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第五十九話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 イリスが意識を取り戻した時、傍らには彼が最も心配していた二人が揃っていた。リオン姉さまに、アイン・フォード様良かった。それと、トマがいる・・・・・・そして?

―母様?

銀色の髪は確かに母のものに似ていたが、その人の持つ雰囲気は、何処か遠い昔の影の色をしていた。

「・・・・・・?」

イリスはこの見知らぬ人に声をかけようとした。

―あなたは誰?

イリスがそう言った時、皆の表情が一斉に曇る。

「・・・・・・」

彼は口を動かした。その口から出る声は、ひゅうひゅうと吐く音だけが聞こえた。

「・・・・・・」

イリスは喉元を探るようにしながら口を動かした。繰り返し、繰り返し、イリスは口を動かした。その事実を認めたくない様に。

「イリス!」

リオンは弟の涙を身体ごと受け止めるように抱きしめた。

「・・・・・・」

イリスの動かし続ける口元から、一つ、二つと涙が落ちる。その口から痛々しいほどの音が漏れる。彼の声が失われた事を知った悲しい音だった。

「―イリスごめんね。ごめんなさい。姉さまのせいなの、あなたをこんな風になったのは、私があなたを一人にしたせい・・・・・・。ひどい姉さまだわ。母様に頼まれていたのに、イリスを最悪な形に追い込むなんて」

リオンは畳みかけるように、イリスに謝り続けた。そうする事で自身を責めるしか、今のリオンには出来ることは何もなかった。弟に謝罪の言葉を並べながら、力のない自分が悲しくもあった。

「リオン、決してあなただけの責任ではありません。ここに居る皆がイリスを孤独へと追い込んだのです。そして、闇の声に捕らわれようとなったのは、イリス自身の心の弱さ、仲間の信頼を失った結果なのです。それは、あなたの弟イリス自身がよくわかっていることでしょう。そうでしょう、イリス」

彼女はそう言うとイリスの返事を待たずに、すぐに話し始めた。

「あなたが最後に上げた声、呪文により、あなたは声を失ったのです。それは、“闇”の手から、あなたに託された言葉を守る唯一の手段だったのです」

イリスは抱きしめられているリオンの肩越しに、そう語る女性を見た。

(―あなたは、誰?)

イリスは母に、どことなく似ている女性に訊ねた、声の出ない唇で。

「私の名は、ソルヴェイグ。あなた方が呼んでいたものと同じ名を持つ者です」

イリスの口の動きを見て、彼女はそう名乗った。

「ソルヴェイグ?」

リオンは振り返り彼女を確認するように見つめた。リオンは今初めて彼女の名前を知った。イリスの事が心配で突然現れた彼女に名を聞く余裕も無かったのだ。

「―そうです。私は森の奥に居ながら、いつも傍に居ました。この鳥の目を通して、あなた方と共に居たのです」

ソルヴェイグは、イリス達がよく知っている鳥を目の前に差し出した。

「ソルヴェイグ!」

彼女は、リオンの呼びかけに動こうとはしなかった。まじかで見る彼女の体は何処か生物の形をしていない様にも思えた。

「―?これは?一体どういう事です?」

「この者は、ダルモン。私の使い手です。森を離れる事の叶わぬ私に、唯一外の世界を見せてくれた言わば人形のようなもの。私にはとても大切な存在でした・・・・・・」

「この鳥、ソルヴェイグが人形・・・・・・」

「先の時代の産物なのです。生き物ではありませんが、我らはこの者達を、とても愛しておりました」

「―じゃ、あなたは本当の・・・・・・」

イシュマール様の奥様なのですか?リオンは後の言葉を飲み込んだ。

「リオン、あなたとはよく争ったものですね。楽しい時間でしたよ。ランドールでの日々は」

「そんな事、全然知りませんでした。何も・・・・・・」

こんなにも美しい人だったなんて、リオンのなりたかった理想全てが、そこに存在しているようだった。リオンにとって届かなかった存在が、永遠に自分のものにならない事を知らされた瞬間でもあった。

―あのイスターテの霧の銀の輝き。あれは触れることの無い領域。一瞬の光にも似た人・・・・・・。

「・・・・・・」

イリスの唇は震えながら、目の前に居る者が何者かを呟いていた。

「そうですよ、イリス。初めまして、というべきなのかしらね。―さあ、一緒に初めて見る新しき世界を見に行きましょう」

ソルヴェイグはそう言うとイリスに微笑んで見せた。


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