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第六十九話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 街が静かな眠りにつき、空が淡い月明りに彩られた深い夜に、一つの部屋に灯りが灯る。今から彼らの密かな勉強の時間が始まる。テーブル一つ置かれた部屋にはストリニキアにリオン、イリスが口を閉ざしたまま何かを書き続けていた。静寂の中三人はテーブルを挟んで語り合っていた。音は微かだが彼らは多くの事を伝えあっていた。声は無くとも石板に書かれた文字は速く口頭よりも大切な事を伝えるのに最適だった。

―ここがカーウェイク。商人たちの街だ。

ストリニキアは地図を指し示しながら石板に名前を書き込んだ。

―あらゆるものがここでは手に入ると言われている。金がここではすべての街なのだよ。

次々とストリニキアは地図上の街の特徴を上げていく。ストリニキアにかなりの事を学んだが世界については今回が初めてだった。地図に書かれている湾岸線は紙の端で切れていた。まだこの大陸は続いているという事なのだろう。

―ランドールの人々は皆何処へ行ったのですか?

リオンはそう石板に書き記した。

―彼らの行く先を知る事は、その者達を危険に晒す事に繋がる。ランドールから来た者の一番の敵は周りの人間だ。しかし、この土地の生活に慣れ、ランドールの文化を忘れる事が出来れば、何も恐れることなく生きて行けるだろう。私もランドールを離れティムレオンに辿り着き長い時を過ごした。確かに二度と帰る事の無い故郷を持つのは悲しい。しかし、私はランドールを離れて良かったと思っている。ランドールに帰れなくても私にはティムレオンがある。私はランドールを出て、この潮騒を手に入れたのだ。私は死ぬまで、この潮騒の音の中で生きて行くだろう。リオン、君にも私のような場所が見つかる事を祈っているよ。

ストリニキアはさらさらと、紙にそう書くと破り、辺りを照らす蝋燭の先につけ、火を灯すとバケツへと素早く入れ火を治めた。長い文章の時、ストリニキアは紙に書き素早く火にかけ消し止める。その速さは魔法のようだった。

「先生いますか?夜分にすみません」

イリス達が居る二階より下にある玄関の方で聞き慣れた男の声がする。

「カイトか、夜はここに来るなと言ってあるのに言う事を全くきかん」

ふうーと息を吐きストリニキアは、ここで待つのだよとイリス達に声をかけドアを開け出て行った。カイトはストリニキアの弟子で、詩人を目指す若い男だ。長身で線が細い色も白く弱々しい。しょっちゅう首に巻いた布がはらりと肩から落ちるのでイライラと肩にかけ直すのが彼の特徴だ。

「先生、とてもいい詩が出来たので感想を教えていただきたく馳せ参じました」

カイトの張り切った声が聞こえる。

「そうか、しかし今は夜だ、カイト。明日見てやるから今晩は帰ってくれ」

「すぐに読み上げます。お時間を取らせません」

「今は詩を聞かないぞ、カイトや。すぐに帰りなさい」

「とてもいい詩なのに」

「その詩今読み上げるとワシは二度と講評しない」

「ああ、それは困ります」

「じゃ、帰ってくれるか」

「そ、そうですねぇ」

「どうなんだ」

「わ、わかりました。明日朝一番に来ます」

「それも、困るが、まあいいだろう」

では、失礼しますと大きな声でカイトは帰って行った。

「全く人の迷惑もわからん奴だ」

ストリニキアは鼻息荒くドアから入って来た。

「ああいう人間にいい詩が書けるのかね」

怒り気味にストリニキアはドアを強く閉めた。

「ああ、すまない。今宵はここまでとしようか。とんだ邪魔が入ったな」

もう寝なさいとイリス達には優しい声音で言うと、先程の訪問に対して怒りが収まらないのか、全く、全くとぶつぶつと呟きながら自分の部屋に向かって行った。


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