ、恵は泣きそうな顔で笑った。よかった、本当によかった…。

 

 

 『いや、どれだけお気楽お幸せな頭ですか。殺した事実はなくならないでしょう』

 


 それは今日聞いた中で一番、冷ややかな声だった。

 

 「…え」


 声の主は緑ワニ。

 ニヒルな笑みを浮かべる彼の視線の先にいたのは私だった。


 『笑っちゃうくらい都合が良すぎますよ。殺した人間が生きていた。だから全てなかったことになると、そうお思いですか?』

 「…あ」


 言葉が出なかった。

 そんなこと思ってない。そういうつもりで言ったわけじゃない。

 私のせいで恵はみんなを殺してしまった。その事実は変わらない。一生苦しむつもりだ。


 …でも、少しくらい気持ちが楽になっても許されるんじゃないか。そう思ったことは否定できなくて


 『ハッ。笑っちゃいますね。君たちが他者を殺めたという事実は消えません。生きている限り一生悔やみ苦しみ続けなければならない。楽になることは許されないんですよ』

 「っ!」


 冷たい瞳に見下ろされる。

 …本当にその通りだった。少しくらい楽にだなんて、そんなこと思ってはいけなかった。


 「由亞ちゃん、ごめんなさい…」


 頭上で聞こえたか細い声に顔を上げれば恵が今にも泣きそうな顔をしていた。

 あぁ、私はなんてことをしてしまったんだろう。


 「め、恵、違う。今のは私だけが悪かった。私だけが最低だったの」


 今も繋いだままの恵の手は微かに震えている。私が少しでも楽になりたいと思ったばかりに恵を巻き込んだ。喜ばせて、傷つけた。最低で最悪だ。

 だけど優しい恵は必死に首を横に振るのだ。


 「由亞ちゃんは悪くないっ。僕が…」

 「違うよ、恵。私が…」

 「あーはいはい、それはもう飽きたから2人とも落ち着いて。ちゅっ」

 「っ!?」

 「おい、蓮!」

 

 そんな流れをがらりと蓮が変えた。


 ま、またキスされた。

 今回は唇に軽く触れる程度のものだったが、それならいいというわけではない。

 恥ずかしさと怒りと嫌だとは思わない自分への困惑とで顔が熱い。

 恵に胸ぐらを掴まれている蓮を睨めば、彼は愉快そうに目を細める。全く反省していない顔だ。


 『最っ悪です。不愉快なものを見せないでください。君たちには羞恥心がないんですか。あぁ、ないからできるんですよね。頭どうかしてますよ』

 「う…」


 そんな気はしていたが、緑ワニに蔑んだ目で見られる。

 私は蓮と違って羞恥心がある。そう否定したいけれど、それを言ったところで百にして返されそうな気がするので…言えない。


 「緑ワニさんは1回目の…緑ワニ1さんと違って意地悪ですよね~」

 「由亞ちゃんをいじめるお前は最悪。死ね。ちゅっ」

 「っ!?」

 『この話の流れでキスする君も相当最悪ですよ。ここには異常者しかいないんですか。あぁ、すみません愚問でしたね~』


 ワニの言葉を否定できないのが辛い。

 ちょっと怒ってるよの目で恵を見る。


 「…? 由亞ちゃん、かわいい。ちゅっ」

 「うぅ~」


 追加でキスされた。頬を桃色に染めて恵は幸せそうだ。

 別にキスされるのは嫌じゃない。でも緑ワニ2がおえーと吐きそうな顔で訴えてくるので、やっぱり後で叱る。

 

 『もう最悪です。君たちと一緒にいると疲れます。さっさとダンジョン攻略に向かってくれませんか?』

 「す、すみません。今行きま…」

 「え~? 緑ワニ1さんは親切にいろいろと教えてくたのに~。緑ワニ2さんはお役立ち情報を教えてくれないんですか?」


 だけど蓮が私の言葉を遮る。…なぜか私を背後から抱きしめながら。なんてことを。

 また緑ワニ2に小言を言われると青ざめたが、意外にも彼は鼻で笑うだけだった。


 『嘘ですね。そんな芸当、あの馬鹿にはできません。君が上手い具合に彼から話を聞き出したのでしょう』

 「そんな! 聞き出すだなんてそんな高度なこと、俺にはできませんよぅ」


 ね~由亞?と覗き込んでくる蓮の顔面を両手で押し返す。指を舐められた。うぅ~。恵が蓮に怒りながら私の手をハンカチで拭く。

 そんな私たちを緑ワニ2は青筋まみれの顔で見ていた。怖い…。


 『…言いたいことは山ほどありますが、もう疲れたので一つに絞ります。俺はなにも教えません。君たちの前に現われたのはおしゃべりをするためではなく、きちんとダンジョン攻略に向かうか監視するためです。残念でしたね、以上です。わかったらさっさと行け!』

 「ん~。緑ワニ2さんはこれ以上はなにも話してくれないみたいですね~」

 『その通りです。もう諦めてダンジョンに向かってください。そしてこれ以上俺に不快なものを見せるな!』

 「れ、蓮。行こう」


 緑ワニ2のあまりの剣幕に慌てて蓮の腕を引っ張る。

 

 「ま、いっか。じゃあ行こう」


 意外にも蓮は軽く了承してくれた。ごねられる気がしていたので少し拍子抜けするけれど、相手は蓮なので気にしないことにする。恵が先に教室を出て、私と蓮もその後に続く。

 だけど去り際、蓮が緑ワニ2をチラリと見た。

 

 「そういえば、今回も最上階には白ワニさんがいるんですか?」

 『さぁ。どうでしょう。俺たち異世界人はダンジョンの中には入れないので、わかりません』

 「…そうですか~」


 蓮は残念そうに笑った。





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