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第四十四話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 リオンは弟が完全に見えなくなるまで、アイン・フォードの前に立ちはだかり、彼の動きを止めようと必死だった。

「―」

アイン・フォードはかなり苦しそうに咳き込んでいる。

「・・・・・・」

リオンはアイン・フォードを目の前にしてどうすべきか迷っていた。弟が無事森から逃れられるまでの間、その間だけでも彼を止められたら。彼は”闇“なのだ。どう私が対応できるだろうか。リオンはその為に道具を頭の中で探し求めた。

(何か紐になるものを・・・・・・)

リオンはカバンの中に手を入れようとした。その時自分の横顔に影がよぎるのを感じた。

「―!」

リオンは影が落とすものの正体の視線を見て意外な印象を受けた。

「・・・・・・」

彼は怒った表情も、悲しい感情も、何も表せない静かな顔でリオンを見下ろしていた。

「―ど、どうして?“闇”のものに効くはずよ、その飲み物は」

アイン・フォードはリオンの問いに答えず、ただ深い溜息を吐いた。

「パライソが入っていたな。確かに・・・・・・このやり方では効き目は少ないぞ。しかし、ひどく不味いな。後は何を入れたんだ?配合を間違えたのか?」

「え?どうして」

戸惑うリオンにアイン・フォードは畳みかけるように続けた。

「リオン・ランド・シータ。誓って言おう。私は決して“闇”には降らない者なのだ。だからこそ、イスターテは私に全てを任せたのだ」

「でも、確かにこの薬草に苦しんだはず」

「飲んでみるがいい。かなり不味い」

アイン・フォードはリオンに少し残った薬草の入ったカップを差し出した。

「・・・・・・」

リオンはカップに恐る恐る顔を近づけた。そして一口飲んで見た。

「―!」

不味い!リオンは激しい咳が出て苦しんだ。これでは普通の人でも苦しむ。私は何という事を。

「けれど、あなたは・・・・・・どうしてこんなにも恐ろしい瞳をしているのです?時に人が変わったかのよう」

「確かにランドールに来てから、私の心は私にも理由がわからないほど、不安定だった。”闇”の者として疑われても仕方ないほどに。その事であなたを不安に陥れていたとは思わなかった。すまないと思っている」

「どうして、そんな不安定になるのです?“闇”に憑りつかれていたからじゃないの?」

「―それは違う。私が人生で初めて陥った感情の為、不安定だったのだ。その理由がわかったから、今までのような事はないだろう」

そう話す彼の瞳はいつもより優しく、少し笑みが入っているように見えた。

「―本当に“闇“の者ではなかったのですね・・・・・・そうなると、私とんでもない間違いを犯したことになるのですね」

「―この道は光と大地に守られている。所々途切れているが、静かに歩き続ける事を心掛けておけば、“闇”に襲われる事はない」

アイン・フォードはリオンの言葉の返事を避け、道の先を指し説明した。彼の声の響きは優しくリオンを責める事はなかったが、リオンは彼の顔を見る事が出来なかった。

「しかし、今となれば君の弟を探す事が先決だ」

アイン・フォードは厳しい横顔を向け呟いた。

「薬草を何か持って来たのか?見せなさい、役に立つかもしれない」

リオンは彼に持っている薬草全てを差し出した。

「アイオエン、フェムリムル・・・・・・ふむ、これだけあれば何とかなるだろう」

アイン・フォードは受け取った薬草をより分けると、自分の持っている香油を垂らし布に包み込んだ。

「これを姫君、握りしめ森を駆け抜ける間、祈り続けなさい」

「祈るという事は何か唱えるのですか?」

布に包まれた薬草は涼やかな若葉の匂いがした。

「エイヴァオムと」

「エイヴァオム」

リオンはもう一度彼の言葉を繰り返した。

「今から馬を呼ぶ、“闇”に確実に見つかる行動をする。あなたのする事はその馬の背に乗って、その言葉を心の中で繰り返す事に集中する事だ。ただそれだけを繰り返す事、いいかな?」

リオンは息を飲み込むように頷いた。


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