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第四十二話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 アイン・フォードは、ソルヴェイグを肩にのせ彼らを待っていた。その彼の射すような視線を二人はぎこちない態度で受け止めた。彼の淡い瞳にも、その態度にも“闇”に操られているようには見えない。

―人を疑うような事をしたくないのに・・・・・・。

イリスは彼の視線が、自分を責めているように感じて、とても辛かった。

「では、行きましょうか。この先も辛いでしょうが、次の休憩地まで歩きます」

「はい、わかりました」

・・・・・・アイン・フォード様は、僕らの態度に疲れているように感じたのかもしれない。彼の心遣いにイリスは胸を痛めた。

―もし、彼が“闇”のものなら僕らは何処へ行けというのだろう、こんな森の中で。

イリスは姉から預かっていた金のネックレス、鞄から取り出し、その一粒をちぎりながら、五歩歩くごとに落としていった。

・・・・・・これでイスターテまで帰る道しるべになればいいけど。

イリスはその金色に光る粒の列を、祈るような気持ちで振り返った。この青く苔むす道の上に並ぶ石のあるイスターテのもとへ、再び自分達の力で戻ってくる自信は無かった。

―これからすることは、おそらく自分の分岐点になるだろう。

イリスはカラカラの喉に手を当て唾を飲み込んだ。

こうやって、全ては決められていく。僕の運命の道は始まったばかりだというのに。アイン・フォード様が“闇”に降るなんてあり得ない。イリスはアイン・フォードが“闇”である可能性である考えを無理に押し出すように、彼の学士を信じることにした。本当にアイン・フォードが“闇”の者であったら、イリスの旅もここで終わりになってしまう。そんな事態になる可能性があるのなら、エリアンも忠告してくれたはずなのだ。

イリスは自分自身を落ち着かせる為、そう結論を出すと顔を上げ歩く足に力を入れた。




 イスターテよりしばらく歩き続けた頃、リオンの足取りが遅れ始めたのをみて、アイン・フォードが休憩にしましょうかと二人に告げた。

「姉さま大丈夫?」

リオンの足は肉刺(まめ)でつぶれ靴の中は血が滲んでいた。

「こんな事になるなんて、思わなかったわ。弱いわね私は」

「お二人ともこのように長い事外を歩く事をしていらっしゃらなかったから、足が赤ちゃんのように柔らかい。だから皮が捲れるのです。これから何回も同じことがあるでしょう」

「皮が捲れるとどうなるのです?」

「捲るたびに固い皮へと変化していきます。よく歩く旅人の足は固いですよ」

アイン・フォードはリオンの足に薬草をあて布で巻いてみせた。

「―まだ、日が高いですが休んで、今夜はここで過ごしましょう。リオン様の足も明日にはよくなっているでしょう」

一行は朽ちた木の幹の空いた大きな穴を選んで、そこで一晩過ごした。月明りの夜の間イリスはアイン・フォードの事が気掛かりで、被るマントの隙間から彼の様子をうかがっていた。アイン・フォードの様子は、いつもと変りなく絶えず辺りを警戒するような動きをし続けていた。

―ずっとアイン・フォード様は一晩中あのような事をしていらっしゃるのかしら

長い夜の間、アイン・フォードは、ランドールでの古人の丘で見せた横顔で遠くを見つめる事があった。その姿は思い悩んでいるようであり、何かを振り返っているようにも見えた。どちらにしても彼が悲しそうなことだけは、はっきりとしていた。

―何を思っているのだろう。イリスは彼が静かに夜の闇を見つめる姿を見ながら、緊張が解けたように、一気に深い眠りの中へと入っていった。


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