第八十八話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
「食事が済んだかい?」
食事を終えたリオンにフクシュマーが声をかけてきた。
「はい、とても美味しかったです」
リオンは、気が落ち込んできていたので、そう答えるのがやっとだった。
「そうだろうとも、毎日スープの味が違うから、楽しみになるよ」
沈んだ顔のリオンの様子など、気に留めることなくフクシュマーは微笑んだ。
「さあ、部屋を案内するよ。工房長、この子連れて行くよ」
彼女は他の修行者の子に話しかけていたラーカッティア・ヌーに、そう声を掛けた。
「ああ、後は任せます。じゃリオン、ここでお別れだ。また様子を見に来たりするからね」
「はい、ありがとうございました」
リオンは頭を下げた。
「じゃ、行こうか。ついて来なさい」
フクシュマーはリオンにそう声を掛けると階段の方へと歩き出した。
「この階段は年寄りにはきついが、あんたくらいなら楽な方だろうね」
フクシュマーは辛い辛いと階段を上がっていく。
「どこ出身だね?」
フクシュマーはリオンに訊ねた。
「ティムレオンです」
「ああ、海鮮の美味しいところだね」
「はい、港町です」
「あそこは、海鮮にレモンを絞って食べる料理があるね。何て名前だったかね、えー」
「リリンの爽やか盛です。この料理を考えた人の名前が付いているのです」
「そうだった。良く知っている。さすが地元の子だね」
「はい・・・・・・」
ストリニキアに教わった付け焼刃が役に立ったわ。リオンは胸をなでおろした。実際によく食べた記憶がある。新鮮な魚の切り身に塩を振りレモンを絞ったこの料理は確かに美味しいものだった。
「さて、着いたよ。あんたの部屋だ」
フクシュマーは階段から廊下へと歩きすぐ近くのドアの前で止まった。
「気に入ると良いけどね」
彼女はドアを開け、リオンに入るよう言った。
「・・・・・・」
その部屋は大きな窓があり、窓の桟は日を受けてリオンの顔に影を落とし、牢獄のようだと彼女にそう思わせた。
「大きな窓だろう?この窓にはソファも小さいけど付いている、夜は月が綺麗に見えて良い部屋だと思うよ、どうだい?」
「ええ、そうですね。月が綺麗なのは素敵だと思います」
「そうだろう、気に入ったみたいだね。良かった」
ふふとフクシュマーは満足そうに笑うとリオンを見た。
「そうだね、今日はもう疲れただろうから、この部屋でゆっくりするといいよ。食事の時間になったら誰かを呼びに行かせるから待っておいで」
「はい、ありがとうございます」
「うん、良い返事だ。じゃ私は仕事があるからね、失礼するよ」
「はい、案内ありがとうございました」
良い子だとフクシュマーは嬉しそうに部屋を出て行った。
「―・・・・・・」
リオンは彼女がいなくなった途端、その場に崩れ落ちた。
「もう無理、どうしてイリスと一緒がいいって、もっと言えなかったのかしら」
リオンは顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いた。
「どうして、あの人の前では聞き分けのよい人になるの?アイン・フォード、彼に何があるの?」
―あの時彼の手を見て、この手を離さない様にと願ったばかりなのに。何故、私は自分の本当の気持ちに忠実じゃないの?こんなにも今心が苦しいのに。
「・・・・・・」
リオンの後悔と共に涙が堰を切って流れる。
「やっぱり、寂しいわ。イリス、傍に居て、姉さまの隣に居て・・・・・・」
リオンはいつしか、泣きながら眠りについた。窓の側で涙の後を残して。
―それからしばらくして、フクシュマーがリオンを呼びに来た。
「返事が無いって、呼びに行った子はそのまま帰って来たよ、全く。晩御飯の用意ができたよ。今日はシチューだよ」
返事の無かったので、彼女は部屋に入って来た。
「・・・・・・眠っているのかい。泣いていたのかね」
フクシュマーはリオンの頬に涙の後を見つけ、ふう・・・・・・と溜息をついた。
「ここに来る子は皆そうなるね。さて、起こすのも可哀想だし、目が覚めた時の為に、一応食事を運んでおこうかね」
そう独り言を残しフクシュマーは部屋を出て行った。




