表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみがみ拾遺譚~掉尾の物語~  作者: 真上犬太
掉尾の三、ブルー・テスタメント
18/24

3、デュエリスト

 関係者三人が集まると聞き、信二はそのイベントの後に、インタビューを申し入れた。

 答えは三様の『YES』。


『あいつのこと聞きたいって!? いいぜ! なんでも聞いてくれ!』


『いいですけど、記事にするとか、そういうのは勘弁してください』


『大丈夫です。ああ、でも、門限があるんで、なるはやでお願いしますね』


 待ち合わせの場所は秋葉原駅近く。ホビー関連の店舗が集まった複合ビルで行われた、カードゲーム大会だった。

 アメリカ初のカードゲーム『wizdom;the glorious』、通称『ウィズ』。

 その公式大会に、彼女たちはチームで参加していた。

 チーム名は『運命のデュエリスト』。


「発案者はオレね! だって実際、オレたち運命で結ばれた同士だし!」


 チームの中で最年少の少年、紫藤伶也しどうれいや

 高校一年生としては、かなり言動が子供っぽいが、パンクロッカーと勘違いしそうなファッションが、なんとも言えないミスマッチ感がある。


「……俺は嫌だって言ったろ。この前のインタビュー記事、行きつけの店に貼ってあって心底キツかったんだぞ」


 その隣に立つのは、いかにも平凡そのものの黒髪の青年。

 海道俊之かいどうとしゆき、ウィズにおけるトップランカーで、現在二位の地位にある。


「私は結構好きかな。ということで、賛成多数により可決されたわけですねー」


 そして、このチームのリーダーであり、日本における一位の成績を誇る三条日美香さんじょうひみか

 茶色みかかった髪に、野球帽のようなキャップをかぶり、いかにも活動的なズボンにジャケット、ロングシャツという衣装だ。


「それで、今回の戦績は?」

「もちろんばっちり大勝利! ちょっと危ない瞬間もあったけど、会場はめちゃくちゃ盛り上がったし、終わり良ければ総て良しっ!」

「見てるこっちは悲鳴上げたかったけどな。ノータイムで切ってくとか」

「実際に悲鳴上げたのは、対戦相手だったけどね? 『あんのかよ三枚目』って、呻いてたの聞こえたし」


 実際、この三人を中心としたチームは、団体と個人戦でも良成績を残し、次に海外で開催される世界大会にも出場を予定していた。

 そのまま、あらかじめ予約しておいた焼き肉店に招き、そこでインタビューを始めた。


「どっから話したらいいかな。オレがヴィースに呼ばれたとこから?」

「その、小谷野さんは、勇者のことは?」

「君たちの前に他の子にもインタビューしてるよ。だから、途中は端折っても大丈夫」


 だが、三人の事情は、それまでの勇者たちとはだいぶ毛色が違っていた。


「元々は私の召喚主であるマーちゃん、"愛乱の君"マクマトゥーナの神規の力で、勇者候補の補充が行われたことが発端だったんです」

「勇者の、補充?」

「神々の遊戯は基本的に、開始前にエントリーを済ませておかないと、途中参加はできない。それを大神の権限、というかごり押しで可能にしたらしいですね」


 三条日美香を召喚したのは四柱神と呼ばれる実力者の一柱で、彼女のデュエリストとしての才能を生かせる『カードゲーム』の神規を展開した。


「マーちゃんは、それまでの不平等な遊戯を嫌ってて、神様も魔界の人たちも、平等に参加して楽しめるゲームを設定したかったって言ってました」

「愛称呼びとは、ずいぶん親しかったんだね」

「神様っぽく、ちゃんと怖いところもあったんですけどね。なんか、いつのまにか、友達みたいな感じの付き合いをしちゃってました」

 

 そのゲーム内ゲームのような状況で三人は知り合い、こちらに帰って来てからチームを組むに至ったらしい。


「てか、びっくりしましたよ。いきなり俺の参加してる大会に来て『オレのこと覚えてるか!?』だったし」

「そのまま大会の決勝とかで会いたかったけどな! オレ、一回戦負けしたし……」

「その後、二人で私のところに来て、面白そうってチームを組んで」


 今までのインタビューとは違い、カードゲーマーたちは終始和やかに、異世界での冒険を語ってくれた。

 ついでに、育ち盛りの子供らにふさわしい、旺盛な食欲を示しつつ。


「流血を伴わない、番外戦術を極力排したエンタティメント重視のゲーム。その女神さまは、相当やり手のプロデューサーだったようだね」

「ですねー。真剣勝負なんてくだらない、人生は舞台だ、って言ってましたし」

「そういえば、例のコボルト」

「オレのライバルと書いて親友ともと読む、シェートのことだな!」


 どうやら、例のコボルトは順当に勝ち上がってきたらしい。とはいえ、異世界のニンゲンに、カードゲームなどできたんだろうか。


「オレが最初にあいつとデュエルしたんだぜ。でも、全然弱っちくってさー」

「で、こいつが散々チュートリアルみたいなバトルを繰り広げて、気が付けば俺も三条さんも、そいつに負けるほどに育ってたんだよなぁ」

「女神さまとの二人三脚でしたけどね。でも、最後にはちゃんと自分の考えで、カード使ってたし。すごい上達速度だったなー」


 ここまでのインタビューで、そのコボルトはひたすら『大物食い(ジャイアントキリング)』をし続けている。

 百人の勇者を下し、魔王軍と組んで勇者軍を攻め滅ぼし、カードゲーム大会でも優勝を引っさらっていく。


「君たち、そのコボルト」

「シェートな」

「……そのシェートが、最後どうなったのかは、知ってるのかい?」


 その時、三人の間にわずかな緊張感、のようなものが走った。

 すべてを心得た日美香が、代表して意外な一言を告げた。


「すべての勇者に勝って、神々の遊戯を終わらせたそうです」


 彼らの緊張が伝わり、信二の背筋もしびれさせる。

 聞くべきことを簡潔に、絞って尋ねる。


「その情報は、どこから?」

「私たち、もう一回、あの世界に呼ばれてるんです」

「……なんだって」


 今までの勇者たちからは聞けなかった、驚くべき事実。だが、彼らはこれを打ち明けたがっていない感じだった。

 つまり、


「特別措置、ということかい? 君たちデュエリストだけの」

「神々の遊戯はシェート君が壊してしまった。それに代わるものとして、マーちゃんのデュエルを、新しいゲームにしようとしたんです。そのインビテーショナル枠、ですね」

「でも、新しいデュエル大会、あの一回だけっぽいんだよなぁ」

「クーリ……俺の担当だった女神も、帰り際にそんなことを言ってました。『おひいさまの威光でも頑固な連中はどうしようもない』って」


 信二は極めて抑制的に、次の質問を繰り出す。

 鉱脈を掘り当てた、そんな実感を悟られないように。


「向こうからの干渉は、それっきり?」

「そうですね。残念ですけど」

神去かみさりって、向こうの神様は地球のことを、そう呼ぶんですけど。俺たちの星って、あいつらには毒らしいんですよ」

「……詳しく、お願いできるかな」


 結局、二時間にも及ぶインタビューで分かったのは、神という存在がいいように地球の状況を扱っていること。

 そして、自分たちは連中から『忌子』とみなされているということだった。


「ごちそうさまでした」

「ホント美味かったー。ありがと小谷野さん」

「それで、この話は、なんか雑誌とかに載ったりは……」

「大丈夫。そういうのはないから。あったとしても匿名にしておくし」


 とはいえ、このことを『報告』すれば、彼らの人生はこれまでとは違う意味を持つことになるだろう。

 そんなことはおくびにも出さず、挨拶をして別れる。

 

「異世界からの侵略行為……と言うには、難しい話だな」


 スマホで時刻を確認し、足を速める。

 電車を乗り継ぎ、新宿方面へ。

 その間にも、思考はめまぐるしく動いていく。


「神を名乗る存在の干渉、異世界の代理戦争、転移中の人間はこちらでは『いない』ものとされる……か」


晦魄かいはくって言って、地球の歴史から、無いものとして扱われるらしいです』


『神様に気に入られた勇者の中には、そのまま異世界に移り住んで、帰ってこない奴もいるんだってさー』


『私も誘われましたけど……いろいろあるんで、断っちゃいました』


 三条日美香たちの証言を信頼するなら、神々の遊戯とやらは『終わった』らしい。

 では、あの『怪獣』と『獣人』は何だ?

 やがて電車は、日本最大のハブ駅に停車し、待ち合わせの場所へと向かう。


「こんばんは、お疲れ様です」


 信二が声をかけると、西口前の広場でたたずんでいた背広姿が振り返る。


「お疲れ様です、小谷野さん」


 少し疲れたような顔の中年男性。目元に疲れがあるのは、単なる労働によるもの、というわけではない。


「どこ行きます?」

「俺の行きつけでよければ、そこで」


 連れだって歩き出し、彼は居心地悪そうに笑った。


「まさか、あんたにまた(・・)会うとは思ってませんでしたよ」

「俺もです。っていうか、異世界の勇者、ですか?」


 満面の苦笑を浮かべて背広の男――首藤勇実すどういさみは、首を振った。


「あんまり言わないでくださいよ。恥ずかしいんで」


 そんな中年二人が連れだって向かった場所。

 新宿二丁目のはずれ、ゴールデン街の一角が、夜のインタビュー会場だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
デュエリスト勢がエンジョイどころか普通にガチ勢になってて草。本物(?)のデュエルを経験した者達だ、面構えが違う。 しかしもう一度あのデュエルが行われ、しかも勇者まで呼ばれていた、ってのはちょっと意外…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ