第七十二話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
「痛たたっ」
カイトはアイン・フォードに手首を掴まれ締め上げられていた。アイン・フォードの表情は非常に冷たいように感じる。
―俺の女って・・・・・・。
リオンはその言葉にカッと真っ赤になった。
「き、君は何者だ?」
カイトはアイン・フォードに手首を掴まれ身動きできないでいたが、口だけは動くようだ。
「こいつの男だ。わかったらサッサとこの場から離れろ」
アイン・フォードはカイトの手首をキリキリと締め上げた。
「わああ!わかりました!許して下さい」
「とっとと、行け!」
「はい!はい!」
カイトは慌てて駆け出して行った。
「・・・・・・」
残った二人はカイトの後姿を遠くなるまで見続けた。
「ちょっと、俺の女ってどういう事です?」
気まずくなる前にリオンは慌てて、そうアイン・フォードに質問した。
「その方が説明が要らないだろう。長々と説明するのか?今までの事を」
アイン・フォードは悪びれた様子もなくそう言った。
「―・・・・・・」
このアイン・フォードに言っても仕方ない。もう一人に言っても困惑するだけだろう。そう、彼には二人の人格があるようなのだ。今表に出ているのは悪魔アイン・フォードで、リオンに対してぞんざいな扱いをする。イスの地でイリスが行方不明になった時に現れたもう一つの顔だ。悪魔アイン・フォードというのはリオンが心の中で勝手につけたものだ。もう一人は天使アイン・フォードだ。これもリオンが勝手に命名したものだ。最初に出会った時の人格が主に現れる事が多い。天使の方はリオンの心も穏やかなのだが、悪魔の時は彼に振り回されるので苦手意識がある。
「もう一人の方を表に出して下さい。あなたでは話にならないです」
「ふむ、恥ずかしくて出られないと言っているぞ」
―仕方ないわ、彼、恥ずかしがり屋さんだから。リオンは肺が空になるくらいの息を吐いた。
「とにかく、今度からそういうのをやめて下さい」
「そういうの?」
「俺の女とか言うのを」
「ふーん」
アイン・フォードは赤くなるリオンを見つめニヤニヤと笑った。
「やめて下さい」
「何を?」
「人を見て笑うのを」
「これは失礼」
彼は急に真顔になってリオンに礼を取った。その瞳は淡い水色をしていて奥に天使が覗いているように感じた。その色は天使の彼が大人になった色のように見えた。彼は大人になっていく。背もリオンの頭一個分は高い。髪も伸ばし細く括ってある。さらりと彼の髪が彼の胸元に流れる。アイン・フォードの手が、リオンの頬に触れたせいだ。
「―やめて下さい」
リオンは彼の手を叩いた。
「―・・・・・・」
私の心はまだ、イシュマール様の方がいいのよ。アイン・フォードの触れた頬が赤くなろうが、それを振り払いリオンは傾きかけた心を元に戻した。
「あなたが戻って来たという事は私達は旅に出るのでしょうか?」
リオンは落ち着きを取り戻し、そう質問した。
「まあ、そう急ぐな。ストリニキアの家に向かおう」
アイン・フォードは、そうリオンを促した。




