第六十四話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
その夜、両の腕に花を抱いたリディアは月明りの中、死の道へ旅立とうとしていた。波の色は穏やかで月の光を照りつけながら、重い鉛のような揺らぎがゆっくりと、うねっているような緩やかな表情をしていた。人々の祈りの声が低く響く。トマの一族の人々がリディアを海へと弔ってくれている。リオンとイリスは姉の亡骸に最後の別れをした。顔や髪に触れ彼女の白い手を見た。その手は固く凍り付いたように動かなかった。
―本当にこの人は姉さまなの?
リオンが見るリディアの顔は、ほのかに白く土に還るものの色をしていた。もう二度と動くことの無い乾いた抜け殻のようだった。人形の様に飾り立てられ死者はリオン達の手を離れ海の波の中へと押し流されていく。
「―連れて行かないで!」
リオンは叫んだ。あれは抜け殻なんかじゃない。姉さまは生きていた。生きていたのだ。ランドールの国の中で美しく微笑んで。固く動かなくなった手は、リオン達をいつも優しく包み込んでくれていた。
「―姉さま!」
波は静かにリディアの亡骸を海の果てへと連れて行く。そうして、次第に海の奥へと彼女を永遠に眠らせるのだ。浜辺に人のすすり泣きが、潮風に乗って切れ切れに聞こえる。その人々の塊の中から、一人が立ち上がり死者への祈りを呟いた。
月は連れ去る
揺らぎ消ゆる
この世の別れを
波は繰り返す
その生と死の狭間において
我は魂の解放を願う
肉体の楔を切り
魂だけの存在になるその日を




