第九十三話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
「―やあ、久しぶり」
部屋に入ると、そこにはトマ・イスアがソファに座ってリオンを迎えた。
「あなた・・・・・・今までどこに居たの?」
「まあ、色々とね」
とトマは頭を掻き誤魔化し笑いをした。
「では、失礼しますよ」
とラーカッティア・ヌーは部屋から出て行った。
「・・・・・・今ここに居るのは、ある契りをするためさ」
トマはそう言うと真剣な眼差しでリオンを見た。
「契り?」
「そう、あなたは、このカーウェイクの街を歩きたいのだよね?」
「ええ、そうだけど・・・・・・」
「それには、僕と、とある契約をしないといけないんだ」
「どんな契約なの?」
「あなたに僕の娼婦としての契りを交わす事だよ」
「―な、・・・・・・」
リオンは開いた口が塞がらなかった。この子は何を言っているのだろう。私に何を求めているのかしら?
「・・・・・・」
急に沈黙したリオンにトマは慌てて「形だけだけどね。あなたを自分のものにしたいわけじゃないんだ。この街は女性が一人で歩くには危険なんだ。その防備のようなものなんだ」と一気にまくし立てた。
「そう・・・・・・なの?」
「そう!僕には好いた人もまだいないけど、あなたをそのような目で見たことは一度も無いよ!なんてったってイリスのお姉さんなんだよ。そんなことしたらイリスが怒ると思うんだよ。僕はそんな事絶対したくないんだ。わかるかな?」
「うん、まあ、わかったわ」
「そう、じゃこの契約を結んでも?」
「この契約で私はどうなるの?」
「身体の一部に印が刻まれるんだ。それで僕のものになるんだよ、形式上ね。主の私有物に手を出したものに、きつい罰がある。それにより、あなたは様々な事から守られる。そういう契約だよ。その印であなたには危害が及ばないことになる」
「わかったわ、この街は危険なのはわかっているわ。その危険から守ってくれる契約なのね?」
「そういう事だよ。じゃ、契りを交わす事を始めようか」
「する前に何をするのか確認したいわ」
「僕が呪文と共にあなたの肩にキスをするだけだよ」
「キス?」
「ちょっとするだけだよ。嫌なの?」
「・・・・・・うん、まあいいわ。本当にそれだけ?」
「そうだよ、じゃするよ?」
「いいわ」
そうリオンが答えると同時にトマは何か言葉をぶつぶつと唱え始めた。
―これが呪文なのね
リオンはトマの動く唇を見つめた。
「さあ、肩を見せて」
トマがそう言う通りにリオンは彼に肩を晒した。
「いくよ」
「ええ」
トマはリオンの肩に軽くキスをした。すると黒い光と共に何かがリオンの身体を突き抜けた。しばらくすると、リオンの右足の踝に何か黒いあざのような紋様が浮かび上がった。
「これは?」
リオンがそう質問すると「ああ、これが僕の使用物という証だよ。・・・・・・形式上ね」と少しかすれた声でトマが答えた。




