第八十三話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
こうして、一週間が過ぎ、何もなかった砂漠の砂丘の向こうに街らしきものが、漸く見えてきた。
「イリス!街よ。きっと街」
リオンは嬉しさで、声を上げた。そして、アイン・フォードの顔を窺った。
「ええ、あれが砂漠の街カーウェイクです」
「あれが、カーウェイク・・・・・・」
何度もストリニキアに教わった街。砂の色の向こうに白い建物が見える。近付くとそれは幾つかの塔が連なっているようだ。
「街の前に何か動物がいるわ、何かしら?」
リオンはその存在に気付くとそう呟いた。
「あれは駱駝といって、砂漠を移動する時に使う馬のようなものです」
アイン・フォードがそれに対して答えた。
「駱駝ですか・・・・・・」
リオンは駱駝は名前だけストリニキアに習ったが、実物は想像できないでいた。
「近くで見れば、姿が変わっていますから、面白いですよ」
「そうですか、どんな姿をしているのかしら」
「見てのお楽しみです」
「早く行きましょう、カーウェイクへ!どんな所か早く見たいです」
リオンは急に元気が出たのか、疲れ切った足を動かし前へ前へと進み出た。
「―・・・・・・」
しかし、思ったよりリオンの身体は動かなかった。
「カーウェイクは逃げませんから、慌てずゆっくりと行きましょう」
「そうですね、気持ちだけは前に行きたいのですが、無理みたいです」
「焦らず、ゆっくりです」
「はい」
彼らは牛が歩く速度で、カーウェイクの街へと焦らずゆっくりと向かって行った。
「何もかもが凄いわね、イリス」
彼らはカーウェイクの街の入り口で、もう大興奮となった。
煌びやかな金具に装飾品、宝石、様々な刺繍を凝らしたカーウェイクの衣装。大道芸人が奏でる音楽。うるさいほど騒がしい街にリオンの心はすっかり奪われてしまっていた。
「さっき見た駱駝も面白い動物だったけど、この街はどれも興味が湧くわ、素敵だわ」
リオンはすっかりはしゃいだ様子だった。
「・・・・・・」
アイン・フォードは急に、リオンとイリスの手をしっかり握った。
「え?」
リオンは手が彼と繋がっている事に驚いた。
「しっかり、この手を離さない様にして下さい。人買いにさらわれてしまいますから」
「ええ?はい」
リオンは戸惑いながら、彼の言葉に従った。
―ここは危険な所なのね。こんなに人を惹きつけてやまない所なのに。
「・・・・・・」
街の人々の視線が、自分に向けられているような気がしてリオンは下を向いた。
「―・・・・・・!」
リオンの目に自分の手を握るアイン・フォードの手が飛び込む。
―私の手より大きな手。繋いだ手だけ異様に熱い気がするわ。・・・・・・意識しすぎかしら。少しリオンの顔に紅が射す。
―彼の手を離さない様にしなくちゃ。今も、これからも。
リオンは自分の手を引くアイン・フォードの後姿に何故かそう誓った。何故誓ったのかリオン本人も理解していない行動だった。
「さあ、目的の場所に来ました。よく頑張りましたね」
アイン・フォードは茶色の大きな扉の前に着くと、そう姉弟に告げた。




