第九十六話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
街の中心である高い円柱の建物を目指してリオンは歩いた。鼻をくすぐる香辛料の香り。干肉の油の匂い。新鮮な果物の弾けた爽やかさ。様々な食料品の多さにリオンは目移りして何処を見ても堪らなく唾を飲み込んだ。でも、先に綺麗な布を見てみたいわ。東へと進もうとリオンは取り敢えず街の中心へと目指した、街は円柱の建物を中心に放射状にしか道を作らなかったのだ。
そうして、街の中心に近づいた時、とても悲しい旋律がリオンの耳に流れてきた。
「・・・・・・」
角を曲がると人だかりの中で、楽器を持つ三人の男の側に一人の踊り子がポーズを決めて曲が動き出すのを待っていた。
私はあなたの瞳に恋をする
その涼しげな眼差しに
憂いを含んだ瞳に
光宿る魂に
私はあなたの瞳に恋をする
誘惑を潜めた輝きに
黒く深みの奥の秘め事に
移り気な影なす深き色に
踊り子は踊り出すと観客を虜にしてゆく。踊りの中で体内に熱い情熱を蓄えながら舞う最中それを絞り出す。表面は静かだがその心は熱く滾るものがある。
―魂を絞り出しながら踊っているかのよう。
リオンはその踊り子の一挙手一投足に釘付けになった。
漆黒の巻き毛と憂いを含んだ緑の流し目。飛び散る汗。軽やかな足さばき。
なんて美しいのかしら。これこそ、芸術だわ。言葉にならないわ。
リオンは彼女が踊りを終わっても感動のあまりその場に立ちつくした。
「・・・・・・」
気が付けば、リオン以外の客は散り、踊り子とリオンの二人きりであるかのような錯覚をリオンは感じた。
「あの・・・・・・」
リオンは思い切って話しかけた。
「何?あんた」
「あの、踊りがとても素晴らしかったです」
「そう・・・・・・ありがとう」
そう言うと踊り子はリオンに関心が無いように去ろうとした。
「魂が燃え上がってとても美しい芸術でした」
そうリオンが思い切ってそう言うと、踊り子は振り返り妖艶に微笑んだ。
「そういう事を言う者は少ない。あんたは優れた鑑賞者だね」
じゃ、先を急ぐからと踊り子はその場を離れて行く。
「あなたのお名前は?」
「アラファント・イージス」
美しい踊り子はそう囁くと夕闇に消えて行った。
「・・・・・・」
リオンは踊り子の美しさに、しばらく放心状態だった。そのリオンに頬を突く者がいる。
「?何?」
肩を見ると小鳥がリオンに顔を突いているではないか。これが、ラーカッティア・ヌーの言ってた事なの?
「何?痛っ!いたた!」
「早く帰れ!早く帰れ!帰り道は南へ進め!」
小鳥はそう言いながらリオンの頬を容赦なく突く。
「もう帰る時間なのね?」
「帰れ!帰れ!」
「わかったわ!突くの止めてくれる?」
リオンが不服を言っても小鳥は動きを止めない。
「もう・・・・・・もうちょっと感動の余韻が欲しかったわ」
リオンは少し涙目で工房へと走って帰った。




