第七十六話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
「―旅立つのだな」
ストリニキアは寂しそうに二人を見つめた。ティムレオンの民としての教育が済み、無事にリオン達はこの大地を旅する日となった。
「身体に気を付けて下さい。お酒はほどほどにして」
リオンがそう言うと、おお・・・・・・と嗚咽するとストリニキアは二人を愛おしそうに抱きしめた。
「無事に君達の居場所を見つけられるように祈っているよ」
「はい、ありがとうございます」
「髪染めは持ったね?」
「はい、大量に」
「髪染めの商人として旅しなさい。二人とも髪を染めるのに困らない。この銀髪は目立つから欠かさず染めなさいね」
「はい」
リオンとイリスは銀髪を薄茶色に染めている。この街には様々な人種が集まり銀髪は目立たなかったが、この行く先は目立つのだという。
―気を付けなければ。
リオンは頭に被ったフードをより目深にした。イスの地の者と知られれば殺される・・・・・・。なんて恐ろしい事を言いふらしたのだろう。一体誰が?リオンはこれからの事を考えると、言い触れた張本人に文句を言ってやりたい気分だ。
「さあ、お行き。ワシの涙が枯れぬうちに」
「お元気でいてください。あなたの幸せを心から祈ります。ありがとうございました」
リオンはありったけの感謝をストリニキアに送った。
「・・・・・・もう、もう行け、行きなさい」
「さようなら」
リオン達が去って行く。
「・・・・・・別れはいつも辛いものだ」
ストリニキアは一人残った勝手口のドアを閉めようとした―が突然カイトが現れたので泣くどころではなかった。
「な、な・・・・・・お前いつから居たのだ?」
「最初の別れの言葉から」
「何を聞いた?」
「そうですね色々と聞いて想像するに・・・・・・彼女達は、イスの地の人なのでは?」
「お前!」
ストリニキアは一気に殺気立ち戦闘態勢に入った。
「まあ、安心してください。僕の胸の中に留めておきます。あんな美しい人を食べるなんて考えたくもない。彼女達を危険に晒したくない。先程の事は無かったことにします。だから、その隠し持ったナイフを収めて下さい、わが師よ」
「黙れ!そんな事を言って、大金を得ようとする輩だろう!お前は」
「僕は詩人で芸術家。お金よりも大切なものが幾つもあります。僕もリオンを愛しています。彼女に被害を及ぶことはしません」
「・・・・・・」
ストリニキアは彼が信じるに値するのか迷った。我が弟子をいかに扱うか・・・・・・迷いどころだ。
「詩を聞いてください。今思いつきました。彼女・・・・・・リオンの」
「詩どころではない」
「私はあなたを裏切らない。彼女が悲しむ。彼女を危険に晒したくはないのです」
「・・・・・・ナイフは収めん」
「そのままでいいので聞いて下さい。我が最高の詩を」
銀細工の揺らぐ髪に、黄昏時のひとときの蒼い星を湛えた瞳の美しい人。
美しい瞳が向けるそのまなざしは、その瞳に映る人は、悲しいけれど僕ではない。
美しい人への想いは届かない。そして彼女は去り行く、この街から永遠に。
僕を置いて行く。銀細工のきらめきだけ僕に残して。心に煌めきだけ残して。
「・・・・・・恋しているのか、リオンを」
彼の詩を一通り聞くと、ストリニキアは少し体の力を抜いた。
「一生の恋です」
カイトは悲しく笑う。
「何故追いかけん?もう二度と戻らないぞ」
「彼女は僕を必要としていません。彼女には彼がいる」
「わかるか?」
「はい、僕の一方的な恋なのです。それ以上は望まない」
「・・・・・・恋がお前を成長させたな」
「先生」
「いつでも恋は人を変えるものだ」
ストリニキアは肩から力を抜くとカイトに笑って見せた。
「いかかでした?僕の詩は」
「まだまだだな。瞳の描写がまだなっていない」
「彼女の瞳の深い色に煌めくさまを描きたいのです。どうすれば?」
「まあ、カイトそう急くな。この恋は一生しがんで詩の源にしなさい。お前は良い娘に恋した。一生の恋だ。お前は良い詩人になる」
―本当ですか?嬉しそうに笑うカイトをストリニキアは家へと招いた。二人の姿が居なくなるとこの街の潮騒の音が響いた。静かなその音は彼らの別れを繰り返し歌っているかのようであった。




