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私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない【ハッピーエンドver】  作者: 味噌野 魚
1章 私が欲しかったのは、怖い「特別」じゃない
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おまけ 75階 事実判明後 (蓮視点)

※蓮は倫理観が欠如しています。

※異常者たちが狂った会話をします。

※「おまけ」なので、読まなくても問題はありません!



 「由亞ちゃんが外出するときは、いつだってお忍びデートを楽しんだ!」


 恵がはにかみながら答えて、由亞が真っ青な顔をする。

 俺は一足先にたどり着いたエレベーターの前で、そんな2人を眺めていた。

 にこにこと笑いながら、「おもしろいな~」なんて思ってもないことを呟いて。

 

 『思ってること全部言葉にすればいいんじゃない?』


 そんな提案をしたのは、偏に俺が退屈だったから。

 犯人の正体はわかっていたし、それを知ったときの由亞の反応も想定通り。みんなの残骸を見ても、焼き肉食べたいなぁとしか思えなかったから、うん。かなり退屈していた。


 恵は単純だ。大して考えもせずに俺の提案を受け入れることはわかっていた。由亞に向ける感情を吐露することも想定済み。

 果たして由亞はどんな反応をするのか。「戸惑う」が妥当なところか?などとあえて不正解を選んでみて。そんな暇つぶしのゲームを開始すれば、思いもよらない収穫があり、本心から爆笑した。さすがの俺も、恵が由亞の自称恋人(ストーカー)で、盗聴器まで仕掛けているとは思いもしなかったから。

 怯える由亞が見えていないのか恵は幸せそうで、本当におもしろかった。震える由亞もかわいいなと思った。


 だが、いい加減飽きる。

 結末は決まっているのに、由亞と恵は昔から無駄なやり取りが多い。永遠とお遊戯を見せられるこちらの身にもなってほしい。まあ横やりを入れる気分でもないので黙って待つけど。


 …暇つぶしに考える。

 身近な人間が自分のストーカーだった場合、普通の人ならどんな反応をするか。

 

 「怯える」「距離を置く」「第三者に相談をする」「逃げる」が、無難なところか。


 理解できないな。

 俺なら喜ぶ。好意を向けてくる人間は操作しやすい。上手に活用して、不要になれば捨てる(社会的に殺す)だけでいいのに。どうしてみんな気づかないのかな。

 だけど小学生の頃、ストーカー被害に苦しむ恵にこれを言ったら、由亞に怒られた。

 

 「そんな簡単に言わないで!ストーカーって、すっごく怖いんだよ!?話が通じないの!かちゅようなんて、できるわけない!そもそも関わりたくないの!」


 興奮しすぎて「活用」を噛んでいた。かわいいなと和んだので本心から笑えば、笑い事ではない、蓮はおかしいとさらに怒られた。


 そんな由亞は今、話の通じないストーカーと仲良く手を繋いでこっちに向かって走ってくる。お前も相当可笑しいよ。そんなところが好きだけどさ。


 由亞は「普通」なのに、こういうところが「特別(異常)」だ。

 先程までは「普通」に、目の前の異常者に怯えていた。

 だが今の彼女は「いつも通りの由亞」だ。

 向けられる好意も与えられた恐怖も、全て忘れたかのように、今までと同じ態度で接する。


 もちろん由亞は忘れてなんかいない。ちゃあんと覚えている。

 彼女はただ、「目をそらすこと」「逃げること」「理解できないと諦めること」が、驚くほど上手なのだ。昔から変わらない。


 それは異常者に限らず、異世界に召喚されるという異常事態にも通じるものがある。

 由亞はクラスメイトが死んでも、自分が殺されかけても、敵を殺しても、感情に囚われ続けない。苦しみ、恐怖し、自責の念に駆られるくせに、切り替える。(まあ「慣れる」わけではないから、また苦しんで、切り替えてを繰り返すみたいだけど…)


 だから由亞は、今ここに「いつも通りの由亞」のまま、生きて存在している。

 普通の人なら早々に精神を病んで死んでいただろう。

 俺と恵が守れるのは由亞の体だけ。彼女は精神防御・精神回復力が常人の域を超えている。魔法属性を報告されたときは心底納得したものだ。

 

 まあ本人は、そんな自分の「特別」に気づいていないのだろうけど。



 「由亞ちゃん、寝た。かわいい」


 恵が吐きそうなほど甘い声で笑ったのは、エレベーターに乗った直後のこと。


 「あはは。なにそれ、恵が冗談を言うなんて珍しいね~」

 「は?」


 さすがにそれはないだろ。

 そう思っていた俺の目に飛び込んできたのは、恵の膝を枕にして眠る由亞だった。


 「あはは!」

 「蓮、黙れ。由亞ちゃんが起きる」

 「ごめん、ごめん」


 これは本心から笑った。

 別にこの状況で眠る由亞に笑ったわけではない。

 ずっとわからなかった謎が解けたから、馬鹿馬鹿しくなって笑ってしまったのだ。


 結論からいうと、由亞は魔法で眠らされている。

 さすがの由亞もたくさんの衝撃告白を受けた直後に、しかも自称恋人(ストーカー)の膝の上で寝むれるほど図太くはない。

 

 由亞の頭を撫でる恵の手は、ほんのりと緑色の光を纏っていた。

 エレベーター内には甘い花の香りが充満し、その香りは恵に近づくほど強くなり、意識が朦朧としてくる。睡眠作用のある花の香りで由亞を眠らせたのだ。おそらく無意識で。


 ずっと疑問に思っていた。

 恵が2-Bの人間を惨殺したとき。

 なぜ由亞は眠り続けていたのか。

 なぜ全員が死に、凶器の大木が消滅した後に、目覚めたのか。


 単純な話だ。

 恵が眠らせて、恵が目覚めさせた。


 全て魔法のおかげだったわけだ。便利すぎてつまらない。拍子抜けだ。

 まあその魔法サマのおかげで、俺は恵の攻撃を防ぎ生き残ることが出来たわけだけど。


 「はぁ~。由亞も寝ちゃったし、テンション下がるなぁ。なんかおもしろい話してよ」

 「黙れ。由亞ちゃんが起きる」

 「恵が望めば一生眠ったままだよ~」

 「は?………お姫様を眠りから目覚めさせるのは、王子様のキス?」

 

 ぽっと頬を染めて恵が由亞を見る。

 何をどう解釈したらその考えに至るのか。恵の思考回路は相変わらずおかしい。

 この男は普段は常識的なのに、由亞に関してだけは全てが異常に変貌する。

 今だって寝ている由亞に顔を近づけて王子様気取りだ。お前は魔女だよ、現実見ろ~。

 

 「恵は由亞と結婚するんだろ。キスは結婚式場まで取っておけよ」


 由亞を俺に縛り付けるためなら、恵と共有することもやむを得ない。が、目の前で惚れた女と異常者がキスするのを黙ってみている趣味はない。

 適当に妨害すれば、恵に睨まれた。


 「それとこれとは別」


 めんどくさ。話を逸らした方が早そうだ。


 「確かになぁ、付き合ってるうちにキスしたいよな~。2人は結婚しないかもしれないし」

 「は?」

 「だって未来のことはわからないだろ?由亞が他の人と結婚したいって言うかもしれないじゃーん。で、もし言われたらどうする?」


 にやにやと笑ってみせれば、恵は眉間に皺を寄せ苦しそうに唸る。


 「由亞ちゃんを殺す」

 「やっばー。それ、どういう思考回路?」


 これは素が出た。目の前の男がやばすぎて笑ってしまう。

 さすがの俺でも、由亞を殺そうとは思わない。


 「僕と由亞ちゃんは結婚しようねって指切りした」

 「…だから?」

 「チッ。約束を破った相手は針を千本飲む。そんなの死ぬだろ。しかも痛い。だから由亞ちゃんが苦しまずに死ねるように僕が殺す」


 そもそも針を飲ませなければいいだけの話だ。

 だがそれを言ったところで、恵は理解しないのだろう。


 「で、由亞を殺したお前は、抜け殻のように生きるの?そんなこと由亞は望まないと思うけどなぁ」

 「は?ちゃんと僕も後追って死ぬし。地獄で由亞ちゃんと再会するから寂しくない」

 

 恵は当然だと言わんばかりに俺を睨みつけてくる。

 ようするに、あの世で由亞が寂しがるから自分も死ぬと言っているのだ。

 由亞のことになるとほんと馬鹿になるよね、こいつ。


 「お前、もう少し頭を使いなよ。由亞はきっと天国に行くから、同じタイミングで死んだ方がいいだろ」

 「……あ。由亞ちゃんを先に殺したら、地獄から迎えにいかないといけない?」

 「死んだことないから断言出来ないけど、それは無理じゃない?地獄って一度入ったら出られなさそう。一緒に死んで、そのまま地獄に引きずり込む方が確実だろ」

 「…たしかに」


 恵は納得したように頷いた。

 由亞はもっと俺の存在をありがたがるべきだと思う。

 「普通」に擬態しているときの俺はみんなに親切だけど、素の俺は自分のしたいことしかしない。でも由亞のことは、今みたいに助けてあげる。俺の意思でだ。


 「でもさぁ、本当に殺していいの?」


 俺は気が利くから、もう少しだけ由亞を助けてあげる。

 心の底からお前を心配しているよ?という顔をつくり、恵を見た。

 すると恵はしょんぼりと眉を下げる。


 「…針千本飲んでも生きる可能性にかける?」


 相変わらず頭がおかしいなぁ。


 「ちがうよ。お前、どんだけ由亞に針飲ませたいの。前提を疑え」

 「は?」

 「結婚したくないって言われたとして、それが由亞の本心とは限らないだろ。誰かに脅されたり、洗脳されてるのかもしれない」

 「っ!」


 そこまで考えていなかった…とばかりに恵が瞠目する。

 本当に単純な男だ。


 「それなのに殺したら、かわいそうだろ?」


 諭すように優しく笑いかけてやれば、恵は深く頷いた。


 「殺すのは止める?」

 「止める。由亞ちゃんを保護して、もう大丈夫だよって安心させる」

 「そうそう、それでいい」


 まあ保護(監禁)して、もう大丈夫だよって(罪悪感を刺激して)安心させる(諦めさせる)んだろうけど。殺されるよりはマシだよね~。由亞、俺に感謝しなよ。


 今も恵の膝の上で眠る由亞を見れば、悪い夢でも見ているのか魘されていた。


 「っあはは!」

 「おい、蓮!」


 笑いを堪え切れなかった。

 だってこんなの無理だろ。現実でも夢の中でもひどい目に遭ってるとか、どんだけ苦しみたいんだよ。


 「ご、ごめ…なさ。うぅ……」

 「寝言まで言い始めた!あはは!」

 「蓮、黙れ!由亞ちゃん、大丈夫だよ」


 恵が労るように眠る由亞の頬を撫でる。

 それが心地よかったのか、由亞はほっと安堵の息を吐くと、もっととせがむようにその手に頬をすり寄せた。うわー。

 息を呑む音が聞こえた。

 案の定、恵が真っ赤な顔で瞳を潤ませていた。


 「っかわいい…」

 「いいなぁー」


 うらやましそうな子犬の目で恵を見ながら、死ねと思う。

 まだ寝言を言おうとしているのか、むにゃむにゃと由亞の口が動く。


 「恵…辛かった、ね。大丈、夫。私が…まも、る……」

 「好き」


 食い気味に恵が言った。

 ハートを飛ばしながら、好き好き連呼して気持ち悪い。


 でも、これは由亞が悪い。

 やれやれと俺はため息をつく。


 こういうところが、俺と恵に好かれる理由なのだ。

 「目をそらして」「逃げて」「理解できないと諦める」

 それなのにお前は、他人の気持ちを考えて、少しでも寄り添おうと努力する。

 こんな異常な俺たちとずっと一緒にいたいと思ってくれる。

 そうやって俺や恵を受け入れるから、惚れられるんだ。自業自得だよね。


 チンッ


 「ほら恵、エレベーターが止まったよ。由亞を起こして」


 たとえ死んでも逃してあげないよ。

 ずっと一緒だからね。

 大好きだよ、由亞。

 



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