第六十八話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
光は真上から肌に強い熱さを残し降り注ぐ。
―もう夏なのだとリオンは思った。影は全ての形を地面に映し出していた。
ここの影は青い色をしている。石灰岩に塗られた壁の色は太陽の光を受けながらもほのかに青い。白に統一された街の色は雲の白さと海の青が溶けたかのよう。二、三人の子供がリオンの横を駆け上がってゆく。曲がりくねった坂を振り返ればストリニキアの家の窓が見える。
・・・・・・もうあの家に来て一年になる。
アイン・フォードはストリニキアにイリスとリオンを預けて旅に出た。彼が帰って来るまで、この土地の全てをストリニキアに教わり続けなければならなかった。二人はティムレオンの土地の者として生きるようストリニキアに夜になると生活の細かいところまで叩き込まれた。ストリニキアはランドール出身の詩人だった。太った長いひげを蓄えた笑い声が豪快な老人だ。ティムレオンでそこそこ有名な詩人で教師でもあった。ランドールの出身という事は伏せてある、トマの一族に頼まれ、ランドールからの客人がティムレオン出身の者として生きるために、この地の言語、風習などを教え、客人を世界へと旅立たせた。なぜこのような事をしなければならないのか、ランドールの出身と分かれば、この世界の者たちから殺されるからだ。ランドールはここの土地の者にはイスの地と呼ばれている。イスの地は彼らにとって伝説の土地なのだ。黄金と進んだ文明が島に残っているという。そのイメージは彼らの朧げな夢物語に過ぎないが人々はその夢の島を探し求めた。そして、彼らの目的は不老不死の妙薬の原料。イスの地の人の血肉を煮詰めた物を口にすれば、不老不死になるという伝説を彼らは信じているのだ。本当はこのような効果は無いのだが、どうしてこのような伝説が生まれたのか。それは、ランドールの知識を広めない為、誰かが故意に流した噂が始まりだった。効果はてきめんだった。この地に辿り着いたランドールの人々は、その故意に広められた噂に怯えながら、この世界を生きているのだという。知識がある事がばれると、殺される・・・・・・ランドールの人々は貝の様に口を閉ざし、この世界を生きるのだ。噂を広げた者の思惑通りになっているのが現状だ。
―だからこそ、あなたはこの世界を生きてゆけるのです。
リオンは昔母が自分に言った事を思い出していた。私は多くの事を知らなかった。知らない事で私はこの世界で生きて行ける。
・・・・・・うん、とリオンは頷くとストリニキアに頼まれた買い物をする為市場へと足を向けた。




