第六十七話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
二人が部屋の扉を開け、外気の風へと駆け出した時には、海は光に満たされ、船の行方の先の彼方まで色を与え始めていた。その色に広がる海を行く人のランドールの民が、リオンと同じように通り過ぎて行った。そして今イリスとリオンはその海を行く。
「―何処までも海しかないのね」
リオンは空と海の狭間に伸びる水平線を見つめ呟いた。
「アイン・フォード様この世界にはこんな悲しい海の世界が広がっているのですか?私達の世界が特別過ぎたのですか?」
あの緑色で覆われた小さな空間は何よりも代えがたい世界だった。
「・・・・・・世界は海と大地に分かれています。今辺りが空と海に満たされているように見えるのは、それは世界が広く私達が小さい存在だからです。あなたが見ているのは世界のほんの一部分にしかすぎません。世界にはこの風景と反対に空と大地しか見えない場所だってあるのですよ」
「本当に何も知らないのね、私は・・・・・・」
「―だからこそ、あなたは、外の世界で生きてゆけるのですよ。ランドールで知らされていなかったことを今からあなたは学べばいいのです。あなたの行く世界は知る事を許されているところなのですから」
「・・・・・・」
リオンは自分の髪の流れる先を見た。船が進んだ後を波が穏やかな表情を形作ってゆく。船が来た方向を指し示すものは何もない。
―もう帰れない・・・・・・、帰れない。
リオンは何度この言葉を嘆けばいいのだろう。彼女は船の進む先を見た。
・・・・・・あれが私を待つ世界。後ろを向いている暇はない。
時はリオンの意思とは関係なく動いてゆくのだ。この船と同じように。
雲が広がる空の向こうに次第に形作られたものが見える。
「―まもなく、港が近付いて来ます。見えてきたでしょう」
アイン・フォードの指差す方向に岩陰の大きな形が次々と現れ始めた。その岩は大きく船が近付くにつれ、大きさがはっきりしてくると、リオンは言葉を失っていた。空と大地の境目は何処までも続き、果てなど無いように見えた。
「―広いでしょう。これは、マルーガ大陸。海と変わらない大地が広がる土地の名です」
「大陸・・・・・・これが、空と大地しかない風景のある所なのですか?」
「そうです。私達が旅するところです」
「―ランドールの人々は皆この地に辿り着くのですか?」
「彼らの行方は一切知らされてはいません」
「・・・・・・そう、出会えるのでしょうか。彼らに」
そう言うリオンの問いにアイン・フォードは何も答えず、まじかに迫る大地の方を見ているようだ。
「・・・・・・」
リオンは答えを求めるように彼の視線の先へ目を向けた。銀の波頭は大地の狭間を駆け上がり光を散りばめ消えて行った。その崖の上に白い建物が幾つか並んでいるのが見えてきた。船は白い建物に吸い寄せられるように進んで行く。イルネシアの後ろの方に一隻、そして右手の方にも船が一隻。いつしか、イルネシアは多くの船に囲まれながら白い港へと帆を進めていた。大海を渡る船は銀に映る姿を海に残し港へと消えて行った。
港の名はティムレオン。イリスとリオンがランドールのある島を離れ初めて訪れた港の名である。




