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第九十七話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 リオンは休みの度に、アラファント・イージスの踊りを観に行った。哀しい旋律、迸る魂の踊り、残像さえ美しい踊り子の動きに魅了されてしまったのだ。

ある日急にアラファント・イージスと仲の好さそうな一人の男の子に声を掛けられたリオンは、男の子の距離の近さに困りながら返事をした。

「何か御用ですか?」

「いや、綺麗なお姉さんだなと思って」

「え?」

ニコニコと笑いかけてきた男の子といっても、リオンと年齢は変わらない感じだった。

「・・・・・・」

じっと目を覗き込む男の子に、どう対応すべきか迷っていると、彼はさらに距離を縮めてきた。顔が近いわ、どうすればいいのかわからないわ。

「・・・・・・」

リオンはこのような事をされた事がほとんど無いので、困り果てた。

「こういう事された事ないの?」

「少し離れて下さい」

「困った顔もいいね」

「離れて」

「僕の名はテノン、あなたの名は?美しい人」

「名を名乗りたくないわ」

「ふふ、強情そうなところがいいね、じゃ、今日はここまでにするよ」

強く握ったリオンの腕をするりと離した。

「・・・・・・」

リオンは痕の付いた手首を見て、私はどうして彼から逃げられなかったのかしらと自己嫌悪に陥った。




次にアラファント・イージスの踊りを観に行くと、テノンがリオンを待ち構えていた。

「やあ、お姉さん。待っていたよ」

又、テノンはリオンの身体に近い距離感を保った。

「離れて」

「嫌だね」

テノンはリオンの手に自分の手を重ねてきた。

「・・・・・・!手を離して」

「こんな事も未経験か、ますますいいな」

テノンはリオンの手に口を寄せた。

「やめて」

リオンは、どうすれば彼がこのような行為をやめてくれるかわからなくて、テノンのなすがままにされてしまう。

「ここじゃ、だめだな」

そう言うと、テノンはリオンの細い腕を掴んで駆けて行く。

「どこへ行くの?離して!」

テノンが駆けこんだ先はとある部屋の寝具の上だった。

「何?」

「無防備だなあ、お姉さん」

テノンは急にリオンを押し倒し乱暴を働いた。

「離して!嫌よ!離して!」

リオンの声は誰にも届かない。

―テノンの舌がリオンの首筋を舐めつくそうと触れた時。彼は苦しみだした。

「・・・・・・これは!お前」

彼は舌を出し首を苦しそうに手で絞めている。

「・・・・・・王の印がある。嵌めやがったな?」

ハアハアと息が苦しそうなテノンの言葉に、リオンは自分の踵の紋様の存在を思い出した。

「気が付かないお前が悪い」

聞き覚えのある声に顔を上げると、アラファント・イージスが部屋のドアの前に立っていた。

「くそ!覚えてろ!」

「これに懲りて、女に手を出すんじゃないよ」

「ふん!」

テノンは苦しそうに顔を歪めて、走り去って行った。

「・・・・・・」

リオンはどうしてすぐに助けてくれなかったのだろう、と半分腹を立てながらアラファント・イージスを睨んだ。

「服を直しなよ、はだけているよ」

「・・・・・・!」

リオンは慌てて服の乱れを直した。

「どうして早く助けてくれなかったんだって顔だね」

「・・・・・・」

「あんな男にホイホイついて行くやつが悪いよ。少し痛い目に遭わないとお嬢さんは分からないと思ってね。まあ、王の印を持っていたから、どうなるかはわかっていたけどね」

「そんな・・・・・・」

「女なら自分の事は自分で守らないと」

「・・・・・・」

「いつでも誰かが助けてくれると思ったら大間違いさ」

「・・・・・・」

リオンはぐうの音も出ない。痛いところを突かれたのだ。確かに私は甘かったのかもしれない。本当に男を知らなかった。あの時、彼に触れられた時、ただ一人の男の顔がよぎった。自覚しなきゃ、私は誰を求めているのかを。

「もうあんな男に捕まるんじゃないよ。男がどういう事を企んでいるかわかっただろう?」

「確かにいい経験をしたわ。男がどういう事をしようとするのか、それと私の心が誰に向けられたか分かったから」

「へえ、言うじゃないか。乱暴されて好きな男の顔でも浮かんだかね」

「ええ、そんなところだわ」

「一気に女の顔になったね。もう大丈夫かもね。本当に無垢な顔してたからね、あんた」

「女の顔?そう?」

リオンは顔を赤らめた。

「まだ、おぼこいね。そういう所が」

アラファント・イージスは、はははと笑った。

「まあ、人を揶揄って面白いの?」

「あんたの顔が面白いのさ、赤いトマトだね」

「そんな事言わないで、叩くわよ」

リオンはアラファント・イージスの肩をポコポコ叩いた。

「いたた、アハハ!」

最後は二人で笑い合って、お互いを許した。二人はこの事を境に一気に親密になった。

リオンは人生で初めて心許し合う親友が出来たのだ。彼女達は互いが別れが来るまで濃密な関係を続けた。


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