第五十話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
イリスは暗闇の中に居た。全てが重く”闇”が長くかけて、この場所に溜まっているかのように漆黒は、イリスの周りを纏い囲んでいた。自分の手も見えないほどの真から黒の中で、イリスは光を探し求め続けた。
―“闇”の中だ。これに捕まったらお仕舞いだ。
目を閉じた時でさえも見えるこのような“闇”はイリスの体感としてあり得ない。その”闇”はイリスの身体に絡み付き彼の心を恐怖で蝕もうとしていた。
―光、光を求めなければ。―光、僕の心。大事な声、大切な人。ランドール。母さま姉さま。イリスは目を閉じ、自分の心の支えを心に映し出した。
―母さま。
心に浮かぶ母の姿は光に淡く滲み、いつしか白い光となって広がっていった。
・・・・・・光の道がある。
再びイリスが目を開けた時、彼の視界には光の道筋が、薄い闇の中幾つもの数を生して、彼の足元に降り注いでいた。イリスは少しでも光のある方へと頭を動かした。イリスは光にあたると、その温かな温もりに、安心したように漸く身体の緊張を解いた。
上を見るとそこには木の天井があった。目が慣れてくると様々な事が見えてきた。暗い色をしているが、ここは民家で木造で、壁の板の木の節から光が差し込んでいた。そして、自分の横たわっているところはベッドで、何者かが、ここに自分を運び出してくれたらしいことがわかってきた。
・・・・・・人、人がここに居る。イリスの緊張が再び走った。
―今は誰とも会いたくないのに。再び誰かを疑い傷つく事になる。
イリスは身を起こし自分の荷物を探した。
「まだ、身体を休めた方がいいよ」
その声はイリスの背中越しに聞こえた。
「―・・・・・・」
イリスはその声が振り向かなくても、誰だかすぐにわかった。
少しの間をおいて、振り返った自分の顔は、彼にどんな酷いものに映っている事だろう。
「―僕はどうしてここに?」
「君を探しに森へ入ったんだ。ソルヴェイグがここに来て君の事を知ったんだ。イリス、君が無事でよかった」
トマは薄暗がりの中、微笑んだように見えた。
「―何かが僕に覆いかぶさってきたんだ。何か恐ろしいものが」
「森が水を湛えている時は、低い地に足を踏み入れてはならない。これは、僕ら商人に伝えられている決まりの一つでね。この決まりを犯すと、必ず死につながると教えられているんだ。イリスが襲われたのは、この決まりを知らずに穴に入り込んだからさ。森の土が湿っている時は、穴の中に悪霊が溜まっていると言われている。そいつらは目に見えない。穴の中に入った者に、急に覆いかぶさって、息の根を止めようとする。そうやって亡くなった者は数多くいる。だから、決まりは絶対なんだ。他にも守らなくてはならない決まりごとはたくさんある。商人は決して決まりを破る事はしない。それは全て死と関係があるからなんだ」




